糖尿病・肥満症治療薬のGLP-1受容体作動薬が内視鏡検査後の誤嚥性肺炎のリスク増加と関連
GLP-1受容体作動薬を使用すると胃が完全に空にならない可能性が
研究は、米シダーズ サイナイ医療センター消化器学・肝臓学部門のAli Rezaie氏らによるもの。研究成果は、5月にワシントンDCで開催された消化器疾患週間(DDW)2024で発表され、「Gastroenterology」に掲載された。
誤嚥性肺炎は、嚥下機能の低下した高齢者などに多く、高齢化にともない増加している肺炎患者数の多くは誤嚥性肺炎であることが報告されている。口腔内の細菌、食べかす、逆流した胃液などが誤って気管に入ることで発症し、肺炎球菌や口腔内の常在菌である嫌気性菌が原因となることが多いとされている。
一方、GLP-1受容体作動薬は、血糖降下作用に加えて、食欲中枢への働きかけにより、食欲の抑制、満腹感の維持といった効果があり、体重減少作用が認められている。
「これは食物が胃のなかに長く留まるということを示しており、これにより誤嚥のリスクを減らすために外科手術に先立ち推奨される通常の絶食期間中に、胃が完全に空にならない可能性がある。GLP-1受容体作動薬の半減期が長くなっていることも、誤嚥のリスクにつながる」と、同センターの消化管運動プログラムのディレクターを務めるRezaie氏は指摘する。
「内視鏡検査中あるいは内視鏡検査後の誤嚥はとくに深刻で、重篤な場合は呼吸不全、ICU入室、さらには死にいたる可能性もある。軽度の症例であっても、綿密なモニタリング、呼吸補助、抗生物質を含む投薬が必要となる場合がある。誤嚥の発生を防ぐために可能な限り予防措置を講じることが重要だ」としている。
研究グループは今回、2018年1月~2020年12月に、上部あるいは下部内視鏡検査を受けた96万3,184人の米国患者の匿名化されたデータを使用し、結果に影響を与える可能性のある他の変数を考慮し解析した。このうち4万6,935人がGLP-1受容体作動薬を使用しており、91万6,249人は使用していなかった。
その結果、GLP-1受容体作動薬を処方された患者は、処方されなかった患者に比べ、内視鏡検査の前に使用していた場合、誤嚥性肺炎が発生する可能性が33%高いことが判明した[HR 1.33、95%CI 1.02~1.74]。発生率はGLP-1受容体作動薬の使用者では0.83%、非使用者で0.63%だった。
さらに、GLP-1受容体作動薬を使用している患者の誤嚥性肺炎のリスク増加は、上部内視鏡検査を受けた患者[HR 1.82、95%CI 1.27~2.60]、および上部下部内視鏡検査の組み合わせを受けた患者[HR 2.26、95%CI 1.23~4.16]でのみみられ、下部内視鏡検査を受けた患者ではみられなかった[HR 0.56、95%CI 0.25~1.27]。
「GLP-1受容体作動薬による誤嚥性肺炎のリスク増加は小さいが、このリスクを米国で毎年実施される2,000万件以上の内視鏡検査にあてはめると、患者が事前に安全にGLP-1受容体作動薬を中止することで誤嚥を回避できるケースは、実際には多数存在する可能性がある」と、Rezaie氏は指摘している。
なお、米国麻酔科学会(ASA)は、誤嚥のリスクを減らすために内視鏡検査や外科手術の前にGLP-1受容体作動薬を使用するのを控えることを推奨するガイドラインをすでに公表しており、米国消化器病学会(AGA)も、内視鏡検査の前にGLP-1受容体作動薬を中止することを推奨するエビデンスは不十分としながらも、そうした患者への個別的なアプローチを推奨している。
Popular Obesity Drugs May Lead to Medical Procedure Complications (シダーズ サイナイ医療センター 2024年3月27日)
Increased Risk of Aspiration Pneumonia Associated With Endoscopic Procedures Among Patients With Glucagon-like Peptide 1 Receptor Agonist Use (Gastroenterology 2024年3月27日)