持続血糖モニター(CGM)はどんな糖尿病患者に有用か HbA1cのみによる血糖管理には限界が

2022.08.09
 順天堂大学は、持続血糖モニター(CGM)により血糖変動や低血糖を評価することが有用な糖尿病患者の特徴を明らかにしたと発表した。

 研究グループは、2型糖尿病患者を対象に、どのような特徴をもつ患者にCGMが有用であるかを調査した。その結果、▼高齢、▼インスリンかつ/あるいはスルホニル尿素(SU)薬で治療中、▼慢性腎臓病を合併している2型糖尿病患者では、それぞれ同じレベルのHbA1c値をもつ対照群に比べ、血糖変動が大きい、あるいは低血糖の発症割合が高いことが明らかになった。それらの特徴を有する患者に対してCGMを行うことで、個々の血糖パターンに応じた最適な医療を提供できる可能性があることが示された。

 研究では、同じレベルのHbA1c値でも血糖パターンが異なる患者の特徴を調査した。「CGMで血糖パターンを評価することは最適化医療の実現の一助になる」と、研究グループでは述べている。

どのような特徴のある患者でCGMが有用かを調査

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の三田智也准教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」にオンライン掲載された。

 糖尿病では、血糖管理により合併症の発症や進展を抑制することが重要な課題となる。日常の臨床では過去1~2ヵ月間の血糖管理の状態を反映するHbA1cが使用されており、日本を含めた各国のガイドラインでは、合併症を抑制するための血糖管理目標としてHbA1c7%未満を達成することが推奨されている。

 しかし、HbA1cには貧血の際に低値になるなどいくつかの問題がある。また、血糖変動が大きい、あるいは低血糖の頻度が高い2型糖尿病患者では、死亡率が高くなることが報告されているが、HbA1c値では血糖変動や低血糖を評価することはできない。

 そのため、持続血糖モニター(CGM)により、それらを評価することは重要であると考えられるが、測定の費用や装着中の煩雑さなどの問題から、すべての2型糖尿病患者にCGMを行うのは現実的ではない。そこで研究グループは、どのような特徴を有する患者で、CGMが有用であるかを調査した。

個々の血糖パターンによりグループに分類

 研究では、順天堂医院などに通院中の2型糖尿病患者999人を対象に、CGMとHbA1cの測定を行った。まず、「HbA1c 7.0%未満」「HbA1c 7.0~7.9%」「HbA1c 8.0~8.9%」「HbA1c 8.9%以上」で分類し、4つのグループに分けた。

 さらに、血糖変動や低血糖の発症に影響を与える可能性のある特徴の有無【サブグループ:年齢(65歳未満、65歳以上)、糖尿病治療薬の種類(インスリンかつ/あるいはスルホニル尿素(SU)薬で治療している、それらで治療していない)、腎機能(推定糸球体濾過量(eGFR)60mL/min1.73m²未満、eGFR60mL/min1.73m²以上)】により8つのグループに分けた。

 CGMによる評価項目は、血糖変動の指標として、目標血糖値範囲(70~180mg/dL)を満たす治療域の割合と、治療域より低値である低血糖域の割合(70mg/dL未満、54mg/dL未満)、治療域より高値である高血糖域の割合(180mg/dLより大きい、250mg/dLより大きい)などとした。

 研究グループは、それぞれのサブグループの同じHbA1cのカテゴリーで、CGMにより評価した項目に違いがないかを検討した。

HbA1cは同程度でも血糖変動の大きさや低血糖の頻度に違いがある

 その結果、65歳未満と65歳以上の比較では、HbA1c7.0%未満のカテゴリーで65歳以上は夜間の低血糖域の割合が高いことが分かった。

 インスリンかつ/あるいはSU薬を使用していると、それらを使用していない患者に比べ、HbA1c7.0%未満とHbA1c7.0~7.9%のカテゴリーは、インスリンかつ/あるいはSU薬を使用している場合に血糖変動が大きく、低血糖域の割合が高いことが明らかになった。

 HbA1c8.0~8.9%のカテゴリーでは、インスリンかつ/あるいはSU薬を使用している場合に、低血糖域の割合が高いことが示された。

 eGFR60未満と60以上の比較では、HbA1c7.0%未満、HbA1c7.0~7.9%、HbA1c8.0~8.9%のカテゴリーのいずれでも、eGFR60未満の場合に低血糖領域の割合が高いことが分かった。

 このことから、同程度のHbA1c値であっても患者の特徴の違いにより血糖変動の大きさや低血糖の発症割合に違いがあることが明らかになった。

同レベルのHbA1c値であっても患者の特徴により血糖パターンに違いがある

出典:順天堂大学、2022年

CGMで得られた指標は最適化治療の実現のための重要な情報になる

 以上より、▼高齢、▼インスリンかつ/あるいはスルホニル尿素(SU)薬で治療中、▼慢性腎臓病を合併した2型糖尿病患者の一部では、日常の臨床で血糖管理指標として使用しているHbA1cでは評価できない血糖変動や低血糖をCGMにより評価することが重要だということが示された。

 「今回の研究では、どのような特徴をもつ患者でCGMが有用なのかを明らかにしました。CGMにより得られた血糖管理指標は、個々の血糖パターンに合わせた最適化治療の実現のための重要な情報だということができます」と、研究グループでは述べている。

 「今後は、HbA1cの値が同じレベルでも血糖パターンによって動脈硬化、心血管イベント、細小血管障害や予後に与える影響が異なるのかを明らかにしたいと考えています。さらに、それらの指標を改善させることが、動脈硬化や心血管イベントの抑制に繋がるかを検証する予定です」としている。

 「現在、日本では持続血糖モニター(CGM)の保険適応は、インスリン療法中の糖尿病患者に限定されています。今後、当研究でCGMにより血糖変動の指標を評価する意義が示されれば、保険適応の変更により、実地臨床で必要な患者にCGMで測定が行えるようになり、最適な個別化医療につながる可能性があると考えております」と、研究者はコメントしている。

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学
The importance of continuous glucose monitoring-derived metrics beyond HbA1c for optimal individualized glycemic control (Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 2022年7月31日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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