「運動療法の現在と今後」 第63回日本糖尿病学会年次学術集会レポート(2)
2020.10.16
第63回日本糖尿病学会年次学術集会
シンポジウム16「運動療法の現在と今後」
シンポジスト:田村好史(順天堂大学大学院スポートロジーセンター・代謝内分泌内科学)、野村卓生(関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科)、藤田 聡(立命館大学スポーツ健康科学部)、澤田 亨(早稲田大学スポーツ科学学術院)、細井雅之(大阪市立総合医療センター糖尿病内科)、佐藤祐造(愛知みずほ大学)
座長:佐藤祐造(愛知みずほ大学)、田村好史(順天堂大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域)
シンポジウム16「運動療法の現在と今後」
シンポジスト:田村好史(順天堂大学大学院スポートロジーセンター・代謝内分泌内科学)、野村卓生(関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科)、藤田 聡(立命館大学スポーツ健康科学部)、澤田 亨(早稲田大学スポーツ科学学術院)、細井雅之(大阪市立総合医療センター糖尿病内科)、佐藤祐造(愛知みずほ大学)
座長:佐藤祐造(愛知みずほ大学)、田村好史(順天堂大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域)
運動療法の個別化
新型コロナウイルスのまん延は糖尿病診療にも大きな影響を与えており、特に高齢の糖尿病患者の筋力や体力の低下が懸念されている。本シンポジウムでは、筋肉量や筋力の低下が糖尿病患者にどのような影響を及ぼし、それに対してどのように対処するべきか、臨床または研究の最前線にいる6人の先生が講演した。 シンポジスト1人目の田村好史氏は「骨格筋の量・インスリン抵抗性と運動療法の個別化」と題して、生活習慣や加齢がインスリン抵抗性や筋力低下を引き起こすメカニズムを解説し、骨格筋の量・質とインスリン抵抗性にはさまざまなパターンがあり、今後はそれぞれの状態に応じて個別化した運動療法が必要となると可能性があると述べた。 運動療法の個別化を進めるためには、基礎データを含めたエビデンスの構築が必要と考えられている。最後に、田村氏らが進めている東京都文京区在住の高齢者を対象とした観察研究の結果の一部が示された。糖尿病患者の下肢筋力の現状
シンポジスト2人目の野村卓生氏は「糖尿病患者の下肢筋力の現状」と題して、野村氏らが実施した2型糖尿病患者を対象とした2つの臨床試験の結果と成果を報告した。2型糖尿病患者の膝伸展筋力は健常者よりも20%低下していること、多発神経障害を合併すると筋力低下が助長されること、高齢患者の膝伸展筋力の低下は移動能力の自立を脅かし、健康関連QOLにも影響を及ぼすことが報告された。 野村氏は最後に、今後は運動療法の実践における理学療法士による指導の有効性を証明していきたいと述べた。レジスタンス運動とタンパク質摂取
シンポジスト3人目の藤田聡氏は「糖尿病患者の栄養摂取・レジスタンス運動のエビデンス」と題して、レジスタンス運動が骨格筋のタンパク質代謝、糖代謝や脂質代謝に与える影響と、レジスタンス運動による筋肥大を最大限に高めるタンパク質摂取について解説した。 藤田氏は次のようにまとめている。糖尿病患者ではインスリン刺激による筋タンパク質の合成能が低下しているため筋量が減少している。筋量を維持するためには3食それぞれで十分量のタンパク質を摂取することが重要であり、レジスタンス運動による筋肥大を最大限にするためには朝食でのタンパク質摂取が重要である。運動型健康増進に関する認定施設と運動療法プログラム
シンポジスト4人目の澤田亨氏は「糖尿病予防と治療におけるスポーツクラブ・健康増進施設の活用に向けて」と題して、運動型健康増進に関する認定施設である運動型健康増進施設1、指定運動療法施設2、医療法42条施設3の役割、標準的な運動療法プログラムを紹介し、指定運動療法施設への登録検討と運動療法プログラムの利用を呼び掛けた。 標準的な運動療法プログラムには、2型糖尿病の人を対象にした運動プログラム、糖尿病性腎臓病の人を対象にした運動プログラムなどがある。腎機能と筋肉量
シンポジスト5人目の細井雅之氏は「糖尿病腎症と筋肉量」と題して、慢性腎臓病(CKD)患者の糸球体濾過量(GFR)と筋肉量の関係、サルコペニア患者のGFR、2型糖尿病患者の筋肉量と腎機能の関係を解説した。骨格筋指数は年齢と負の相関、BMI(Body Mass Index)と正の相関を示し、CKDステージ別においても骨格筋指数はBMIの影響を受けることが確認された。 細井氏は次のようにまとめている。2型糖尿病患者では、腎機能低下とともに骨格筋量は必ずしも低下しない。腎機能低下者は肥満が多く、そのため骨格筋量が保たれていると考える。今後は腎機能低下者も骨格筋量を低下させないような運動が必要である。糖尿病の三大合併症と運動療法
シンポジスト6人目の佐藤祐造氏は「糖尿病合併症と運動療法」と題して、運動療法が三大合併症である網膜症、腎症、神経障害の発症と進展に及ぼす影響と、これらの合併症を有する患者に対する運動療法について解説した。 佐藤氏は、運動療法は糖尿病の合併症に対して予防的に働くものの留意することがあると強調した。増殖網膜症または増殖前網膜症の患者には高強度の有酸素運動とレジスタンス運動は禁忌、重症の自律神経障害患者には日常生活以外の運動は禁止である。末梢神経障害合併者には足装具の使用と毎日の足の観察しながら中等強度程度の運動を実施することができる。高強度運動が腎症を悪化させるというエビデンスはないため、腎症患者は症例ごとに腎機能などに配慮しつつ運動療法を指導する。
1 健康増進のための有酸素運動を安全かつ適切に行うことができる施設。
2 運動型健康増進施設であり、かつ、一定の要件を満たし、厚生労働省が運動療法を行うに適した施設と指定した施設。医師の指示に従って運動療法を行った場合、施設利用料金が医療費控除の対象となる。
3 疾病予防のために有酸素運動を行う施設であり、診療所が附置され、かつ、その職員、設備および運営方法が厚生労働大臣の定める基準に適合する施設。医療法人の附帯事業として認められている。
一般社団法人 日本糖尿病学会
第63回日本糖尿病学会年次学術集会
2 運動型健康増進施設であり、かつ、一定の要件を満たし、厚生労働省が運動療法を行うに適した施設と指定した施設。医師の指示に従って運動療法を行った場合、施設利用料金が医療費控除の対象となる。
3 疾病予防のために有酸素運動を行う施設であり、診療所が附置され、かつ、その職員、設備および運営方法が厚生労働大臣の定める基準に適合する施設。医療法人の附帯事業として認められている。
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]