高齢者のサルコペニアは週1回60分・12週間の運動で改善する 週1回のゴムバンド運動などの多面的プログラムで効果
2020.05.27
鹿児島大学は、鹿児島県垂水市で実施している「垂水研究」で、「サルコペニア」およびそのリスクを有する高齢者を対象に運動プログラムを実施し、12週間程度のエクササイズによって、椅子からの立ち上がりなどの身体機能の有意な改善が示されたという結果を発表した。
身体機能や大腿筋量に対する筋力トレーニングの効果を検証
研究は、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の牧迫飛雄馬教授らの研究グループによるもので、研究成果は「Journal of Clinical Medicine」オンライン版に掲載された。 鹿児島大学と垂水市は協働して2017年度から、前向きコホート研究である「垂水研究(たるみず元気プロジェクト)」を実施しており、40歳以上を対象に、加齢にともなう生活機能・身体状況・認知機能などの「健康チェック」を行っている。 加齢にともない骨格筋量は減少し、握力や脚力といった筋力も低下しやすくなる。このような加齢にともない生じる骨格筋量の減少と筋力の低下は「サルコペニア」と呼ばれ、国際疾病分類では疾病に分類される。サルコペニアは、転倒や骨折の危険を増大させ、寝たきりや要介護を招く要因の1つ。そのため、高齢期におけるサルコペニアの予防や改善のための支援方法の確立が求められているが、どのような支援方法が効果的であるかはよく分かっていない。 そこで研究グループは、垂水研究の一環として、サルコペニアおよびプレサルコペニアを有する高齢者を対象に、身体機能や大腿筋量に対する筋力トレーニングを中心とした多面的運動プログラムの効果を調査した。運動により椅子からの立ち上がりや歩行などが改善
健康チェックに参加した60歳以上の1,011人のうち、国際的な基準と照合して身体機能(握力の低下もしくは歩行速度の低下)の低下と筋肉量の低下を合併した人(サルコペニア)、または筋量低下のみに該当した人(プレサルコペニア)の72人が多面的プログラムに参加。平均年齢は75.0歳、女性が70.8%だった。 参加者は運動群(36人)と対照群(36人)に無作為に割り振られ、3ヵ月間の介入期間の前と後で、身体機能と大腿(太もも)の筋量のMRI画像で比較した。 運動プログラムは、ゴムバンドによる筋力トレーニングを中心とし、柔軟運動(ストレッチ)、バランストレーニング、有酸素運動を含む多面的運動プログラムを週1回(60分)の頻度で12回実施した。 運動群の運動教室の平均参加率は81%だった。3ヵ月間の変化を比較した結果、運動群で身体機能(椅子からの立ち上がりや歩行など)の改善を認めた。大腿の筋面積・筋体積の変化では、運動群で筋量の減少を抑制する傾向にあったが、明らかな筋量の増大は認められなかった。自主的な運動の促進へのツールとしての活用も期待
このように、サルコペニア(プレサルコペニアを含む)と呼ばれる筋量の減少および筋力の低下した高齢者に対する筋力トレーニングを中心とした多面的運動プログラムは、立ち上がりや移動といった身体機能の改善に有効であることが示唆されたが、大腿筋量や体積の増大に対する効果は明らかにならなかった。 今回の研究で実施した運動プログラムは運動手帳を見ながら自宅でも実施可能なプログラムであり、自主的な運動の促進へのツールとしての活用が期待される。 「今後は、長期的な運動プログラム実施の効果や栄養介入を加えた相乗効果の検証が望まれ、高齢者の筋力や筋量の改善を促進する要因を探索することも有用となると考えられます」と、研究グループは述べている。 Effects of a multicomponent exercise program in physical function and muscle mass in sarcopenic/pre-sarcopenic adults(Journal of Clinical Medicine 2020年5月8日)垂水研究(たるみず元気プロジェクト)
鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 牧迫研究室
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]