【新型コロナ】東京オリンピック開会式での感染は7つの対策で防ぐ 99%のリスクを低減 東京大学などがシミュレーション

2021.04.06
 東京大学医科学研究所などは、東京オリンピック開会式に参加する観客での、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクを低減するために、シミュレーションモデルを開発した。
 主催者と観客が協力して、7つの感染への対策を講じれば、感染リスクの99%を低減できるという。

主催者と観客が協力して対策すれば、99%のリスク低減を達成できる

 東京大学医科学研究所などは、東京オリンピック開会式に参加する観客での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクを低減するために、感染源−環境−受容体の経路を考慮したシミュレーションモデルを開発した。

 主催者と観客が協力して感染への対策を講じることで、99%のリスク低減を達成できるという。感染は、感染性保有者1人あたり0.009~0.012人に抑えられると推定される。

 研究は、福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座の村上道夫氏、愛媛大学沿岸環境科学研究センター生態系解析部門の三浦郁修氏、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター健康医療インテリジェンス分野の片山琴絵氏ら国内多施設の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Microbial Risk Analysis」に掲載された。

感染リスクの経路と対策
出典:東京大学医科学研究所、2021年

スタジアム内の観客の感染リスクを感染経路別に評価

 スポーツ大会などのマスギャザリングイベントは、COVID-19感染拡大のひとつの経路と考えられている。世界的に、物理的距離、マスク、ロックダウンなどの規制とともに、マスギャザリングイベントの自粛や延期も行われている。
 今夏に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックでは、リスク評価にもとづいた対策の重要性が増している。開催を実現するためには、科学と技術に裏打ちされた開催に関する議論と意思決定が必要だ。
 とりわけCOVID-19流行下で求められるのは、単に東京オリンピック開催による感染リスクがどの程度あるかといった評価だけではなく、対策することで感染リスクをどれだけ減らせるかという、解決志向のリスク評価を選択肢として示すことだ。
 感染リスク評価には、公衆の感染の経時的な予測などを目的とした「SIRモデル」と「環境曝露モデル」がある。
 COVID-19の感染経路として、▼感染性保有者からの直接曝露、▼直接吸引、▼環境表面接触、▼空気経由の4つがあり、それぞれの対策の効果を評価するために、各経路からの感染リスクを評価する必要がある。
 研究グループは今回、環境曝露モデルを用いて、各経路からの曝露にともなう観客の感染リスクを評価した。

6万人を想定し、7つの感染対策を考慮して算出

 研究グループは、感染性保有者から放出される新型コロナウイルスのウイルス量をシミュレートし、ウイルスの不活性化や移動などの時間的な環境行動をモデル化した。
 シミュレーションにより、対策を実施した場合と講じなかった場合のそれぞれで、新規感染者数の推定を行い、開会式に出席する6万人の観客の感染リスクを算出した。
 開会式の観客でのCOVID-19の無症状の感染性保有者の割合(P0)を10-6(100万分の1)から10-4(1万分の1)、抗体保有者はいないと設定し、「感染性保有者からせき」「会話」「くしゃみ」にともない放出されるウイルス量を計算し、環境中の動態、不活化や表面移動などを時間ごとに算定した。
 「直接曝露」「直接吸引」「環境表面接触」「空気経由」の4つの経路について、観客への感染リスクを推定した。

7つの対策をすべて行うと99%の低減率を達成できる

 考慮した対策は、(a) 入退場時の物理的距離、(b) 環境表面の除染、(c) スタジアム内の空気の換気、(d) 観客席のパーティショニング、(e) マスク、(f) 手洗い、(g) 髪の防護の7項目。
 このうち(a)~(d)は主催者側、(e)~(g)は観客側が実施する対策だ。曝露量に応じて感染リスクを算出し、それぞれのシナリオで1,000回のシミュレーションを行った。
 その結果、主催者と観客側の全7つの対策を行うと、99%の低減率を達成すると推定された。
 開会式の観客でのCOVID-19の無症状の感染性保有者の割合がP0。P0=10-6とは、スタジアムに入場した100万人中1人が無症状の感染性保有者であることを意味する。
 主催者と観客側の全7つの対策を行った場合の感染リスクは、P0=10-6から10-4の範囲で、平均値として1.2×10-8から1.1×10-6であり、P0に対する平均感染リスクの比は、0.009~0.012の範囲になる。
 これらの感染リスクを非感染者の観客人数と乗じ、オリンピック開会式による新規感染者人数(平均値)は、P0=10-6から10-4の範囲で、0.0007人から0.064人と算定された。

対策あり時の全体の感染リスク
全7つの対策あり時の全体の感染リスク
出典:東京大学医科学研究所、2021年

基本再生産数が1未満であれば、感染拡大を防ぐことができる

 以上より、2つの視座が提供された。1つ目は、開会式に参加した観客での感染性保有者の割合を示すP0に対する平均感染リスクの比。

 この指標に類似したものとして、基本再生産数(R0;1人の感染者が、抗体を保有しない集団で感染性保有期間中に感染させる人数を示す値)がある。一般に、R0が1未満の時、感染の拡大を防ぐことができるとされている。

 ただし、この研究は、5時間という限られた時間の開会式での事象であることに注意が必要となる。研究で全ての対策を行うことでP0に対する平均感染リスクの比が約0.01を達成した点は感染拡大予防の観点から顕著な意味があると考えられるという。

 2つ目は、新規感染者数の期待値だ。全期間中の東京オリンピック・パラリンピックの観客数は予定通りであれば1,000万人程度とされている。

 仮に、東京オリンピック・パラリンピックの観戦による新規感染者数の期待値を10人未満にしたいのであれば、開会式と他のイベントでの感染確率が同じと仮定すると、P0が5×10-5未満である必要が、100人未満にしたいのであればP0が5×10-4未満である必要あると考えられる。

 これは、おおむね、人口1,000万人あたり91人/日、910人/日の新規感染者数に相当する。なお、無症状者が存在することや検査に制限があることから、実際の新規感染者数は、検査によって確認された陽性者数よりも多いと考えられることに注意が必要だ。

スタジアム内での主催者と観客の協力的対策の実施は必要不可欠

 「東京オリンピック・パラリンピック開催にむけて取り組むべきことはいくつかあります。今回の研究で示唆されたように、P0を低く抑えること、およびスタジアム内での主催者と観客の協力的対策の実施は必要不可欠だと考えられます」と、研究者は述べている。

 「加えてスタジアム外での人の移動や集中による感染リスクなども含めて、東京オリンピック・パラリンピック総体としての観客のリスク評価と管理、選手やスタッフのリスク評価と管理も求められます。さまざまな困難が想定されるなかで、今、科学に求められる役割は、解決志向性をもった客観的知見の集積と視座の提示と考えられます」としている。

福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座
愛媛大学沿岸環境科学研究センター生態系解析部門
東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター健康医療インテリジェンス分野
COVID-19 risk assessment at the opening ceremony of the Tokyo 2020 Olympic Games(Microbial Risk Analysis 2021年3月21日)

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