日本食パターンの食事はメンタルヘルス改善に有用 うつ病が減少 日本企業の勤労者を調査「J-ECOHスタディ」 糖尿病の予測モデルも開発

2025.06.30
 日本の企業の勤労者1万2,000人超を対象に、日本の伝統的な食パターンをスコア化し、抑うつとの関連について調査した結果、日本食をとっている傾向が強いほどうつ病が少ないことが、職域多施設研究「J-ECOHスタディ」で明らかになった。

 調査では、白米、味噌汁、大豆製品、調理野菜、キノコ類、海藻、魚、緑茶などの摂取頻度が多い「伝統的日本食パターン」のスコアや、これに果物、生野菜、乳製品を取り入れた「改良型日本食パターン」のスコアが高い人は、抑うつ症状はおよそ2割少ないことが示された。

 「多目的コホート糖尿病研究」と「J-ECOHスタディ」の成果を用い、5年間の2型糖尿病の罹患リスクを予測するモデルも開発されている。

日本食パターンの人は抑うつ症状が少ないという結果に
職域多施設研究「J-ECOHスタディ」の成果

 うつ病は、労働者の生産性低下や長期欠勤の原因として深刻な社会問題になっている。心の健康を保つ手段のひとつとして、「食事」に注目が集まっており、欧米では地中海食などの特定の食事パターンが抑うつのリスクを下げることが報告されているが、日本の伝統的な食習慣との関連については、これまで十分に検討されていなかった。

 そこで国立健康危機管理研究機構(JIHS)などの研究グループは、職域多施設研究「J-ECOHスタディ」に2018~2020年に参加した、5つの企業に勤務する従業員1万2,499人の生活習慣データについて、日本食パターンと抑うつ症状との関連を調査した。

 J-ECOHスタディは、関東・東海の企業10数社の約10万人の勤労者が参加している職域多施設研究。働く世代の生活習慣病や関連する疾患の実態や要因などを明らかにし、その予防や管理を改善することを目的に実施されている。

 その結果、いずれの食事パターンでもスコアが高い群ほど、抑うつ症状の有症率比が段階的に低くなる傾向がみられた。

 スコアがもっとも低い群に比べて、もっとも高い群では、抑うつ症状の有症率比は、伝統的日本食スコアで0.83[95%信頼区間 0.80~0.86]、改良型日本食スコアで0.80[同 0.76~0.8]になった。抑うつとの関連は両食事パターンで明らかな違いはみられなかった。

 なお、調査の参加者1万2,499人の88%は男性で、平均年齢は42.5歳で、全体の30.9%に抑うつ症状が認められた。

日本食をとっている傾向が強いほどうつ病が少ないことが明らかに

出典:国立健康危機管理研究機構、2025年

日本食には心の健康を支える働きがある?
前向き研究による検証が必要

 研究は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)臨床研究センター疫学・予防研究部の三宅遥上級研究員、溝上哲也部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載された。

 今回の研究は、日本の伝統的な食パターンをスコア化し、抑うつとの関連について、日本の企業の勤労者を対象に調べたはじめてのものとしている。

 日本食をとっている人はうつ病が少ない傾向があることについて、疫学的な関連を裏付けるメカニズムとして、研究者は次のことを指摘している。

  •  海藻、大豆食品、野菜に含まれる葉酸は、セロトニンやドーパミンといった脳内の神経伝達物質の合成を助ける。
  •  脂の多い魚に豊富に含まれるn-3系脂肪酸には、抗炎症作用があり、神経伝達物質の働きをサポートする。
  •  緑黄色野菜、緑茶、納豆や味噌などの発酵食品に含まれる抗酸化物質は、脳に悪影響を与える酸化ストレスを軽減する。
  •  海藻、野菜、大豆食品、キノコ類に豊富に含まれる食物繊維は、腸内細菌のバランスを整え、抗炎症作用やセロトニン産生を促進する作用のある短鎖脂肪酸を増やし、抑うつ症状を緩和する。
  •  日本食に特徴的な「うま味」成分が、副交感神経を亢進させ、心理的な安定をもたらしている可能性もある。

 研究グループは今回、独自に開発した簡易食事調査票を用いて、白米、味噌汁、大豆食品、調理野菜、キノコ類、海藻、魚、塩分の多い食品、緑茶の摂取状況にもとづいて、「伝統的日本食スコア」を作成。

