「カロリー制限食」がメンタルヘルス不調の原因に 「時間制限食」は糖尿病患者のβ細胞機能とインスリン抵抗性を改善

2025.06.19
 カロリー制限食には意外なデメリットがあり、とくに男性・肥満患者でうつ病リスクを悪化させる可能性があるという研究が発表された。

 現実のカロリー制限食は、栄養不足、とくにタンパク質、必須ビタミン・ミネラルの不足につながりやすく、生理的ストレスを誘発し、うつ病を含む認知感情症状の症状を悪化させる可能性があるとしている。

 一方で、時間制限食は、肥満をともなう初期の2型糖尿病の患者のβ細胞機能とインスリン抵抗性を改善し、肥満に対しても有益な効果を与えるという別の研究も発表された。

「カロリー制限食」がメンタルヘルス不調の原因に
タンパク質、ビタミン・ミネラルが不足
ブドウ糖とn-3系脂肪酸が少ないと脳機能の低下も

 カロリー制限食には意外なデメリットがあり、とくに男性・肥満患者でうつ病リスクを悪化させる可能性があるという研究が発表された。

 健康的な食事はメンタルヘルスを促進するという通説があるが、ランダム化比較試験などで提供される食事と現実の食事は異なり、現実の食事制限は栄養バランスの乱れを引き起こしやすく、感情・認知の健康が損なわれることがあるとしている。

 研究は、カナダのトロント大学神経科学部のVenkat Bhat氏らによるもの。研究成果は、「BMJ Nutrition Prevention & Health」に掲載された。

 研究グループは、2007~2018年に実施された米国国民健康栄養調査(NHANES)に回答した成人2万8,525人を対象に調査した。参加者は、うつ病症状の重症度に関する患者健康質問票9(PHQ-9)に回答していた。うつ症状と判定されたのは8%で、健康的な体重が29%、過体重が33%、肥満が38%だった。

 参加者の8%はカロリー制限食を、3%は栄養制限食(脂肪・コレステロール、糖分、塩分、食物繊維、炭水化物を制限)を行っていると回答し、87%は特別な食事をしていないと回答した。

 その結果、特別な食事制限をしていない群に比べたPHQ-9スコアは、カロリー制限群では0.29ポイント、肥満・カロリー制限群では0.46ポイント、栄養制限群では0.61ポイントそれぞれ高かった。カロリー制限食は認知感情症状スコア(cognitive-affective symptom score)の上昇とも関連し、栄養制限食は身体症状スコア(身体症状に関する苦痛と不安)の上昇とも関連していた。

 これらのスコアは性別によって異なり、栄養制限群では女性よりも男性で認知感情症状スコアが高い傾向がみられた。また3種類の食事のすべてが男性の身体症状スコアが高いことと関連していた。

 「現実のカロリー制限食は、栄養不足、とくにタンパク質、必須ビタミン・ミネラルの不足につながりやすく、生理的ストレスを誘発し、うつ病を含む認知感情症状の症状を悪化させる可能性がある」と、研究者は指摘している。

 さらに、「脳の健康に不可欠なブドウ糖とオメガ3(n-3)系脂肪酸の摂取が少ない食事が、脳機能を低下させ、認知感情症状を悪化させている可能性もある。とくに栄養ニーズの高い男性でその傾向が顕著だ」としている。

 また、減量の失敗、あるいは体重減少とその後のリバウンドがストレスになっている可能性も指摘している。

 一般的には、加工度の低い食品、野菜や果物、全粒穀物、ナッツ類、豆類、タンパク質が豊富な赤身肉、魚などを摂取するのが"健康的な食事"であり、超加工食品、精製穀物、高脂肪食、加工肉、菓子類などは"不健康な食事"とされ、不健康的な食事はうつ病などのメンタルヘルス不調のリスクを上昇させるとされている。

時間制限食がβ細胞機能とインスリン抵抗性を改善
肥満にも効果

 時間制限食は、肥満をともなう初期の2型糖尿病の患者のβ細胞機能とインスリン抵抗性を改善し、肥満に対しても有益な効果を与えるという別の研究を、米国内分泌学会が発表した。

 研究は、カナダのマウントサイナイ病院およびトロント大学内分泌学部のCaroline Kaercher Kramer氏らによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に掲載された。

 時間制限食(TRE:Time-restricted eating)は、食事をとる時間帯を通常4~8時間に制限し、残りの時間は絶食とする食事法。心臓代謝にベネフィットがある栄養介入戦略として提案されているが、2型糖尿病に対する代謝改善効果についてはよく分かっていない。

 そこで研究グループは、時間制限食により、2型糖尿病および肥満のある患者の膵β細胞機能と代謝を改善できるかを評価する目的で、ランダム化クロスオーバー試験を実施した。

 糖尿病の罹病期間の平均2.9年で、ベースラインのHbA1cが6.6%±0.7%、BMIが32.4±5.7だった39人の患者を、6週間のTRE(20時間絶食/4時間摂食)からなる初期介入群と、標準的な生活習慣群に無作為に割り付けた。主要評価項目として、β細胞機能を経口ブドウ糖負荷試験によるインスリン分泌感受性指数2(ISSI-2)により評価した。

 その結果、TRE群では対照群と比較して、ISSI-2の14%の増加が示され[+14.0±39.2%、P=.03]、HOMA-IRで評価した肝インスリン抵抗性は14%減少した[-11.6%、95%CI -49.3~21.9、P=.03]。

 空腹時血糖値は両群で差がなかったが、TRE群ではHbA1cの0.32%の低下が示された[-0.32±0.48%、P<.001]。これらの代謝改善は、体重の3.86%減少[-3.86±3.1%、P<.001]、ウエスト周囲径の3.8cm減少[-3.8±7.5cm、P=.003]をともなった。

 「時間制限食は、肥満をともなう初期の2型糖尿病の患者のβ細胞機能とインスリン抵抗性を改善し、肥満に対しても有益な効果を与えることが示された」と、研究者は結論している。

Why your diet might be making you sad--Especially if you're a man (BMJ Group 2025年6月7日)
Mental health consequences of dietary restriction: increased depressive symptoms in biological men and populations with elevated BMI (BMJ Nutrition, Prevention & Health 2025年6月3日)
Effect of Time-Restricted Eating on β-Cell Function in Adults With Type 2 Diabetes (米国内分泌学会 2025年6月17日)
Effect of Time-Restricted Eating on β-Cell Function in Adults With Type 2 Diabetes (Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 2024年8月28日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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