慢性腎臓病にともなう心血管疾患を日米で比較 心臓の収縮力低下が危険因子 肥満抑制が心血管疾患の予防に
心血管疾患と左心室の収縮力・左室肥大の関連に着目 日米で比較
心血管疾患は、慢性腎臓病患者に合併しやすい重大な疾患だが、世界各国で実施された臨床研究で、日本を含む東アジアでは米国や欧州に比べ、罹患率が低いことが示唆されている。しかし、各国で実施された研究であり、「腎機能」「尿タンパク」「心臓病の既往歴」「糖尿病患者の割合」などの背景因子はそれぞれの研究で異なる。
過去に日米で比較した研究はあるものの、個別の患者データを用いた研究ではなく、両国の背景の違いがどの程度影響するかは明らかになっていない。そこで、名古屋大学などの研究グループは今回、個別の患者データを匿名化したものを合わせて解析し、その答えを見出そうと試みた。
昨今、心血管疾患のなかでも、腎機能の低下にともない、うっ血性心不全を発症する患者が増加しており、これまでの研究で、心臓の構造と機能は、将来の転帰を予測するための重要な指標となることが知られている。
そこで研究グループは、こうした心臓の構造と機能のなかでも、左心室の収縮力と左室肥大に着目。その指標を媒介して日米間の心血管疾患の違いをどの程度説明できるかを調べた。
米国は日本に比べ心血管病の発症のリスクが3~5倍高く、心臓の収縮力は10%以上低い
研究グループは、日本の前向きの慢性腎臓病コホート研究である「CKD-JAC研究」と、米国の前向きの慢性腎臓病コホート研究である「CRIC研究」のデータを使用。
CKD-JAC研究の対象者2,966人中1,097人で、CRIC研究の対象者3,939人中3,125人で、それぞれ心臓超音波検査を実施しており、合計4,222人を解析対象とした。
推算糸球体濾過率の平均値(標準偏差)は、それぞれ28.7(12.6)mL/min/1.73m²、42.9(16.9)mL/min/1.73m²であり、尿中アルブミン・クレアチニン比の中央値[四分位範囲]は、それぞれ520[135~1338]mg/gCr、46[8~424]mg/gCrだった。
最大5年間の追跡期間を設定し、心血管疾患、死亡、末期腎不全に着目して解析を行った。
その結果、米国では日本に比べて、年齢、性別、腎機能などの背景を揃えた集団で、心血管病の発症のリスクが3~5倍高く、心臓の収縮力は平均で10%以上低く、左室肥大をもつ患者が2倍近くに上ることが明らかになった。
心臓の形や働きの違いが、日米間でどの程度、心血管疾患全体、うっ血性心不全、死亡率の違いに寄与するのかを、媒介効果分析で解析。
その結果、慢性腎臓病患者に対しては、心臓病や脳卒中などの症状がはっきりと出る前から、心臓超音波検査を実施して将来に備えることが重要であることが示された。
さらに、左室肥大に対しては、肥満と炎症が関係することが分かり、さらに肥満と炎症同士も関連することが明らかになった。
肥満度が増すと左室心筋が肥大 収縮力が低下し心臓のポンプ機能が低下
心エコー所見の日米比較結果では、米国のCRIC研究対象者の方が、左房径、左室心筋重量係数が大きく、左室駆出率は低いことが分かった。左室心筋重量係数は、左心室の直径や壁の厚みから計算された左室心筋の重量を体格で補正したもの。
これは、心臓の壁の厚みが厚く、広がりにくさを反映して、左心室の手前にある左心房に血液がうっ滞して広がっていることを示唆している。うっ血の早期には、左房径が拡大する現象がよくみられる。さらに、収縮力の低下から、ポンプ機能の低下もみられることが分かった。
そして、CRIC対象者では、心臓の中隔が不釣り合いに厚くなっていることが、特徴的な形態変化として示された。これは肥大型心筋症でよくみられる所見で、病的な所見であることが示唆される。
さらに、左室肥大は、さらにBMIときれいな相関関係をもっており、肥満度が増すと左室心筋も肥大していくことが示された。肥満度が増すことで、炎症を示す指標CRPの上昇もみられることから、肥満を抑制することで左室肥大を防げる可能性が示唆された。
肥満を抑制し、定期的な心エコーの実施で早期の危険信号を察知し対処することが重要
研究は、名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部データセンターの今泉貴広特任助教、同大学大学院医学系研究科腎臓内科学の丸山彰一教授、兵庫県立西宮病院腎臓内科の藤井直彦氏、名古屋市立大学腎臓内科の濱野高行教授、東海大学医学部医学科内科学系腎内分泌代謝内科学の深川雅史教授、ペンシルベニア大学臨床疫学生物統計学部門Harold I. Feldman教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」に掲載された。
今回の研究で、日米で心血管疾患と死亡のリスクに大きな開きがあることが示された。個別の患者情報を用いることで、背景の違いを均して比較することが可能になり、その結果、予想以上に日米の違いがあることが明確になった。
さらにその違いを、(1) 左室肥大、(2) 収縮力低下、(3) その両者でどの程度説明できるか、ということを媒介効果分析によって数値化できたとしている。
「とくに、うっ血性心不全においては、心臓の収縮力低下と左室肥大を合わせて70%にも上ることが明らかになり、心臓超音波所見の重要性が浮き彫りとなりました」と、研究グループでは述べている。
「この研究により、慢性腎臓病患者に対して、肥満を抑制すること、そして定期的な心エコーの実施で、早期に危険信号を察知して対処することの重要性が明らかとなりました。腎臓内科医の慢性腎臓病患者に対するケアの見直しを迫る、インパクトをもつ研究となりました」。
「これから"心不全パンデミック"を迎える日本にとって、慢性腎臓病患者の心不全の発症を少しでも減らすために、心血管疾患の危険性を早期にアセスメントすることは重要です。また、肥満をともなう慢性腎臓病の割合の高い米国でも、肥満への対策を講じることで、同様に心不全をはじめとした心血管疾患の抑制できる可能性があることが分かりました」。
「昨今、心不全に対する新たな治療が次々に生み出され、治療戦略もシフトしてきていることから、今後も継続的に国際比較研究を実施することが重要と考えます」としている。
なお、CKD-JAC研究は、日本腎臓学会の管理のもと、協和キリンの支援により実施され、CRIC研究は、米国国立衛生研究所(NIH)などの研究助成を受けて実施されている。
名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部
名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学
Excess risk of cardiovascular events in patients in the United States vs. Japan with chronic kidney disease is mediated mainly by left ventricular structure and function (Kidney International 2023年2月2日)