日本人高齢サルコペニアの腸内細菌叢を解明 短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌の低下がサルコぺニアと関連 順天堂大学
これらの細菌群は、骨格筋量、握力、歩行速度と正の相関があり、筋機能の低下に関係する可能性が示された。女性サルコペニア患者ではこの関連性がみられなかった。
「腸内細菌叢の制御はサルコペニア予防につながる可能性がある。食生活など腸内細菌叢のケアが重要であることが示唆された」と、研究者は述べている。

日本人の高齢者腸内細菌叢の特徴を明らかに
多様性の低下、酪酸産生菌属の低下、男女の違いを確認
研究は、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科、および腸内フローラ研究講座、および健康総合科学先端研究機構ジェロントロジー研究センターの浅岡大介教授、大草敏史特任教授、佐藤信紘特任教授らによるもの。研究成果は、「Nutrients」にオンライン掲載された。
加齢にともない筋肉量が低下するサルコペニアは、高齢者のフレイル、自立性の喪失、施設への入所、死亡のリスク増加などにつながる。
近年、腸内細菌叢の研究が盛んになり、炎症を抑制する短鎖脂肪酸などを産生する腸内細菌がサルコぺニアの病態と関連していることを示唆する報告が増えている。
研究グループは今回、日本人の高齢者腸内細菌叢の特徴を明らかにすることを目標に、順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科に来院した65歳以上の高齢者398人を対象に調査した。
腸内細菌叢データを有する356人を対象に、サルコペニア患者と非サルコペニア患者の腸内細菌叢を解析した。アジアでのサルコペニア診断基準として、最新の診断基準であるAWGS 2019の診断基準[握力の低下、歩行速度の低下、筋肉量の測定でDXA法による骨格筋量指数(SMI)の低下]に従い、サルコペニア患者(男性35人、女性15人)と非サルコペニア患者(男性109人、女性197人)に群分けした。
それぞれの参加者から収集した糞便を用いてDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子配列について次世代シークエンサーを用いて解析し、腸内細菌叢データを得た。
男性サルコペニア患者の腸内では腸内細菌叢の多様性が低下
腸内細菌は骨格筋量、握力、歩行速度の低下とも関連
その結果、男性サルコペニア患者では、短鎖脂肪酸の一種である酪酸の産生に関連する細菌属の占有率や検出率の有意な低下がみられ、これらの細菌属は骨格筋量、握力、歩行速度と正の相関が認められた。
日本人サルコペニア患者の腸内細菌叢の特徴として、下記のことが明らかになった。
(1) サルコペニアに関連する腸内細菌叢の多様性と性差 |
---|
α多様性(各被験者の腸内細菌叢に含まれる細菌の種類や各細菌の割合を示す)では、一部の指標(Shannon, Observed features, Pielou evenness)でサルコペニア患者が非サルコペニア患者より有意に低い多様性を示すことが分かった。一方、女性のサルコペニア患者と非サルコペニア患者の比較では、両者に有意なα多様性の違いはみられなかった。 また、男性のサルコペニア患者と非サルコペニア患者のβ多様性(被験者間の腸内細菌叢の構成の類似度を示す)で有意差がみられたことから、両者の腸内細菌叢の構成が異なることが示された。女性では、β多様性に有意差はみられなかった。 |
(2) サルコペニアに関連する腸内細菌属の占有率と検出率 |
男性サルコペニア患者の腸内細菌叢の特徴を調べるため、非サルコペニア患者と占有率に有意な違いが観察される細菌属を調べたところ、6つの菌属(Eubacterium I、Fusicatenibacter、Holdemanella、Enterococcus H、Unclassified Lachnospira、Bariatricus)で、サルコペニア患者で腸内細菌に占める割合が低下していた。とくに、Eubacterium I、Holdemanella、Enterococcus H、Bariatricusの4菌属は、サルコペニア患者では検出率が低かった。 女性のサルコペニア患者では、これらの菌属の占有率や検出率で、非サルコペニア患者との違いはみられなかった。 |
(3) 骨格筋量、握力、歩行速度と腸内細菌属との関連 |
男性サルコペニア患者で低下していた細菌属について、各被験者の年齢や筋力指標(骨格筋量、握力、歩行速度)との相関関係を調べたところ、男性でHoldemanellaは骨格筋量と、FusicatenibacterとEnterococcus Hは握力・歩行速度と、Unclassified Lachnospiraは握力と正の相関関係がみられた。女性ではこうした相関関係はみられなかった。 |

それぞれのスピアマンの順位相関係数についてヒートマップで示した

*:p<0.05、**:p<0.01
野菜摂取量の少ないサルコぺニア患者の腸内では有用菌が低下か
「今回の研究で、男性サルコペニア患者で低下していた腸内細菌属には、短鎖脂肪酸の酪酸の産生に関与する細菌が含まれていた。酪酸は、免疫調節作用などさまざまな機能性を有する腸内細菌の代謝物のひとつで、日本の健康な高齢者の腸内では酪酸産生菌の占有率が高いことや、短鎖脂肪酸(酪酸)は筋タンパク質の合成の促進や筋肉萎縮を誘導する炎症を抑制することで、筋力を維持する作用が報告されている」と、研究者は述べている。
研究で、サルコペニアと強い関連性が観察された菌属Eubacterium Iには、フラボノイドを代謝するEubacterium ramulus(E.ramulus)という菌種が含まれ、野菜などのポリフェノールを摂取することで腸内でE.ramulusが増えることが知られており、研究グループの以前の研究では、慢性腎疾患をもつサルコペニア患者では、野菜の摂取量が有意に少ないこと示されている。
「フラボノイドには筋肉の萎縮を抑制する作用が示唆されており、より詳細な研究が必要だが、野菜摂取量の少ないサルコぺニア患者の腸内でE.ramulusなど有用な細菌が低下し、加齢にともない筋力が低下しやすくなってしまう可能性が考えられる。サルコペニアでの食生活の重要性が改めて示された」としている。
これらの腸内細菌叢の変化は、女性サルコペニア患者では観察されなかったことから、日本人のサルコペニア患者では、筋力に関係する腸内細菌やその役割が男女で異なると予想され、今回の研究は単施設で実施したことから、今後さらなる研究が必要としている。
順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター
順天堂大学健康総合科学先端研究機構ジェロントロジー研究センター
Sex-Specific Associations of Gut Microbiota Composition with Sarcopenia Defined by the Asian Working Group for Sarcopenia 2019 Consensus in Older Outpatients: Prospective Cross-Sectional Study in Japan (Nutrients 2025年5月21日)