【新型コロナ】大気汚染がCOVID-19の重症化をきたすメカニズムを解明 PM2.5がウイルスの侵入ロを拡大 京都大
とくに「2型肺胞上皮細胞」という肺の伸展維持に重要な細胞で、新型コロナウイルスの細胞内への侵入口である「ACE2」と、侵入を促す「TMPRSS2」という2つのタンパク質が増加していることを明らかにした。
大気汚染のある地域でCOVID-19が重症化
大気汚染、とくに大気中のPM2.5など、微小な粒子(PM)による汚染状況が悪い地域で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症数や重症者数、死亡者数が多いという調査結果が、世界各地から報告されている。
しかし、大気汚染とCOVID-19の発症や悪化との関連について、これまで実験的な検証はなく、大気中のPMがどのようなメカニズムでCOVID-19の発症や重症化をきたすのかは、明らかにされていなかった。
新型コロナウイルスが体内に侵入する際には、感染する対象(ヒトなどの宿主)の細胞にある「ACE2」と「TMPRSS2」という2つの分子が重要であり、この2つの分子が多くなるほど感染を起こしやすく、重症化しやすいと考えられている。
ACE2は、新型コロナウイルスの細胞内への侵入の際に入口となる分子。ウイルスのもつ鍵に対応する鍵穴そのものに相当する。また、TMPRSS2は、タンパクを分解する酵素のひとつで、新型コロナウイルスの表面のスパイクタンパク質を分解することで細胞内への侵入を促す。鍵を回して扉を開ける役割を担っている。
京都大学の研究グループは、サイクロン法で大気中から採取したPMを吸い込んだマウスの肺で、その後起こる変化を「多重免疫染色」という方法を用いて検討した。
多重免疫染色は、組織の中のタンパク質を検出する免疫組織化学染色という手法のひとつ。従来の方法に脱色・抗体の剥離という工程を加え、染色を繰り返すことで、ひとつの組織サンプル上で複数のタンパク質の検出を行うことを可能にする。
PMが新型コロナウイルスの侵入ロ、侵入経路を拡大
その結果、とくに「2型肺胞上皮細胞」という肺の伸展維持に重要な細胞で、新型コロナウイルスの細胞内への侵入ロであるACE2と、侵入を促すTMPRSS2の2つのタンパク質が増加していること、すなわちPMが新型コロナウイルスの侵入ロ、侵入経路を拡大していることが明らかになった。
とくに、「サーファクタント」という物質を作り、肺の伸展維持に重要な役割を演じる2型肺胞上皮細胞への影響が顕著であることがはじめて示された。サーファクタントは、2型肺胞上皮細胞が分泌する界面活性剤の総称であり、これにより肺の虚脱を防ぐ作用がある。
研究は、京都大学大学院地球環境学堂の高野裕久教授、佐川友哉工学研究科特別研究学生らの研究グループによるもの。研究成果は、米学術誌「Environmental Research」にオンライン掲載された。
今回の研究は、日本国内で採取したPMを用い、「PMを大量に吸い込んだマウスの肺で、2つのタンパク分子が同一の細胞(とくに2型肺胞上皮細胞という細胞)で増加している」ことを世界ではじめて示したもの。
PMの採取にあたっては、慶應義塾大学理工学部の奥田知明教授らによるサイクロン法を用い、実際の環境中のPMを粒子そのままのかたちで用いることが可能になった。また、タンパク質分子の解析、および画像の解析にあたっては、京都府立医科大学大学院耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の辻川敬裕学内講師らによる、多重免疫染色およびイメージサイトメトリーという新たな方法を用いることで、2つのタンパクの局在(どこにあるのか)を1つの切片上で、かつ定量的に(どの程度あるのか)、評価することが可能になった。
「COVID-19の発症、重症化予防対策として、新型コロナウイルスの侵入ロ、侵入経路の抑制対策に注目することも重要であると考えられ、医学的対策だけでなく、PMを含めた大気汚染や室内空気汚染に対する環境的な対策が役に立つ可能性があることが示されました」と、研究者は述べている。
「今後は、ヒトの細胞や他の動物種における研究とともに、どのような粒子や成分がCOVID-19の発症・重症化をもたらすのか、また、それを予防・軽減する薬剤にはどのようなものがあるのかを明らかにしていく予定です」としている。
京都大学大学院地球環境学堂
Exposure to particulate matter upregulates ACE2 and TMPRSS2 expression in the murine lung(Environmental Research 2021年2月3日)