SGLT2阻害薬による腎保護作用の新機序を解明 非糖尿病の慢性腎臓病のオートファジー障害を改善 大阪大学

2024.11.06
 大阪大学は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)の非糖尿病患者で腎保護効果を発揮するメカニズムの一部を解明したと発表した。

 SGLT2阻害薬は、糸球体過剰濾過を改善することで、尿細管へのアルブミン曝露量を減少させ、オートファジー障害を改善することが明らかになった。また、急性腎障害(AKI)を軽減することが確認された。

 これまで、糖尿病治療薬として使われているSGLT2阻害薬の腎保護効果が明らかになり、さまざまな機序が提唱されており、さらに最近の研究ではSGLT2阻害薬は尿タンパクの少ない非糖尿病患者でも腎保護効果が期待できることが示唆されているが、オートファジーに着目した機序は十分に検討されていなかった。

 SGLT2阻害薬は、尿アルブミンや糖尿病の有無を問わず、オートファジー障害を生じる多くの腎疾患に対し幅広い効果があり、腎機能低下・透析導入への進行を抑制する治療薬として幅広く活用されることが期待されるとしている。

尿タンパクの少ない非糖尿病患者でもSGLT2阻害薬は腎保護効果を発揮

 研究は、大阪大学医学部附属病院血液浄化部の松井翔氏(研究当時大阪大学大学院医学系研究科)、大学院医学系研究科の山本毅士特任助教、猪阪善隆教授(腎臓内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Autophagy」にオンライン掲載された。

 近年、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は、糖尿病だけでなく、非糖尿病の慢性腎臓病(CKD)進展を抑制することが明らかになっている。また、大規模なメタ解析から、急性腎障害(AKI)の発症を抑制する効果も示され注目されている。

 研究グループは今回、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)を用いた実験を行い、尿タンパクの少ないマウスモデル(肥満モデル・5/6腎摘モデル)で、SGLT2阻害薬が糸球体過剰濾過を改善することで、尿細管へのアルブミン曝露を軽減し、オートファジー障害を改善することを明らかにした。

 オートファジーは、細胞が自己成分を分解する機能で、細胞構成成分を分解し、エネルギーの再利用や細胞内小器官の修復に携わる。分解基質がオートファゴソームという二重膜小胞に隔離され、分解酵素に富むリソソームに融合することで分解が生じる。

 さらに、虚血再灌流モデルによるマウス実験では、SGLT2阻害薬はオートファジーを改善し、急性腎障害(AKI)を軽減させることも明らかにした。

 これらの結果により、尿タンパクの少ない非糖尿病患者でも、SGLT2阻害薬が幅広く腎保護効果を発揮する機序の一端が明らかとなった。

 糸球体過剰濾過により尿細管へのアルブミン曝露が増加すると、オートファジー障害が生じる。SGLT2阻害薬は、糸球体内圧低下と全身代謝改善により、尿中アルブミンの質と量を改善しオートファジー障害を改善する。その結果、CKD進展やAKI発症の抑制効果が期待されるとしている。

糸球体過剰濾過により尿細管へのアルブミン曝露が増加すると、オートファジー障害が生じる。SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン)は、糸球体内圧低下と全身代謝改善により、尿中アルブミンの質と量を改善しオートファジー障害を改善する。その結果、CKD進展やAKI発症の抑制効果が期待される。
出典:大阪大学、2024年

SGLT2阻害薬はリソソーム負担を解除しオートファジー障害を改善 腎保護効果を発揮

 研究グループは今回、近位尿細管におけるメガリンを介したアルブミン再吸収とオートファジーリソソーム系に着目し、SGLT2阻害薬の腎保護作用の機序を検討した。

 建機グループは、糸球体内圧が上昇する一方で尿タンパクが少ない高脂肪食2ヵ月モデル(肥満モデル)を用いて、野生型マウスに対して通常食、高脂肪食、高脂肪食+SGLT2阻害薬の負荷を行い、腎臓を評価した。

