網膜症のある女性糖尿病患者は血管内皮機能(FMD)低下ハイリスク

2012.01.04
 女性糖尿病患者では網膜症の存在が血管内皮機能(FMD)の低下と相関するが、男性患者では有意な相関がみられないという興味深い研究結果が発表された。性差へ配慮した治療が、合併症のより確実な抑止につながる可能性もある。また、大血管症の早期発見や治療効果判定目的で施行されることの多いFMD検査が、糖尿病に最も特異的な合併症と言える網膜症のような細小血管症とも関連することを示した点で注目される。
動脈硬化性疾患の性差について、網膜症と血管内皮機能の関係から検討
 この研究は、川崎医科大学大学附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科の俵本和仁氏が昨年7月の第43回日本動脈硬化学会学術集会(札幌)で発表したもの。動脈硬化性疾患の発症頻度の性差が生じる背景には、性の違いによる血管内皮機能の差異が関与していると考えられており、また、糖尿病網膜症の存在は内皮機能の低下と相関するとの報告がみられることから、同氏らは性差に着目しつつ、網膜症と内皮機能の関係をFMDによって評価検討した。

 対象は、2009年4月から2010年12月の2型糖尿病教育入院患者で、FMD測定を施行した患者152名(男性87名、女性65名)。主な患者背景は、年齢61.5±14.0歳、BMI25.2±5.5、収縮期血圧128±13mmHg、拡張期血圧74±11mmHg、糖尿病罹病期間11.6±9.7年、HbA1c8.4±2.0%(JDS値)、尿中アルブミン135±448mg/g・Cr、FMD3.5±2.3%、網膜症罹患率33.1%、神経障害罹患率83.4%、腎症罹患率83.4%、虚血性心疾患または脳卒中の既往11.9%など。

全例解析では網膜症の有無で、罹病期間等のほかFMDも群間に有意差
 性別に分類せず全例を対象とした解析で、網膜症の有無により有意な群間差があったのは、収縮期血圧(網膜症あり群-なし群の順に、132±12 vs 126±12mmHg)、罹病期間(18.2±9.2 vs 8.2±8.1年)、尿中アルブミン(310±721 vs 41±80mg/g・Cr)、FMD(2.9±2.3% vs 3.8±2.3%)だった(表1)。虚血性心疾患・脳卒中の既往も、網膜症(単純網膜症以上)あり群が18.4%、なし群が5.8%と頻度に比較的大きな差があるが、有意な差ではなかった。また、年齢やHbA1c、血清脂質値などには有意差がみられなかった。

 続いて対象を性別に解析した結果、女性では罹病期間と尿中アルブミン、FMDが、網膜症を有する群と有さない群で有意差があった(表2)。しかし男性では罹病期間と尿中アルブミンのみ有意な群間差が残り、FMDについては有意差が消失した。


FMDと相関する因子、女性は網膜症の罹患、男性は年齢
 次に、FMDと相関する因子を単回帰分析で求めた結果、女性では網膜症の罹患が説明変数であり、男性では網膜症の存在とFMDに相関がみられず、年齢が説明変数であった(表3)。


治療内容の性差による影響も可能性を否定できない
 一方、対象患者の治療内容を性別・網膜症の有無別にみると、女性患者への処方薬は網膜症の有無で大きな差はないが、男性患者への処方内容は網膜症を有する群で、チアゾリジンやRA系抑制薬、スタチン等の処方が多い傾向があった(表4)。男性は女性に比べて動脈硬化性疾患の発症高リスクであることから、これらの薬剤が女性より積極的に投与されているものと考えられる。

 チアゾリジンやRA系抑制薬などは、血管内皮保護的な作用をもつことが報告されている。網膜症の有無別でみたFMDの群間差が男性では有意でない背景に、これら薬剤の副次的効果が影響している可能性もある。内皮機能改善を介した合併症抑止という視点から、今後検討されるべきアプローチを示唆するものと言えそうだ。

網膜症を見いだしたら、より積極的な精査・介入を
 これらの結果より俵本氏は、「合併症として網膜症を有する2型糖尿病患者のうち、男性ではなく、女性患者において、血管内皮機能低下がよりハイリスク」と結論し、「網膜症を有する患者にはFMD等で血管を積極的に精査することが大血管障害の予防につながるのではないか」とまとめた。

 また、今回の検討で性差が生じた背景としては、「閉経前女性におけるエストロゲンの内皮保護効果、脂肪分布の違いによるアディポサイトカイン分泌動態の差異、臨床での介入レベルに性差がある可能性などが考えられる」と考察し、「今後はこれら加えて内皮機能低下にかかわる因子を詳細に検討してみたい」と述べている。

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