日本糖尿病学会「GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解」公表 美容・痩身・ダイエットなどに不適切使用
日本糖尿病学会が見解を公表「薬剤の適正な処方を」
日本糖尿病学会は2023年4月12日、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解を公表した。
一部のクリニックなどで、2型糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬を、適応外使用である美容・痩身・ダイエットなどを目的とする自由診療での処方を宣伝する医療広告が散見されるのを受けたもの。
「医師とくに本学会員においては、不適切な薬物療法によって患者さんの健康を脅かす危険を常に念頭に置き、誤解を招きかねない不適切な広告表示を厳に戒め、国内承認状況を踏まえた薬剤の適正な処方を行ってください。また、特に本学会専門医による不適切な薬剤使用の推奨は、糖尿病専門医に対する国民の信頼を毀損するもので本学会として認められるものでないことを警告します」としている。
また、「肥満症を適応とする新規薬剤の臨床試験では、BMIならびに肥満に関連して有する健康障害についての参加基準が厳格に定められています」としている。
GLP-1受容体作動薬の一部は肥満症治療薬として承認されている
2型糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬には、膵臓のβ細胞に作用して血糖値を下げるインスリン分泌を促したり、α細胞に作用して血糖値を上げるグルカゴン分泌を抑える働きがある。また、空腹感を軽減し、満腹感を高めることにより、食事の量を減らしてカロリー摂取量を抑え、体重減少を促す。
GLP-1受容体作動薬の一部については2023年3月に、肥満症治療薬として厚生労働省より承認された。
適応症は肥満症だが、「ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。▼BMIが27kg/m²以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する、▼BMIが35kg/m²以上」とされている。
また、世界初のGIP/GLP-1受容体作動薬も、2023年4月に発売されたが、効能・効果は2型糖尿病だ。
同剤の構造は、天然GIPペプチド配列をベースとした単一分子だが、GLP-1受容体にも結合するように改変されており、選択的に長時間作用し血糖値を改善する。
GLP-1受容体作動薬が一部で"痩せ薬"として不適切使用されている
日本医師会も2022年6月に、糖尿病治療薬である「GLP-1受容体作動薬」が、一部で「GLP-1ダイエット」などと広告・宣伝され、"痩せ薬"として不適切使用されている実態について、強い懸念を表明している。
日本医師会では、これまで糖尿病治療について、日医が日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、日本歯科医師会と協力し、「日本糖尿病対策推進会議」を設立するとともに、『糖尿病治療のエッセンス』の作成などにより、啓発を進めてきたことを強調。
そのうえで、「糖尿病治療薬の一部が、個人輸入や美容クリニックで、"痩せ薬"として不適切に使用されている実態がある」と懸念している。
「健康な方が医薬品を使用することのリスクおよび医薬品適正使用の観点からも、このような行為を禁止すべきである」としている。
同薬には副作用のリスクや禁忌があることについても説明し、医薬品を投与する前提として、「リスクがあるとしてもなお、治療が必要で効果が期待される方に対して投与されるべきであり、国民の健康を守るべき医師が、治療の目的を外れた使い方をすることは"医の倫理"にも反する」と指摘している。
保険外診療については、「がんや難病など、生命に関わる病のため、保険外診療を選択せざるをえない患者以外への、不適切な投薬を防ぐ制度が必要なのではないか」と主張。
メディアに対しては、医薬品の適応外使用の実態と、それによって起こりうる健康被害を啓発するための周知への協力を要請している。
PMDAもGLP-1受容体作動薬の適正使用を呼びかけ 国民生活センターには苦情も
医薬品医療機器総合機構(PMDA)も2020年8月に、2型糖尿病の治療薬である「GLP-1受容体作動薬」が、ダイエットなどを目的とした適応外の使用をされているとして、注意喚起を行った。
「GLP-1受容体作動薬は、医師により添付文書に従って適切に処方・使用されることを目的とした医薬品であり、国内で承認された使用法以外で使用された場合、本来の効果が見込めないだけでなく、思わぬ健康被害が発現する可能性も想定される」と強調している。
2型糖尿病の治療薬である「GLP-1受容体作動薬」について、製造・販売している製薬企業4社は「適正使用に関するお知らせ」を公開している。
国民生活センターも2020年9月に、「GLP-1受容体作動薬を痩身目的で消費者に自己注射させるケースがみられる」として、「医療機関が医療広告ガイドラインやオンライン診療ガイドラインを遵守することなく、患者を誤認に導き、不安や健康被害を与える行為に反対する」としている。
実際に、「冷蔵保存する必要のある薬剤が常温で海外から届いた」など薬剤の処方、管理などに問題があるケースや、「副作用が出たためクリニックに相談したが、医師の対応がない」など副作用などが出た場合の対応が不十分なケースがみられたとしている。
関連情報
製薬企業からの適正使用等に関するお知らせ (医薬品医療機器総合機構 2020年8月)
自宅で完結?手軽に痩せられる?痩身をうたうオンライン美容医療にご注意!-糖尿病治療薬を痩身目的で消費者に自己注射させるケースがみられます- (国民生活センター 2020年9月4日)