肥満は糖尿病などから独立して⻭の喪失リスクに BMIが⾼いほど⻭の残存が少なく奥⻭から喪失 滋賀医科⼤学

2022.09.27
 滋賀医科⼤学は、サンスターと共同で行った研究により、40代以上の年代で、BMI(体格指数)が⾼いほど⻭の本数が少ないこと、肥満者では⾮肥満者に⽐べ、⼤⾅⻭部(奥⻭)から⻭を喪失していくこと、さらには肥満に喫煙習慣が加わることで⻭の喪失リスクは増⼤し、肥満が影響する部位と異なる部位の⻭の喪失にも影響を及ぼすことを明らかにした。

 また肥満は、性別・年齢・喫煙・糖尿病の指標から独⽴して、⻭の喪失のリスクとなることも分かった。

 研究は、20歳~74歳の成人23万3,517人の定期健康診断結果と診療報酬明細書(レセプト)をもとに、年代ごとにBMIと歯の本数の関係を分析したもの。

23万⼈超のビッグデータで肥満と⻭の喪失の関連を解明

 研究は、滋賀医科⼤学糖尿病内分泌・腎臓内科の前川聡教授、森野勝太郎准教授の研究グループが、サンスターと共同で行ったもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載され、第80回米国糖尿病学会年次学術集会でも発表された。

 ⼝腔と全⾝の健康状態には、さまざまな関連があることが分かってきた。前川教授らは2021年に、同じく共同研究で、30代から⾎糖コントロールが悪いほど⻭の本数が少ないことを明らかにし、「Diabetology International」に発表している。

 ⼀⽅、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態である肥満は、2型糖尿病だけでなく、⾼⾎圧や脂質異常症などの⽣活習慣病、⼼⾎管疾患、腎臓病、がんなどのさまざまな病気の重要なリスク因⼦になる。

 最近の研究で、肥満は⻭周病の発症や進⾏のリスクを増⼤させること、肥満者はう蝕リスクが⾼いことが⽰され、また、すでにいくつかの研究で、肥満が⻭の喪失リスクとなることが報告されている。

 しかし、肥満が残存⻭に及ぼす影響を年代別、⻭の部位別に検討した⼤規模な研究はなかった。

 そこで研究グループは、診療報酬明細書(レセプト)と定期健康診断結果から構成される⼤規模データベースを⽤いて、肥満が⻭の残存に及ぼす影響を年代や⻭の部位ごとに分析した。

 また、肥満の⻭の喪失に対する影響について、他の主要なリスク因⼦である喫煙や糖尿病の指標などの関与も考慮して分析を⾏った。

 複数の健康保険組合の定期健康診断受診者約70万⼈のうち、(1) 2015年度に⻭科受診歴があり、(2) ⻭の本数とその部位が確認でき、(3) 健康診断でのBMI(体格指数)とHbA1cのデータ、喫煙習慣の問診回答を有する、20歳~74歳の男⼥23万3,517⼈のデータを解析対象とした。

 対象者を、⽇本肥満学会が定める肥満度の分類に従い、BMI値に応じて4段階[低体重:18.5以下、普通体重:18.5~25未満、肥満(1度):25~30未満、肥満(2~4度):30以上]に群分けし、10歳階級ごとに⻭の本数を⽐較した。

 さらに、BMI 25以上を肥満とし、肥満の有無で2群に分けた⻭の部位別の保有者率および喫煙の有無も加えて、4群に分けた保有者率を算出した。また、BMIとともに、性別、年齢、喫煙習慣、糖尿病の指標(HbA1c≥6.5%)を説明変数としたロジスティック回帰分析を⾏い、⻭数が24本未満となるオッズ⽐を算出した。

肥満が残存⻭に及ぼす影響を年代別、⻭の部位別に検討

 その結果、主に次のことが明らかになった――。

1. 各年代のBMI階層ごとの⻭の残存数

 40代以上の各年代で、BMIが⾼い群ほど⻭の本数が少ないという連続的な関係性が⽰された。⼀般的に⻭の喪失が起こりはじめる50代よりも若い段階で、肥満度が⾼いほど、⻭を喪失しやすい傾向が示された。

