GLP-1受容体作動薬「セマグルチド2.4mg」が、左室駆出率が保持された心不全および肥満の成人の心不全関連症状と身体的制限を大幅に軽減

2023.09.05
 ノボ ノルディスクは8月25日、第3相STEP HFpEF試験で、GLP-1受容体作動薬「セマグルチド2.4mg」の週1回皮下投与が、左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)および肥満をもつ成人で、プラセボ投与と比較して、心不全関連症状、身体的制限および運動機能を大幅に改善し、より大きな体重減少をもたらしたことを発表した。

 HFpEFの症状および身体的制限を評価するための、患者報告によるカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ-CSS)でも、大幅が改善が示された。

セマグルチド2.4mgが心不全関連症状と身体的制限を大幅に軽減

 STEP HFpEF試験の主な目的は、HFpEFおよび肥満をもつ成人を対象に、セマグルチド2.4mgの週1回皮下投与が症状、身体機能、および体重に及ぼす影響をプラセボと比較して検討すること。

 同試験には、症候性HFpEF(左室駆出率45%以上)および肥満(BMI 30以上)を有する529人が組み入れられた。2つの主要評価項目は、ベースラインから52週後までのKCCQ-CSSの変化量およびベースラインから52週後までの体重の変化率であり、主な副次評価項目は、ベースラインから52週目までの6MWDの変化量、階層的複合評価項目(全死亡、心不全イベント、ベースラインから52週後までのKCCQ-CSSの変化量の差および6MWDの変化量の差)、およびベースライン(スクリーニング)から52週後までのC反応性蛋白の変化だった。

 その結果、52週後のKCCQ-CSSの変化量の平均は、セマグルチド2.4mg投与群では16.6ポイント上昇したのに対し、プラセボ投与群では8.7ポイント上昇であり、群間差の推定値は7.8ポイントだった(p<0.001)。

 また、体重の変化率の平均は、セマグルチド2.4mg投与群では13.3%減少したのに対し、プラセボ投与群では2.6%の減少であり、群間差の推定値は10.7%だった(p<0.001)1。

 52週後の6分間歩行距離(6 MWD)の増加量の平均がセマグルチド投与群で21.5メートルであったのに対し、プラセボ投与群では1.2メートルであり、群間差の推定値は20.3メートルだった(p<0.001)。セマグルチドは、高感度C反応性蛋白(hsCRP)を指標とする炎症の改善も示した。

 セマグルチド2.4mgの安全性プロファイルは、これまでのセマグルチド2.4mgを用いた試験と同様であり、プラセボと比較して重篤な有害事象が少ないことが示された。

 研究成果は、オランダ・アムステルダムで開催された欧州心臓病学会(ESC)で発表され、同時に「New England Journal of Medicine」に掲載された。

HFpEFおよび肥満の患者に提供する治療オプションは現状では限られている

 左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)はすべての心不全症例の約半数を占め、疲労、息切れ、運動能力の低下、四肢のむくみなど、日常生活に影響を及ぼす症状および身体的制限の大きな負担と関連している。HFpEFをもつ患者の大半(80%)は過体重または肥満とともに生活しており、これは症状の負担の増大、身体機能の悪化および生活の質の低下と関連している。

 世界には6,400万人の心不全とともに生きる人々がいて、HFpEFは現在もっとも一般的な心不全であり、全症例の約50%を占めている。さらに、HFpEFをもつ人の80%が過体重または肥満とともに生活している。HFpEFでの治療の進歩にもかかわらず、いまだ大きなアンメットニーズが継続しており、表現型特異的治療が臨床的効果をもたらす可能性があるという仮説が立てられている。HFpEFおよび肥満をもつ人は、死亡率が高く、入院のリスクが高く、衰弱性症状、身体的および社会的制限、および生活の質の低下という負担が大きくなっている。

 同試験のLead study investigatorであり、およびカンザスシティのSaint Luke’s Mid America Heart Instituteの心臓病専門医であるミクヘイル コシボロッド氏は次のように述べている。
 「臨床医として、HFpEFおよび肥満とともに生きる方々に提供する治療オプションは限られている。そして、このことは、疾患の症状の悪化および機能的制限により、患者さんの日々の生活に深刻な影響を及ぼす。今回のニュースは、心臓病専門医が肥満を有するHFpEF患者さんにどのようにアプローチするかという根本的なパラダイムシフトの可能性を予告するものであり、この助けを必要とする患者さん達の将来の臨床管理を変える可能性があるものだ」。

 「STEP HFpEF試験の結果は、セマグルチド2.4mgが体重管理を超えて心血管ケアを強化する可能性を強固にするものだ。我々は臨床現場および規制当局と緊密に協力し、今後数ヵ月にわたってこの可能性について議論できることを楽しみにしている」と、同社では述べている。

 なお、現在進行中のSTEP HFpEF-DM試験(2型糖尿病のある成人を対象としたHFpEFおよび肥満に関する別の研究)も、規制当局への提出書類に含まれる予定としている。STEP HFpEF-DM試験は2023年第4四半期に完了する予定であり、良好な結果が得られれば、ノボ ノルディスクは2024年上半期に米国および欧州でWegovyの適応拡大の承認申請を行う予定としている。Wegovyは、米国、デンマーク、ノルウェー、ドイツで販売されている。

* この記事での「肥満」とは、体格指数(BMI)30以上を「肥満」(BMI25以上30未満は「過体重」)とする世界保健機関(WHO)の国際基準に基づいている。日本では、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、BMI25以上のものが「肥満」と定義され、また日本での「肥満症」は、肥満があり、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする病態と定義されている。
* Wegovyの適応症は、日本で製造販売承認が得られているウゴービ皮下注の適応症とは異なる。

Semaglutide in Patients with Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity (New England Journal of Medicine 2023年8月25日)

ウゴービ皮下注 添付文書 医薬品ガイド (医薬品医療機器総合機構)

関連情報

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

脂質異常症の食事療法のエビデンスと指導 高TG血症に対する治療介入を実践 見逃してはいけない家族性高コレステロール血症
SGLT2阻害薬を高齢者でどう使う 週1回インスリン製剤がもたらす変革 高齢1型糖尿病の治療 糖尿病治療と認知症予防 高齢者糖尿病のオンライン診療 高齢者糖尿病の支援サービス
GLP-1受容体作動薬の種類と使い分け インスリンの種類と使い方 糖尿病の経口薬で最低限注意するポイント 血糖推移をみる際のポイント~薬剤選択にどう生かすか~ 糖尿病関連デジタルデバイスの使い方 1型糖尿病の治療選択肢(インスリンポンプ・CGMなど) 二次性高血圧 低ナトリウム血症 妊娠中の甲状腺疾患 ステロイド薬の使い分け 下垂体機能検査
NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療-減量・代謝改善手術- 骨粗鬆症治療薬 脂質異常症の治療-コレステロール低下薬 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症 FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 褐色細胞腫

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料