慢性腎臓病(CKD)のリスク因子は糖尿病・高血圧 ゲノムワイド関連研究(GWAS)で解明 日本人20万人の腎機能をGWASメタ解析

2024.08.20
 国立がん研究センターなどは、約20万人の日本人を対象とした、腎機能のゲノムワイド関連研究(GWAS)のメタ解析の成果を発表した。

 推算糸球体濾過量(eGFR)について169遺伝子座、血清クレアチニン値(SCr)について176遺伝子座をそれぞれ同定し、7番染色体上のCD36 rs146148222 SNPをSCrと関連する新規座位として同定した。

 CD36遺伝子の変異は、血漿中の脂肪酸やトリグリセリドの異常、インスリン抵抗性をともなう代謝異常と関連している。

 「日本人を対象とした最大規模のゲノムコホート研究による今回のGWASメタアナリシスにより、日本人の腎機能に関連する座位がいくつか分かった。近い将来、ゲノム情報にもとづく腎臓疾患の個別化の予防の開発に貢献できる可能性がある」と、研究者は述べている。

慢性腎臓病(CKD)のリスク因子をゲノムワイド関連研究(GWAS)で解明

 慢性腎臓病(CKD)は、糖尿病や高血圧などがリスク因子となり、末期腎不全や心血管疾患のリスク要因となるため、その予防は公衆衛生学的に重要だ。

 一方で近年、ヒトの全ゲノムにわたる一塩基多型(SNP)を中心とする、遺伝子多型と病気や病気の診断指標となる検査データに関する関連解析であるゲノムワイド関連研究(GWAS)が盛んに行われており、がんや循環器疾患などの生活習慣病の遺伝的要因が次々と明らかになっている。

 CKDについても、国内外でGWASが行われはじめているが、10万人以上の日本人の大規模健常人集団を対象としたGWASはまだ報告されていなかった。

 そこで国立がん研究センターなどは、日本分子疫学コンソーシアム(J-CGE)により、国内大規模のゲノムコホート研究である多目的コホート研究(JPHC Study)、東北メディカル・メガバンク(TMM)、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC Study)の3大ゲノムコホート研究のGWASデータおよびバイオバンクジャパン(BBJ)のGWAS要約統計量公開データを用いて、GWASメタ解析を行った。

 J-CGEは、国内の分子疫学研究グループによる共同研究体で、JPHC Study、TMM、J-MICC Study、BBJに加えて、愛知県がんセンター病院疫学研究(HERPACC)、鶴岡メタボロームコホート研究(TMCS)の6つの研究で構成され、日本人のがんなどの生活習慣病の原因究明と個別化予防に資する研究を推進している。

脂肪酸・トリグリセリド・インスリン抵抗性に関連する遺伝子を同定

 研究グループは今回、腎機能の指標として、推算糸球体濾過量(eGFR)と血清クレアチニン値(SCr)をアウトカム指標とした。

 推算糸球体濾過量(eGFR)について169遺伝子座、血清クレアチニン値(SCr)について176遺伝子座をそれぞれ同定し、7番染色体上のCD36 rs146148222 SNPをSCrと関連する新規座位(既知の座位から1Mb以上離れている座位)として同定した。

 CD36遺伝子の変異は、血漿中の脂肪酸やトリグリセリドの異常、インスリン抵抗性をともなう代謝異常と関連している。

 腎臓は循環から脂肪酸を取り出し、脂肪酸酸化(FAO)は腎臓の酸素消費量の50%以上を占めることが示されている。

 CD36はマクロファージでの酸化LDLの取り込みに関与しており、腎障害マウスでは酸化LDLの沈着が腎尿細管で観察され、線維化と相関している。

 CKDでのFAOの減少は、脂肪酸の合成、摂取、消費のバランスを崩すことにつながり、腎線維症に重要な役割を担っている。

 脂肪酸のミトコンドリア移行は、FAOの律速段階であり、CD36はその機能を介してFAOに重要な役割を果たしていると考えられるとしている。

推算糸球体濾過量(eGFR)について169遺伝子座、血清クレアチニン値(SCr)について176遺伝子座が同定され、7番染色体上のCD36 rs146148222 SNPがSCrと関連する新規座位として同定された

出典:国立がん研究センター、2024年

CD36遺伝子SNPは日本人に特異的 腎機能への病因的関与を示唆

 研究グループは今回、eGFRを日本のGFR基準にもとづいて推定し、JPHC Studyの2,741人、TMMの4万744人、J-MICC Study 1万1,268人、BBJ 14万3,658人の計19万8,411人をGWAS対象者として解析した。

 SCrについては、JPHC Studyの2,741人、TMMの4万744人、J-MICC Studyの1万1,268人、BBJの14万2,097人の計19万6,850人をGWAS対象者とした。

 統計解析は、SCrとeGFRのそれぞれの値を性・年齢・主成分で補正後、正規化して線形回帰分析を行った。ゲノムワイド関連解析の有意水準は、P < 5×10-8とした。

 なお、今回の研究でみいだされたCD36 rs146148222 SNPは、日本人に特異的なSNPであり、GTEx発現データベースに含まれていないため、その機能的意義はまだ不明だが、CD36遺伝子の多くの機能的SNPが今回のGWASで見いだされたCD36 SNPとLDであることから、日本人の腎機能でのこのSNPの病因的関与が示唆されるとしている。

 「今後は、今回の関連の独立したサンプルでの検証が待たれるとともに、CD36をはじめとする遺伝子型に基づく腎臓病予防法につながることが期待される」と、研究グループでは述べている。

日本分子疫学コンソーシアム(J-CGE) (国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
GWAS meta-analysis of kidney function traits in Japanese populations (Journal of Epidemiology 2024年4月6日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

脂質異常症の食事療法のエビデンスと指導 高TG血症に対する治療介入を実践 見逃してはいけない家族性高コレステロール血症
SGLT2阻害薬を高齢者でどう使う 週1回インスリン製剤がもたらす変革 高齢1型糖尿病の治療 糖尿病治療と認知症予防 高齢者糖尿病のオンライン診療 高齢者糖尿病の支援サービス
GLP-1受容体作動薬の種類と使い分け インスリンの種類と使い方 糖尿病の経口薬で最低限注意するポイント 血糖推移をみる際のポイント~薬剤選択にどう生かすか~ 糖尿病関連デジタルデバイスの使い方 1型糖尿病の治療選択肢(インスリンポンプ・CGMなど) 二次性高血圧 低ナトリウム血症 妊娠中の甲状腺疾患 ステロイド薬の使い分け 下垂体機能検査
NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療-減量・代謝改善手術- 骨粗鬆症治療薬 脂質異常症の治療-コレステロール低下薬 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症 FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 褐色細胞腫

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料