糖尿病患者のGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の併用 先行薬剤により腎臓の保護に違いが 横浜市立大学
2型糖尿病合併CKD患者にGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を併用
GLP-1受容体作動薬先行群ではアルブミン尿が大きく減少
慢性腎臓病(CKD)は、とくに糖尿病を合併する場合には、心血管疾患や末期腎不全にいたるリスクが高く、これらの疾患を有する患者への治療効果が期待されている薬剤に、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬がある。どちらの薬剤も血糖降下作用があり、腎臓への保護的作用も有することが分かってきた。
近年、両者の併用療法が単剤療法と比べて、より腎臓にとって有益である可能性も示されているが、両剤の併用療法で使用する薬剤の順番が腎保護に与える影響は不明だった。
そこで横浜市立大学などの研究グループは、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を実際に併用した患者のリアルワールドデータを用いて、どちらの薬剤の先行群が腎アウトカムを改善するかについて検討した。
実際にGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を併用した438人の日本人2型糖尿病合併CKD患者のデータをもとに、傾向スコアマッチングとWin ratioいう解析手法を用いて検討した。傾向スコアマッチングは、共変量を調整して因果効果を推定するバランス調整の統計手法、Win ratioは、複合エンドポイントに優先順位をつけて解析を行う統計手法。
その結果、傾向スコアマッチングでは、腎複合アウトカムの発生率は、GLP-1受容体作動薬先行群は10%、SGLT2阻害薬先行群は17%となり、2群間で差がなかった[オッズ比 1.80、95%CI 0.85~4.26、p=0.12]。
しかしWin ratioを用いた解析では、GLP-1受容体作動薬先行群の勝率(Win ratio)は1.83[95%CI 1.71~1.95、p<0.001]となり、SGLT2阻害薬先行群よりも有意に高く、GLP-1受容体作動薬の先行投与の方がより腎保護的である可能性が示された。
また、ベースラインからの対数化アルブミン尿(LnACR)変化は、GLP-1受容体作動薬先行群で有意だったが、SGLT2阻害薬先行群では有意ではなかった。とくにGLP-1受容体作動薬先行群では、SGLT2阻害薬の併用療法の追加後にアルブミン尿の大きな減少が認められた。
追加時 対 併用治療後:-0.37[95% CI マイナス0.68~マイナス0.06]、p=0.02
先行治療薬による勝率(Win ratio)の違い
GLP-1受容体作動薬の先行投与の方がより腎保護的であることが示された
研究は、横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学の塚本俊一郎助教、田村功一主任教授、小林一雄客員准教授(神奈川県内科医学会高血圧・腎疾患対策委員会委員、内科クリニックこばやし院長)らの研究グループが、東海大学腎臓内分泌代謝内科の豊田雅夫准教授、福岡大学内分泌・糖尿病内科の川浪大治教授らと共同で行っているRECAP研究で明らかにしたもの。研究成果は、「Diabetes, Obesity and Metabolism」にオンライン掲載された。
「本研究は、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の併用療法での先行薬剤の違いが、CKD患者の腎アウトカムに与える影響を検討した世界初の研究成果だ。CKD患者数が世界的に増加している現代で、研究成果は今後のCKD治療の進歩に大いに貢献することが期待される」と、研究者は述べている。
横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学
Effect of preceding drug therapy on the renal and cardiovascular outcomes of combined sodium-glucose cotransporter-2 inhibitor and glucagon-like peptide-1 receptor agonist treatment in patients with type 2 diabetes and chronic kidney disease (Diabetes, Obesity and Metabolism 2024年5月19日)