体の状況に応じてインスリン細胞数を調節し血糖値を正常に保っている仕組みを解明 東北大学
インスリン細胞の数を調節する新たな仕組みを解明
妊娠中には母親の体のインスリンの効きは悪くなるが、それに応じてβ細胞が増殖し、インスリンを多く産生し血糖値の上昇を防いでいる。
東北大学は、妊娠中に増えたβ細胞が、他の細胞を食べる働きをもつマクロファージによって貪食されることにより、もとの数に戻ることを発見した。妊娠中に増えたβ細胞を速やかに減らすことで、産後の母親の血糖値が下がりすぎないように維持されていることが分かった。
これまで妊娠中には、インスリンを産生するβ細胞が増え、出産後に速やかにもとの数に戻ることが知られていたが、そのメカニズムはよく分かっていなかった。
また、出産直前には、β細胞が血液中のマクロファージを呼び寄せる物質を放出し、膵臓のマクロファージを増やすことで、この仕組みを進めていることも明らかにした。
研究により、体の状況に応じてβ細胞の数が調節され、血糖値が正常に維持される仕組みの解明や、糖尿病の予防法・治療法の開発が進むことが期待されるとしている。
研究は、東北大学大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および東北大学病院糖尿病代謝・内分泌内科の今井淳太准教授、遠藤彰助教、片桐秀樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Developmental Cel」誌に掲載された。
増えたβ細胞が貪食され減ることで出産後の血糖値を正常に保っている
まず研究グループは、出産前後のマウスの膵ランゲルハンス島を観察し、出産後の膵ランゲルハンス島ではマクロファージが増えていることを見いだした。
そこで膵ランゲルハンス島のマクロファージが増えないように処理したマウスで出産前後のβ細胞を観察したところ、出産後に本来認められるβ細胞の減少が認められず、さらにβ細胞が減らなかった出産後マウスでは低血糖が出現した。
このことから、出産後に膵ランゲルハンス島で増えるマクロファージがβ細胞の減少に関わっていること、β細胞が速やかに減少することにより、出産後に母親は低血糖を起こさず、血糖値が正常に保たれることを突き止めた。
次に、マクロファージによる貪食が起こらないような処理をしたマウスでもβ細胞の観察を行ったところ、出産後のβ細胞の減少が起こらなくなった。
さらに出産後マウスの膵ランゲルハンス島でマクロファージがβ細胞を貪食している様子を観察することに成功したことから、産後マウスの膵ランゲルハンス島で増えたマクロファージがβ細胞を貪食して減らしていることが明らかになった。
続いて、出産直前にβ細胞がマクロファージを呼び寄せるCXCL10という物質を放出していること、この物質により血液中のマクロファージが産後の膵ランゲルハンス島に集まることで増えることも解明。
すなわち、出産前後の膵ランゲルハンス島ではこれらの仕組みが段階的に起こることで、産後のβ細胞の減少を速やかに進め、出産した母親の血糖値が下がりすぎずに正常に保たれると考えられるとしている。
「体の状況に応じてβ細胞の数が調節され、血糖値が正常に保たれる仕組みが明らかになった。一方、多くの糖尿病はβ細胞の数が減ることによって発症することから、今回明らかになったβ細胞を減らす仕組みが必要以上に働いてしまうと糖尿病の発症につながる可能性も考えられる。これらの関連について研究を進めることで糖尿病の予防法・治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループでは述べている。
東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝内科学分野
Phagocytosis by macrophages promotes pancreatic β cell mass reduction after parturition in mice (Developmental Cell September 2023年9月15日)