 これに、日本人が不足しがちな食品(牛乳・乳製品、果物、生野菜)を追加し、白米を精製度の低い穀類に置き換え、塩分の多い食品の得点を反転させて、「改良型日本食スコア」も作成した。

 さらに抑うつ症状について、自己記入式の抑うつ評価尺度の短縮版であるCES-D11項目版を用いて調べた。食事以外の要因の影響をできるだけ取り除いて、食スコアと抑うつとの関連を解析した。

 「今回、勤労者を対象にした大規模な疫学研究により、日本食には心の健康を支える働きがあるという仮説を支持する結果が得られました。前向き研究による検証が必要ですが、日本人におけるエビデンス(科学的証拠)として、抑うつの予防に関する職域や地域での公衆衛生対策の一助となることが期待されます」と、研究者は述べている。

日本人の2型糖尿病の罹患リスクを予測するモデルを開発
「JPHC Diabetes Study」と「J-ECOHスタディ」の成果
 国立がん研究センターや横浜市立大学などはこれまで、「J-ECOHスタディ」などの成果を使い、日本人を対象とした、5年間の2型糖尿病の罹患リスクを予測するモデルも開発している。検証では良好な判別力を確認した。

 研究は、国立がん研究センター、横浜市立大学、国立国際医療研究センター、国際医療福祉大学などによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」に掲載された。

 研究グループは、「多目的コホート糖尿病研究(JPHC Diabetes Study)」に協力した、1998~1999年に茨城、新潟、高知、長崎、沖縄、2000~2001年に岩手、秋田、長野、沖縄、東京の10保健所管内に在住していた46~75歳の男女のうち、糖尿病調査に参加した糖尿病の既往のない1万986人を対象に、5年間の2型糖尿病罹患の予測モデルを開発し、J-ECOHスタディの1万1,345人のデータを用いて外部検証を行った。

 研究では、非侵襲性の予測因子(採血などの痛みや苦痛を伴う検査を要さずに取得できる情報、例えば性別や糖尿病の家族歴)と、侵襲性の予測因子(HbA1c値や空腹時血糖値の検査結果の情報)を用いて、5年間の糖尿病罹患リスクを予測するモデルを開発した。

 非侵襲性リスクモデルでは、▼性別、▼BMI(体格指数)、▼糖尿病の家族歴、▼拡張期血圧を予測因子として選択。非侵襲性リスクモデル(model 1)と、これにHbA1c値を追加したモデル(model 2)、さらにに空腹時血糖値を加えたモデル(model 3)を作成した。

 開発した3つのモデルを検証した結果、すべてのモデルは良好な判別力を示し、非侵襲性の予測因子にHbA1c値を追加したモデルでは較正能も比較的良好だった。model 1では0.643であったのに対し、HbA1c値を追加したmodel 2では0.786、HbA1c値と空腹時血糖値を加えたmodel 3では0.845という結果になった。

 さらに、各モデルで計算された予測確率が、観測された2型糖尿病罹患リスクとどの程度一致するのか(較正能)を較正プロットにより評価したところ、すべてのモデルで比較的良好な結果が示された。

 次に、職域多施設研究「J-ECOHスタディ」に参加し、2013年に健康診断を受診した46歳~75歳のデータを用いて、開発したモデルの外部検証を行った。

 その結果、model 1のROC曲線下面積は0.692、model 2は0.831で、model 3では0.874となった。予測確率が0.2未満の範囲では、HbA1c値を追加したmodel 2は予測確率と糖尿病リスクがおおむね一致し、較正能は十分としている。

 「このモデルを利用して、2型糖尿病の罹患リスクが高いと推定された人は、糖尿病のために適度な食事や運動の習慣を心がけることを促し、早期発見のために定期的に健康診断を受診することを促すなどの対策を行うことが可能となりますので、広く活用されることが期待されます」と、研究者は述べている。

HbA1c値を追加したmodel 2は予測確率と糖尿病リスクがおおむね一致
J-ECOHスタディのROC曲線

横軸は1-特異度、縦軸は感度

国立国際医療研究センター 臨床研究センター 疫学・予防研究部
職域多施設研究(J-ECOHスタディ)
Association between the Japanese-style diet and low prevalence of depressive symptoms: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study (Psychiatry and Clinical Neurosciences 2025年6月16日)

国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト
Development and validation of prediction models for the 5-year risk of type 2 diabetes in a Japanese population: Japan Public Health Center-based Prospective (JPHC) Diabetes Study (Journal of Epidemiology 2023年5月20日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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