脂肪を分解する新たな仕組みを発見 脂肪滴の分解を促進するタンパク質を解明 肥満・糖尿病・認知症の治療・予防に応用

リソソーム膜が脂肪滴を取り込むミクロリポファジーの分子機構を解明
研究は、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所疾病研究第四部の株田智弘室長、酒井了平研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」にオンライン掲載された。
脂肪を分解する仕組みとしては、これまでに主に2つの経路が知られており、ひとつは細胞質での分解、もうひとつはマクロオートファジーによる分解だ。これに加えて、最近になり哺乳類の肝臓の細胞で、リソソームが直接、脂肪滴を取り込んで分解する「ミクロリポファジー」という、脂肪滴に特化した経路が報告されている。
脂肪滴は、細胞内にある小器官であり、細胞内のトリアシルグリセロール・コレステロールエステルなどを蓄積し、細胞のエネルギー貯蔵庫として機能する。
肥満は、細胞内に中性脂肪などの脂質が脂肪滴として蓄積することで引き起こされ、2型糖尿病、脳梗塞、認知症、がん、など、さまざまな病気のリスクを高める。肥満状態では、白色脂肪細胞などの脂肪滴が過剰に肥大化していることが知られている。
これまで、リソソームと脂肪滴を橋渡しする分子メカニズムや、制御タンパク質についてはよく分かっていなかった。そこで研究グループは、リソソーム膜タンパク質であるLAMP2Bに着目し、脂質分解の制御の新たな分子メカニズムの解明を目指した。
LAMP2Bがリソソーム分解系に関与 阻害すると脂質分解が抑制
研究グループは今回、リソソームの働きを調べるため、マウスに高脂肪食を与え、肥満などの代謝異常を引き起こす実験を行った。野生型マウスでは、肥満やインスリン抵抗性、脂肪組織の炎症などの異常が引き起こされたが、LAMP2Bを多くつくらせた(過剰発現させた)マウスでは、こうした異常が大きく抑えられていた。
これにより、LAMP2Bタンパク質を過剰発現させることで、細胞内の脂質分解が促進されることが示された。この効果がリソソーム内の脂質分解酵素(LIPA)に依存していることから、LAMP2Bがリソソーム分解系に関与していることが分かった。
また、脂質分解の促進には、LAMP2Bの細胞質領域と脂肪滴のリン脂質一重膜の膜成分であるホスファチジン酸の結合が重要であり、LAMP2Bが橋渡しの役割を果たしていることが示唆された。
研究グループはさらに、光-電子相関顕微鏡を用いた観察により、脂肪滴がリソソーム内へ直接取り込まれる様子をはじめて捉えることに成功した。LAMP2Bタンパク質の発現を抑制すると、脂肪滴のリソソームへの取り込みが阻害され、結果として脂質分解が抑制されていることを確認した。


LAMP2Bが脂肪滴の分解を促進 脂質代謝のバランスを調節
「これらの結果から、LAMP2Bは脂肪滴の分解を促進することで、脂質の過剰な蓄積を抑制し、脂質代謝のバランスを調節する重要な役割を果たすことが明らかになった」と、研究者は述べている。
「今回の研究成果は、肥満やそれに関連する疾患に対する新しい治療法の開発に向けた重要な基盤となることが期待される。とくに、肥満に起因する慢性炎症やそれによるサイトカインストームの制御にもつながる可能性が示唆された。サイトカインストームは、炎症性疾患だけでなく、感染症やがんにおいても病態進展の鍵となる要因であるため、今回の発見は幅広い疾患への応用が期待される」。
「さらに、肥満と加齢にともない起こる認知症との関連も知られており、研究で明らかになったLAMP2Bによる脂肪滴分解の促進メカニズムが、肥満による炎症性メディエーターの抑制や脳内脂質代謝の正常化に寄与する可能性もある。このことは、中年期の肥満がリスク因子とされるアルツハイマー病をはじめとする認知症の予防にもつながると考えられる」としている。
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)神経研究所
The lysosomal membrane protein LAMP2B mediates microlipophagy to target obesity-related disorders (Cell Reports 2025年6月24日)