糖尿病などによる「重症下肢虚血症」の革新的治療法を開発 医師主導の治験を開始 「バイオチューブ」を用いて膝下動脈へのバイパス術を施行
足の血管が詰まる「重症下肢虚血疾患」の血行再建は困難
足の皮膚が欠損する「足潰瘍」は、糖尿病の主な合併症のひとつだ。糖尿病などが原因で起こる「重症下肢虚血症」の患者数は約10万人とみられる。
重症下肢虚血症では、虚血性安静時疼痛、足潰瘍・壊疽などを呈し、日本でも年間約1万人もの患者で足切断が行われている。切断後の予後も1年以内の死亡率が25%、対側の足の切断率が25%と極めて悪く、生命に直結する深刻な病態だ。
下肢の切断を防ぐために、血行再建が行われており、一般的に下肢の血行再建は、カテーテル治療である血管内治療と、自家静脈あるいは人工血管を用いてのバイパス手術により行われている。
しかし、膝下膝窩動脈から下腿動脈に対する血管内治療は、再狭窄や閉塞が多く、細い人工血管によるバイパスも成績不良だ。膝下のバイパスに使える細く長い人工血管はなく、患者の静脈が使用できなければ、足は壊死し切断となってしまう。
自家静脈を使用してのバイパスがもっとも成績が良いが、静脈瘤であったり、静脈が細い、すでに冠動脈や末梢動脈のバイパスに使用済みであるなどで、自家静脈が使えない場合も多く、救肢は困難となっている。代替血管となる革新的医療機器が求められている。
そこで、体内管状組織形成具(バイオチューブメーカー)による代替血管が、重症下肢虚血症の治療に革新的な進歩をもたらすと期待されている。
人工血管を患者の体内で形成し移植する「バイオチューブ」の承認に向けた医師主導治験を開始
大分大学などは5月に、「体内管状組織形成具(バイオチューブメーカー)の薬事承認に向けた医師主導治験」を開始すると発表した。
この研究は、世界初の小口径再生人工血管の体内形成具(バイオチューブメーカー)の早期承認を目指し、患者体内での自家管状組織(バイオチューブ)の形成能を主評価する探索的医師主導治験だ。
バイオチューブの下肢動脈としての機能性を主評価する治験の完遂により、次の検証的治験につなげ、最終的に自己静脈に代わる人工血管を臨床で使えるようにすることを目標としている。
国立循環器病研究センター発のスタートアップであるバイオチューブは、患者の自己組織から人工血管(自己筒状組織体)を作製する再生医療技術(生体内組織形成術:iBTA)の開発に取り組んでいる。
IBTAは、国立循環器病研究センター研究所の中山泰秀氏が開発した新発想の再生医療技術で、皮下脂肪層周辺に特定の医療機器(鋳型)を挿入することで、自己の移植用組織体を体内で作成するというもの。
体内に異物を埋め込んだ際に、異物を隔離するために周囲をコラーゲン組織で覆う、カプセル化反応を応用しており、皮下に金属や高分子性の鋳型を留置することで、鋳型内部に形成される患者自身のコラーゲン組織を移植用組織として使用する。
体外での細胞培養工程を必要とせず、細胞培養や無菌施設の必要がなく、鋳型の埋め込みのみで所望の形状の移植用組織を自動的に作製できるため、手間とコストを大幅に削減できるという。
この研究は、2019年に厚生労働省の先駆け審査指定制度に指定され、日本医療研究開発機構(AMED)事業として、2020年より非臨床試験が開始された。
大分大学研究マネジメント機構産学官連携推進センター
バイオチューブによる膝下動脈へのバイパス術を施行 安全性と有効性を評価
大分大学などによる医師主導治験は、大分大学病院を中心に、横浜総合病院、大分岡病院で、共同・非盲検・非対照単一群で、2022年10月より行われている。併行して機器の開発関係の整備、規制当局との対応を進め、事業終了時には速やかに薬事申請を行う予定としている。
対象となるのは、▼重症下肢虚血があり、▼血管内治療を行っても臨床症状の改善が得られず、膝下の動脈へ末梢吻合するバイパス術を必要としている、▼必要な長さのある至適な静脈がない患者。目標症例数は12例。
目的は、治療選択肢のない重症下肢虚血患者に対し、治験機器による自家バイオチューブを用いて膝下動脈へのバイパス術を施行し、安全性と有効性を評価すること。
治験調整医師は大分大学心臓血管外科の宮本伸二教授、企業開発代表者はバイオチューブの中山泰秀氏、治験責任医師は横浜総合病院創傷ケアセンターの東田隆治センター長がそれぞれ務める。