糖尿病発症前からリスクは増加 OGTT1時間値が170mg/dL以上だと死亡率は20年で上昇 日本人の糖負荷後の血糖値と寿命の関係を調査 東北大学など

2025.06.25
 血糖値が正常と診断された人でも、糖負荷後1時間血糖値が170mg/dL以上の群は、170mg/dL未満の群と比較して、死亡率が大幅に高いことが、東北大学などの調査で明らかになった。170mg/dL未満であると、心臓疾患や悪性腫瘍による死亡が顕著に少ないことも示された。

 正常とされる血糖値の範囲内でも、死亡リスクの低下につながる範囲があり、食後の血糖上昇に早期から対処することで、心臓疾患や悪性腫瘍の発症を予防し寿命を延ばすことにつながるとしている。

 研究グループは今回、岩手県大迫町の地域住民を対象に行われている前向きコホート研究「大迫研究」に参加し、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を受けた993人の集団のデータを解析した。

血糖値が「正常」とされた集団でも血糖値が高めだと死亡リスクは上昇

 研究は、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝・内分泌内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝・内分泌内科の今井淳太特命教授、片桐秀樹教授、佐藤大樹氏(現みやぎ県南中核病院)、東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の目時弘仁教授、佐藤倫広講師、帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座の大久保孝義主任教授らによるもの。研究成果は、「PNAS Nexus」にオンライン掲載された。

 岩手県の大迫町の地域一般住民を対象に1986年から約40年にわたり継続している大迫研究では、4年に1回、参加者にブドウ糖負荷試験を行っている。

 研究グループは今回、ブドウ糖負荷試験の結果を含むさまざまな検査結果のなかで、死亡リスクと関連するものの探索を行った。

 その結果、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の糖負荷後1時間血糖値が170mg/dL以上の群では、170mg/dL未満の群と比較して、平均14.3年の観察期間内の死亡が大幅に多いことが明らかになった。170mg/dL未満であると、心臓疾患や悪性腫瘍による死亡が顕著に少ないことも示された。

 これまで、糖尿病を発症する前の血糖値が「正常」とされた集団で、さらに死亡リスクの低下につながる範囲があるのかは不明だった。

正常者の中でも、糖負荷試験負荷後1時間血糖値が170mg/dL未満の群(青)では生存者が顕著に多い
出典:東北大学、2025年

糖負荷後1時間値が170mg/dL以上だと死亡率は20年で2倍に上昇

 研究グループは今回、糖負荷試験を行った993人について、糖負荷試験以外も含めた検査結果と死亡との関連を調べ、さまざまな検査結果のなかで、年齢や肥満度、喫煙などの既知のリスク因子の影響を調整したうえでも、糖負荷後1時間血糖値が死亡と強く関連することを発見した。

 参加者を糖負荷試験負荷後1時間血糖値の高い群と低い群の中央値(負荷後1時間血糖値162mg/dL)の2群に分けて、生存の経過を解析したところ、負荷後1時間血糖値が低い群で生存者が多いことが示された[P値<0.0001]。

 一方で、空腹時血糖値、負荷後2時間血糖値、OGTT中の全インスリン値、HOMA-IR、HbA1c値など、糖代謝とインスリン作用に関連する他のパラメータについては、統計的有意性が示されなかった。

糖負荷後1時間血糖値が死亡と強く関連
他のパラメータについては有意性は示されなかった
出典:東北大学、2025年

 これらの参加者は、すでに糖尿病を発症している人たちも含まれ、また糖負荷試験を行っているため、正常、予備群、糖尿病を診断できる。そこで正常と診断された595人を抽出して、糖負荷後1時間血糖値をどの値で区切ったときに死亡ともっとも関連するのかを調べた。

 その結果、糖負荷後1時間血糖値を170mg/dLで区切ったときに、死亡ともっとも強く関連することが分かった[C-index 0.8066]。

 この結果をもとに、糖負荷試験負荷後1時間血糖値が170mg/dL未満群と170mg/dL以上群で生存の経過を解析したところ、170mg/dL未満群では観察開始後20年の時点で8割近くの人が生存していたのに対し、170mg/dL以上群では5割近くの人が亡くなっているという統計的な有意差が認められた[P値<0.0001]。

 カプラン マイヤー法による解析では、3年目以降の追跡期間全体を通して、負荷後1時間血糖値170mg/dL以上群の死亡率は、170mg/dL未満群と比較すると、ほぼ2倍に上昇することが示された。

正常者の中では、負荷後1時間血糖値を170mg/dLで区切った際に、死亡リスクともっとも強く関連
出典:東北大学、2025年

正常と診断される血糖値のなかに死亡リスクの低下につながる範囲がある
糖負荷後の血糖上昇に早い段階から対処すると寿命を延ばせる可能性が

 大迫研究では、参加者の死亡原因のデータも蓄積されていることから、さらにこれらの人たちの死亡原因を調べたところ、負荷後1時間血糖値が170mg/dL未満群では、170mg/dL以上群と比較して、動脈硬化による心臓疾患[P値<0.0001]や悪性腫瘍[P値<0.0014]による死亡が顕著に少ないことが明らかになった。

負荷後1時間血糖値が170mg/dL未満群(青)では動脈硬化による心臓疾患や悪性腫瘍による死亡が顕著に少ない
出典:東北大学、2025年

 「本研究の結果から、正常と診断される血糖値のなかでも、さらに死亡リスクの低下につながる範囲があることが明らかになった。糖尿病になる前の段階から糖負荷後の血糖上昇に対処することで、心臓疾患や悪性腫瘍の発症を予防し寿命を延ばすことにつながる可能性が示された」と、研究者は述べている。

 現在、糖負荷後1時間血糖値は糖尿病の診断基準に含まれていないが、今回研究では、病気の発症を抑えて寿命を延ばす、つまり健康長寿を促進するためには、今後、糖尿病の診断の際に糖負荷後1時間血糖値を考慮していく必要があることが示唆された。

 研究は、文部科学省科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業の支援を受けて行われた。

 ムーンショット型研究開発事業 片桐秀樹プロジェクトマネージャーは、「本研究は、一般住民コホートのデータの解析から、正常耐糖能と診断される人のなかでも、死亡率に違いがある血糖値のパラメータを見出したものであり、未病段階の糖尿病にアプローチして健康状態を保つ本ムーンショット目標2研究開発プロジェクトにまさに合致した成果だ。糖負荷後1時間値を指標にして、未病段階を特定し、動脈硬化や悪性腫瘍の発症を抑える介入を進めるという将来像が描け、非常に重要な発見と考える」と述べている。

東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝・内分泌内科学分野
One-hour postload glucose levels predict mortality from cardiovascular diseases and malignant neoplasms in healthy subjects (PNAS Nexus 2025年6月2日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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