インスリン経口投与を可能としうる新しい創薬技術を開発 熊本大学

2026.01.21
 熊本大学の研究グループは、経口インスリンの実現に向けた画期的な基盤技術を確立したと発表した。
 本研究で開発された経口インスリンは、糖尿病モデルマウスへの単回投与で血糖値を正常域まで低下させ、さらに1日1回の投与を3日間継続しても、毎回同定度の血糖降下作用を示した。また、皮下注射と同用量のインスリンを経口投与した際には、注射の約3〜4割に相当する血糖降下作用を達成し、実用化の課題であったインスリン投与量の大幅な削減を実現した。

 経口インスリンの実現を妨げる要因として、主に二つの課題が挙げられる。一つはインスリンが消化管(胃や腸)の酵素によって容易に分解されてしまうこと、もう一つは小腸にインスリンを吸収する輸送機序が存在しないことである。研究グループは以前に、高分子薬の小腸吸収を促す「小腸透過性環状ペプチド(DNPペプチド)」を独自に発見し、このDNPペプチドと亜鉛インスリン六量体を混合して経口投与することでマウスの血糖値を低下させることを報告している。しかし、その薬理効果は皮下注射に比べて弱く、十分な血糖降下作用を得るためには高用量のインスリン投与が必要であった。そこで研究グループは、DNPペプチドを用いた技術を改良し、より効率よく血糖値を下げられる新しい経口インスリン投与法の開発を目指した。

 本研究ではまず、D体アミノ酸で構成されるDNPペプチドに、インスリン結合性ペプチドを連結した「D-DNP-Vペプチド」を合成した。このD-DNP-Vペプチドを注射製剤で用いられる亜鉛インスリン六量体と混合して相互作用させるだけで経口吸収は大幅に向上し、その結果、糖尿病モデルマウスでは血糖値が正常域まで低下した。さらに、1日1回の経口投与を3日間継続しても安定した血糖降下作用が観察された。

 次に、DNPペプチドをクリックケミストリーによってインスリンと直接共有結合させた「DNP-インスリン結合体」を合成した。この共有結合型インスリンに亜鉛を添加して経口投与したところ、混合手法と同等の血糖降下作用が示された。この結果により、DNP ペプチドがイ ンスリンに結合することで小腸吸収を促進させることが示された。また研究グループは本結果について、経口インスリンの創薬において「既存製剤との簡便な混合」と「化学的な共有結合」という二つの異なる基盤技術が確立されたことを意味するものだとした。

 経口インスリンの開発において、これまで十分な血糖降下作用を得るためには、皮下投与の10倍以上のインスリン量を用いる必要があり、これが実用化の大きな壁となっていた。本研究ではこの課題を克服するため、皮下投与と同量のインスリンにD-DNP-Vペプチドを混合し経口投与した際の有効性を検証。その結果、インスリン注射の約3〜4割に相当する血糖降下作用を達成しており、経口投与におけるインスリン必要量を低減できる可能性が示された。研究グループは本結果について、「飲むインスリン」の実用化に向けた最大の課題の一つを解決したことを実証するものとした。

 研究グループは、本研究によりDNP ペプチドを基盤とした経口インスリンが、注射不要の「飲むインスリン」実現につながる極めて有望な方法であることが明確になったとしている。また今後について「イヌなどの大型動物を用いた長期投与実験により、製剤の安全性と効果の持続性を検証する。また、ヒト小腸透過に関する in vitro モデルを用いた薬物動態解析を実施し、小腸へ確実に到達・吸収させるための経口インスリン製剤技術の構築を進める」と述べている。

 本研究は、熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)の准教授 伊藤慎悟氏らの研究グループにより実施され、研究成果は2025年11月24日付で国際学術誌「Molecular Pharmaceutics」に掲載された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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