インスリンはアルツハイマー病の治療にも有用 ニューヨーク州立大学
2011.04.12
インスリンは、アルツハイマー病の治療にも有効である可能性があるという研究が米国で発表された。
低用量のインスリン投与により、アルツハイマー病の原因となる4つの前駆体蛋白質の血液での産生が抑えられることを臨床研究で確かめたと、米国で発表された。 「インスリンはアルツハイマー病と戦う際に、新たな強力な役割を担うことになるだろう」と、ニューヨーク州立大学バッファロー校医学・生物医科学部のParesh Dandona教授は話す。この研究は、米国内分泌学会が発行する医学誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」3月号に発表された。 「インスリンはアルツハイマー病の治療薬としても開発可能であることが示された。アルツハイマー病の治療法は現状では、十分に満足できるものではない」とDandona教授は言う。 インスリンにより産生が抑制される4つの蛋白質のうち、1つはβアミロイド前駆体だ。アルツハイマー病に至る脳の老化において、βアミロイドが蓄積することが根本的な原因であると考えられている。 研究では、免疫系で重要な働きをする末梢の単核白血球で4つの前駆体蛋白質が産生されることをはじめて解明した。これは、インスリンが末梢単核球において強力で迅速な抗炎症作用を示すことを解明した過去の研究成果にもとづいたもので、今回の研究では肥満や2型糖尿病と軽度の慢性炎症との関連にも留意した。炎症はインスリン抵抗性や進行したアルツハイマー病でもよくみられる。 10人の肥満や2型糖尿病の患者に、1時間当り200mLのインスリンを4時間以上投与した。患者はすべて糖尿病治療を受けており、経口薬による薬物療法を行っていた。インスリン、抗酸化剤、非ステロイド性抗炎症剤を投与されていた患者はいなかった。対照群には、1時間当り5%のブドウ糖か生理食塩水を投与した。 その結果、低用量のインスリン投与により、βアミロイドが誘導されるアミロイド前駆蛋白質の産生を抑えられることが分かった。また、アミロイド前駆蛋白質をβアミロイドに変換する酵素の2つのサブユニットであるプレセニリン1、プレセニリン2も抑制された。 さらに、インスリンはアルツハイマー病を抑制する重要なコンポーネントに関わることも示された。インスリンはグリコーゲン合成酵素を抑え、神経原繊維を増やす作用があるという。 「末梢単核球でアルツハイマー病の原因となる重要な蛋白質のいくつかが発現することがはじめて分かった」とDandona教授は述べている。「インスリンはこの前駆体蛋白質に対し直接的に作用し、抗炎症作用をおよぼしている可能性がある。今後の研究でこのインスリンの作用を確かめれば、インスリンがアルツハイマー病治療のための潜在的な治療薬としても利用できることが示される。インスリンを脳に直接作用させることで、低血糖を回避することもできる」としている。 Dandona教授の以前の研究では、インスリンを鼻腔内投与によって嗅覚神経にそって投与し、アルツハイマー患者の認知機能を向上させることが示されたが、メカニズム解明にはさらなる研究が必要だという。 UB Study Suggests That Insulin Could Be Potential Therapy for Alzheimer's Disease(ニューヨーク州立大学バッファロー校、2011年4月1日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]