 高脂肪食では空胞病変が形成されたが、SGLT2阻害薬投与により改善した。この空胞は、リソソームマーカーであるLAMP1陽性でトルイジンブルー陽性であることから、リソソーム内リン脂質であることが分かり、高脂肪食肥満によるリソソーム負担は、SGLT2阻害薬投与により軽減していることが示された。

エンパグリフロジンはオートファジー依存的に虚血再灌流障害を改善させる
野生型マウスではEMPA投与により高脂肪食による腎障害の悪化が改善するが、近位尿細管特異的Atg5ノックアウトマウスではEMPAの腎保護効果が消失した。
出典:大阪大学、2024年

 野生型マウスに対して通常食、高脂肪食、高脂肪食+SGLT2阻害薬負荷を行い、PAS染色、免疫染色(茶色:LAMP1、青:メガリン)、トルイジンブルー染色を行った。PAS染色から高脂肪食で形成された空胞病変はSGLT2阻害薬投与で改善した。この空胞病変はリソソームマーカーであるLAMP1陽性でトルイジンブルー陽性であることから、リソソーム内リン脂質であることが判明。

 次に、SGLT2阻害薬は糸球体内圧を下げることが広く知られているため、メガリンを介したアルブミン再吸収量(尿細管への曝露量)がSGLT2阻害薬投与によってどのように変化するかを評価した。タモキシフェン誘導性近位尿細管特異的メガリンノックアウトマウスを作成し、肥満モデルマウスで尿中アルブミンを検証したところ、肥満モデルマウスでアルブミン再吸収量は増加したが、SGLT2阻害薬投与により軽減していることが分かった。

 タモキシフェン投与によりメガリンがノックアウトされると、メガリンを介して再吸収されるアルブミンは尿中に排泄されるため、タモキシフェン投与前後の尿アルブミン値の差をアルブミン再吸収量と定義した。肥満モデルマウスではアルブミン再吸収量が増加し、SGLT2阻害薬投与により軽減した。

 さらに、尿細管へのアルブミン曝露が減ったことで、オートファジーがどのように変化するかを評価するために、オートファゴソームをGFP陽性ドットとして可視化できるGFP-LC3トランスジェニックマウスを使用した。正確にオートファジー活性を評価するためにオートファジーを阻害するクロロキンを投与し、肥満マウスの摂食下と24時間絶食下でのGFP-LC3ドットの評価を行った。肥満マウスではオートファジー障害を認められたが、SGLT2阻害薬投与によりオートファジー障害は改善した。

 最後に、SGLT2阻害薬はオートファジー障害を改善させることで急性腎障害(AKI)に対して腎保護効果を発揮するかどうかを検証するために、タモキシフェン誘導性近位尿細管特異的Atg5ノックアウトマウスを使用し、虚血再灌流傷害によるAKIモデルで評価した。

 野生型の肥満マウスで虚血再灌流傷害による腎障害悪化を認められたが、SGLT2阻害薬投与により腎障害は改善した。一方、オートファジー不全マウスではSGLT2阻害薬による腎保護効果は認められなかった。これにより、SGLT2阻害薬はオートファジー依存的に腎保護効果を発揮することが示された。

 「薬剤を用いたオートファジー活性の調整はさまざまな疾患で試みられているが、単純にオートファジー活性を上昇させるだけではリソソームの機能に負担がかかるだけとなり、効果が得られない疾患が多数存在する。本研究では、SGLT2阻害薬が単にオートファジーを亢進させるのではなく、リソソーム負担を解除し、オートファジー障害を改善させることで腎保護効果を発揮することが明らかとなった」と、研究者は述べている。

 「肥満や糖尿病だけでなく、加齢にともなう腎老化でもオートファジー障害は生じている。今後、SGLT2阻害薬が幅広いCKD患者で、腎機能低下・透析導入への進行を抑制する治療薬として活用されることが期待される」としている。

大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学
Empagliflozin protects the kidney by reducing toxic ALB (albumin) exposure and preventing autophagic stagnation in proximal tubules (Autophagy 2024年10月14日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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