SU薬(グリベンクラミド)の重症脳梗塞治療への有効性を検討 梗塞のサイズによって有用である可能性 国立循環器病研究センター
グリベンクラミドが脳梗塞にともなう脳浮腫の抑制に有用である可能性
研究は、国立循環器病研究センターの豊田一則副院長が国際顧問と国内代表者を務める国際無作為化比較試験であるCHARM(Glibenclamide for Large Hemispheric Infarction Analyzing mRs and Mortality)試験によるもの。同試験は、日本を含む世界21か国で実施された。研究成果は、「Lancet Neurology」にオンライン掲載された。
研究グループは、糖尿病治療に使われるSU薬であるグリベンクラミドが、サイズの大きな脳梗塞(広汎脳梗塞)での浮腫抑制の効果を示すことに着目し、同薬を用いた広汎脳梗塞患者の治療効果を検討した。広汎脳梗塞は、脳浮腫をともない増悪し、死亡や高度障害の原因になる。
その結果、全体的には有意な治療効果は示されなかったが、再灌流療法の適応となる梗塞のサイズが125mL以下の患者では、グリベンクラミドの投与が、プラセボ投与と比較し、副作用である低血糖はやや目立ったものの、有用である可能性が示された。
再灌流療法は、脳梗塞急性期に行われる血栓溶解薬t-PAの点滴治療あるいはカテーテルを用いた血管内治療での血栓回収を示す。
「広汎脳梗塞は、脳浮腫をともない増悪し、死亡や高度障害の原因となる。糖尿病治療薬であるグリベンクラミドの静注薬が、脳浮腫の抑制に有用なことが分かってきた」と、研究者は述べている。
「脳梗塞の劇的な後遺症改善の効果が期待できる血栓回収療法が有効な患者は、128mLくらいまでの梗塞サイズと考えられている。たとえば、このような患者に、血栓回収療法とグリベンクラミド投与を併用したらどうなるかなど、今後の研究の進展が期待できる」としている。
90日後の修正ランキンスケール
グリベンクラミドによる広汎脳梗塞への治療効果は証明できなかった
90日後の修正ランキンスケール:梗塞サイズ125mL以下の患者に限定
125mL以下の脳梗塞患者に限定すると良い傾向が認められた
CHARM試験には日本を含む世界21ヵ国143施設が参加
広汎脳梗塞は脳浮腫をともない、頭蓋内圧上昇や脳ヘルニアを引き起こして、死亡や高度障害の原因になる。このような広汎梗塞に対して、主に救命目的に開頭手術を行うことはあるが、浮腫を軽減できる薬物治療は限られている。
神経細胞などに存在するスルフォニルウレア1-一過性受容体電位メラスタチン4と呼ばれるイオンチャネルが開口すると、脳梗塞後の細胞傷害性浮腫や血液脳関門破綻に関与する。
半世紀以上にわたり、脳梗塞の経口治療薬として用いられていたグリベンクラミドを静注で投与することで、このイオンチャネルが阻害され、浮腫を抑制することが動物実験で示されている。また、少数例の脳梗塞患者への臨床試験GAMES-RPでも、広汎脳梗塞患者にグリベンクラミドを静注投与することの安全性が示されている。
そこで研究グループは、次いで多数例で、グリベンクラミドの治療効果を明らかにするため、CHARM試験(ClinicalTrials.gov NCT02864953)を実施した。
同試験は、日本を含む世界21ヵ国143施設が参加した、第3相、二重盲検、無作為化、実薬-プラセボ比較試験。18~85歳の発症から10時間以内に試験薬投与が可能な、広汎脳梗塞患者が組み入れられた。
「広汎梗塞」の基準として、実測で80~300mLか、あるいはASPECTSと呼ばれる早期虚血を半定量的に計測する10点満点の尺度(点数が低いほど傷害範囲が広い)で1~5かのいずれかを満たす場合とした。
患者を無作為に、グリベンクラミド(総量8.6mg)とプラセボのどちらかを72時間かけて静注投与するよう、1:1に振り分けた。
対象患者のうち70歳以下が688例に達することを目標に、2018年8月より登録を開始したが、COVID-19の蔓延による登録遅延などを理由とした支援企業の判断によって、2023年5月の535例登録時点で、新規登録を中止した。
今回の研究では、70歳以下の患者431例(グリベンクラミド群217例、プラセボ群214例)に対象を絞って治療の有効性を評価した。
性別は女性が32%/34%(それぞれグリベンクラミド群/プラセボ群)、平均年齢58.0歳/58.7歳、アジア人20%/21%、神経学的重症度(42点満点で点が高いほど重症な尺度であるNIH脳卒中スケールの中央値)19/19、静注血栓溶解療法施行率38%/39%、経皮的血栓回収療法施行率19%/19%だった。
その結果、修正ランキンスケール(0~6の7段階の尺度で点が高いほど障害度が高く、6は死亡を示す)を用いた90日後の自立度は、両群間で有意差がなかった[オッズ比 1.17、95%信頼区間 0.80~1.71]。
安全性に関しては、何らかの重篤有害事象が、グリベンクラミド群の77%、プラセボ群の68%に生じたが、このうち低血糖はそれぞれ6%と2%だった。
登録患者の条件をさらに絞って解析を行ったところ、125mL以下の梗塞を有する患者では、グリベンクラミド群の修正ランキンスケールの分布が、より自立患者が多い傾向が示された。
「今回の研究の主たる結果からは、広汎脳梗塞へのグリベンクラミドによる治療効果は証明できなかった。また、古典的糖尿病治療薬の宿命的な副作用である低血糖が、プラセボ群に比べてやや目立った。これらはけっして有望な結果とは言えない」と、研究者は述べている。
「ただし、125mL以下の脳梗塞患者に良い傾向を認めたことは、臨床的に意義深いと考えられる」としている。
2024年5月に発表された、国立循環器病研究センター脳血管内科の井上学特任部長らによる研究では、脳梗塞の劇的な後遺症改善効果が期待できる血栓回収療法が有効な患者は、128mLくらいまでの梗塞サイズであることが示された。
「たとえば、そのような患者に血栓回収療法とグリベンクラミド投与を併用したらどうなるかなど、今後の研究の進展が期待できる」、研究者は指摘している。
なお、今回の研究はバイオジェンより資金的支援を受け実施された。
国立循環器病研究センター
Intravenous glibenclamide for cerebral oedema after large hemispheric stroke (CHARM): a phase 3, double-blind, placebo-controlled, randomised trial (Lancet Neurology 2024年12月)