GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドがセマグルチドに対し優越性を示す 3用量全群でHbA1c低下・体重減少が上回る
イーライリリー・アンド・カンパニーは、40週間の第3相臨床試験「SURPASS-2試験」の結果から、ベースラインからのHbA1c低下および体重減少について、チルゼパチドのセマグルチド1mg(注射薬)に対する優越性が示されたことを、医学誌「New England Journal of Medicine」および第81回米国糖尿病学会年次学術集会(ADA)のレイトブレーキングポスター発表で同時に公表した。
事前に規定された探索的複合エンドポイントとして、HbA1cが6.5%以下に到達し、体重が10%以上減少し、かつ54mg/dL未満の低血糖または重症低血糖を認めなかった被験者を評価した。
その結果、セマグルチド1mg群の22%に対し、チルゼパチドの3用量全群でそれぞれ、32%(5mg)、51%(10mg)、60%(15mg)の被験者が複合エンドポイントを達成した。
チルゼパチドの全体的な安全性プロファイルは、確立されたグルカゴン様ペプチド(GLP-1)受容体作動薬と同様だった。各投与群ともに消化器系の副作用がもっとも多く報告された有害事象だった。
チルゼパチドの3用量(5mg、10mg、15mg)全群にわたり、セマグルチド群に対するHbA1c低下および体重減少が示された同結果については、ADAスポンサードシンポジウム内でも紹介される。
デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬とGLP-1受容体作動薬を比較
「SURPASS-2試験」は、メトホルミン1日1,500mg以上の単独療法では血糖コントロールが不十分な成人2型糖尿病患者を対象に、チルゼパチド5mg、10mgおよび15mgの有効性と安全性をセマグルチドと比較した40週間の多施設共同、無作為化、並行、非盲検試験。
同試験では、米国、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、イスラエル、メキシコ、イギリスから参加した1,879人の被験者が、1:1:1:1の比率で、チルゼパチド5mg、10mg、15mgまたはセマグルチド1mg群に無作為に割り付られた。
「チルゼパチド」は、2型糖尿病治療のために開発されている新しいクラスの治療薬であり、グルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)とGLP-1の両インクレチンの作用を単一分子に統合した新規の週1回投与デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬。
GIPは、GLP-1受容体作動薬の効果を補完するホルモンであり、前臨床モデルで食物摂取量を減少させ、エネルギー消費を増加させることが示されているため、体重の減少をもたらすと考えられる。また、GLP-1受容体作動薬と併用することで、グルコースと体重に対してより大きな効果をもたらす可能性がある。
なお、セマグルチド1mg(注射薬)はGLP-1受容体作動薬であり、2糖尿病治療薬としてアメリカ食品医薬品局(FDA)に承認されているセマグルチド(注射薬)の最高用量。
米国National Research Instituteのメディカル・ディレクターでSURPASS-2試験の治験責任医師であるJuan Pablo Frías氏は、次のように述べている。
「チルゼパチドはセマグルチドに対し優れたHbA1c低下と体重減少を示しましたが、重要なことは、54mg/dL未満の低血糖を経験せずにチルゼパチドを用いた多くの患者さんのHbA1cが有意に低下したことです。今回の結果は、2型糖尿病患者さんの新たな治療選択肢となりうるこの薬の有効性と安全性を総合的に評価する上で、重要な意味をもちます」
HbA1c低下・体重減少でチルゼパチドが優越性を示す
「SURPASS-2試験」は、メトホルミンの追加療法として成人2型糖尿病患者を対象に、チルゼパチドとセマグルチドの有効性および安全性を比較した40週間の無作為化非盲検試験。被験者1,879人の糖尿病の平均罹病期間は8.6年、ベースラインのHbA1cは8.28%、ベースラインの体重は93.7kgだった。
有効性estimandおよび治療方針estimandを用いた評価では、HbA1c低下と体重減少について、チルゼパチドの3用量全群のセマグルチド1mg群に対する優越性が示された。
有効性estimandの具体的な詳細は以下の通り――。
⚫HbA1c低下:-2.09%(5mg)、-2.37%(10mg)、-2.46%(15mg)、-1.86%(セマグルチド)
⚫ 体重減少:-7.8kg(-8.5%、5mg)、-10.3kg(-11.0%、10mg)、-12.4kg(-13.1%、15mg)、-6.2kg(-6.7%、セマグルチド)
⚫HbA1cが7%未満の割合:85%(5mg)、89%(10mg)、92%(15mg)、81%(セマグルチド)
⚫HbA1cが5.7%未満の割合:29%(5mg、第1種の過誤は制御していない)、45%(10mg)、51%(15mg)、20%(セマグルチド)
治療方針estimandを用いた評価では、HbA1c低下および体重減少について、チルゼパチドの3用量全群のセマグルチド1mgに対する優越性が示された。HbA1c 7%未満に到達した被験者の割合はセマグルチド群に対し、チルゼパチドの3用量全群で数値的に大きく、また、チルゼパチド10mg群およびチルゼパチド15mg群に対する統計学的な有意差は認められたが、チルゼパチド5mg群では認められなかった。
治療方針estimandの具体的な詳細は以下の通り――。
⚫ HbA1c低下:-2.01%(5mg)、-2.24%(10mg)、-2.30%(15mg)、-1.86%(セマグルチド)
⚫ 体重減少:-7.6kg(5mg)、-9.3kg(10mg)、-11.2kg(15mg)、-5.7kg(セマグルチド)
⚫ HbA1cが7%未満の割合:82%(5mg)、86%(10mg)、86%(15mg)、79%(セマグルチド)
⚫ HbA1cが5.7%未満の割合:27%(5mg)、40%(10mg)、46%(15mg)、19%(セマグルチド)
54mg/dL未満の低血糖はチルゼパチド投与群で0.6%(5mg)、0.2%(10mg)、1.7%(15mg)に認められ、セマグルチド群で0.4%に認められた。
追加の探索的評価項目では、チルゼパチドの3用量全群でベースラインからの脂質代謝指標(空腹時)の良好な変化が示された。具体的には、チルゼパチドの最高用量(15mg)群で中性脂肪が24.8%減少し、超低比重リポ蛋白(VLDL)コレステロールが23.7%減少し、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールが7.1%増加した。
各投与群ともに消化器系の副作用がもっとも多く、おおむね軽症から中等度で、悪心(17.4%(5mg)、19.2%(10mg)、22.1%(15mg)、17.9%(セマグルチド))、下痢(13.2%(5mg)、16.4%(10mg)、13.8%(15mg)、11.5%(セマグルチド))、嘔吐(5.7%(5mg)、8.5%(10mg)、9.8%(15mg)、8.3%(セマグルチド))が認められた。有害事象に起因する治療中止割合は、5.1%(5mg)、7.7%(10mg)、7.9%(15mg)、3.8%(セマグルチド)だった。
SURPASS-2試験は、2型糖尿病に対するチルゼパチドの承認申請のための5つの国際試験のうち2つ目の試験。5つの試験は全て完了しており、リリーは2021年の年末までに規制当局へ申請データパッケージを提出する予定としている。
Tirzepatide vs. Semaglutide Once Weekly for Patients with Type 2 Diabetes (New England Journal of Medicine 2021年6月25日)
Efficacy and Safety of Tirzepatide vs. Semaglutide Once Weekly as Add-On Therapy to Metformin in Patients with Type 2 Diabetes(American Diabetes Association’s 81st Scientific Sessions 2021年6月)