年代別のBMI階層ごとの⻭の残存数
出典:滋賀医科⼤学、2022年

2. 肥満の有無と⻭の部位別の保有者率

 肥満者(BMI 25以上)では、⾮肥満者(BMI 25未満)と⽐較して、多くの部位の⻭を失っており、30~60代のいずれの年代でも⼤⾅⻭(奥⻭)および上顎中切⻭の保有者率が有意に低いことが分かった。
 上顎の多くの⻭では、40代ですでに両者の保有者率に顕著な違いがあった。肥満による保有者率低下の影響がもっとも⼤きく観察された⻭の部位は、下顎の⼤⾅⻭であることが明らかになった。
 また、肥満に喫煙の条件が加わると、保有者率が有意に低い⻭の部位がさらに増え、肥満のみとは異なる部位の⻭の喪失にも影響することが示された。

⾮肥満・肥満での年代別の⻭の部位別保有者率の⽐較
⾮肥満者と肥満者のそれぞれの⻭の保有者率
バーが短いほど保有者率が低く、失いやすい⻭であることを⽰す。⻘⾊は有意(p<0.05)に保有頻度が低い⻭。
出典:滋賀医科⼤学、2022年

3. ⻭数24本未満に及ぼすリスク因⼦

 研究グループは、肥満が独⽴した⻭数24本未満となるリスク因⼦であるかどうかを検討するために、他のリスク因⼦で調整した下記の4つのモデルによるロジスティック回帰分析を⾏った。
モデル1:BMI≥25.0、モデル2:モデル1 + 性別・年齢、モデル3:モデル2 + 喫煙習慣、モデル4:モデル3 + HbA1c≥6.5

 その結果、BMI≥25.0のオッズ⽐は、それぞれモデル1 1.47(95%CI:1.43-1.52)、モデル2 1.39(95%CI:1.35-1.44)、モデル3 1.39(95%CI:1.34-1.44)、モデル4 1.35(95%CI:1.30-1.40)となり、肥満は喫煙や糖尿病の指標などの他のリスク因⼦から独⽴して⻭数24本未満を説明する因⼦であることが明らかになった。

肥満のある人は⽐較的若い年代から適切なオーラルケアを⾏い⻭周病やう蝕を予防することが重要

 「これまでも、肥満が⻭の喪失と関係することが知られていましたが、20万⼈を超えるビッグデータを⽤いたことで、BMI階層や部位別の分析を実施することができました」と、研究者は述べている。

 今後の展望としては、2022年6⽉に閣議決定された 「経済財政運営と改⾰の基本⽅針2022(⾻太の⽅針2022)」で、⻭科に関わる⽅針として、全⾝の健康と⼝腔の健康に関する科学的根拠の集積と国⺠への適切な情報提供、⽣涯を通じた⻭科健診(いわゆる国⺠皆⻭科健診)の具体的な検討などのいくつかの⽅針が明⽰されたことをあげている。

 「今回、さまざまな病気のリスクとして知られている肥満状態が、⽐較的若い年代から⻭の喪失に影響している可能性について、実社会での労働世代のビッグデータを⽤いて⽰すことができました。肥満者で、⻭の喪失を防ぐために、⽣活習慣の改善による減量や禁煙に加えて、早期の⻭科受診による⻭周病やう蝕の治療、適切な⼝腔衛⽣習慣による奥⻭のケアは、⻭の喪失を防ぐことによって健康の維持に役⽴つことが期待されます」としている。

滋賀医科大学内科学講座 糖尿病内分泌・腎臓内科
Real-world evidence of the impact of obesity on residual teeth in the Japanese population: A cross-sectional study (PLOS ONE 2022年9月14日)
Glycemic control and number of natural teeth: analysis of cross-sectional Japanese employment-based dental insurance claims and medical check-up data (Diabetology International volume 2021年8月28日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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