血圧上昇を伴う心腎連関病態でARNIはより優れた心保護効果を発揮 腎保護効果でのARBとの違いを解明 横浜市立大学
ARNIとARBの心腎臓器保護のメカニズムの違いを解明
ARNI(アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬)は、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)であるバルサルタンとネプリライシン阻害薬であるサクビトリルを合わせた薬剤であり、心不全治療や降圧薬として使われている。
横浜市立大学は、心臓もしくは腎臓の臓器障害が他方の臓器にも悪影響を及ぼす心腎連関病態について、ARNIである「サクビトリル/バルサルタン」と、ARBである「バルサルタン」を比較し、臓器保護メカニズムの違いについて明らかにしたと発表した。
研究グループは今回、血圧上昇をともなう心腎連関病態で、ARNIはARBよりも大きな心機能改善効果と心線維化抑制効果を有することを示した。
一方、アルブミン尿をともなう腎障害で、ARNIはARBよりも、細胞の増殖や浸潤などに関わるPI3K-Akt経路の抑制が不十分であり、アルブミン尿の増大や腎線維化に関連する可能性が示された。
ARNIに、炎症抑制の作用のあるPI3K阻害薬を併用すると、ARNIの優れた心保護効果が維持されたまま、ARBと同程度まで腎保護効果が発揮されることが分かった。
研究は、横浜市立大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・高血圧内科学教室の塚本俊一郎氏、涌井広道准教授、田村功一主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、欧州心臓病学会誌「European Heart Journal Open」に掲載された。
ARNIの腎臓の保護効果は十分に解明されていない
アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)は、世界規模の大規模臨床試験で、心不全患者の新たな心血管イベントの発生を抑制するなど、優れた心臓の保護効果が示されている。
ARNIはまた、日本では優れた高血圧の薬としても使用されている。心不全患者の腎機能の保持にも効果的である可能性が示唆されているが、一方でアルブミン尿を増加させることも報告されており、腎臓への保護効果については十分に解明されていない。
とくに、アルブミン尿が多量に出ているような腎臓病や心腎連関病態では、どのような効果があるかは分かっていない。
そこで研究グループは、アルブミン尿をともなう心腎連関症候群の病態を模倣したANSマウスというモデルマウスを用いることで、ARNIの心臓と腎臓への保護効果を検証した。
ANSマウスは、高血圧、心不全および多量のアルブミン尿をともなっており、心臓と腎臓の線維化や腎糸球体の肥大が認められた。
ARNIにPI3K阻害薬を併用すると優れた心保護効果を発揮したまま腎保護効果も
このANSマウスに、ARNIとARB(バルサルタン)による治療を行ったところ、ARNIとARBはどちらもANSマウスの血圧上昇を有意に抑制したが、ARNIはさらにANSマウスの心不全(左室収縮力の低下)や心線維化を、ARBよりも改善することが示された。
一方、腎臓については、ARBの方がARNIよりも、ANSマウスのアルブミン尿抑制や腎線維化・糸球体肥大の抑制効果で優れていた。
そこで、さらに腎臓を詳細に解析したところ、ARNIによる治療ではANSマウスで亢進していたホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)-Aktシグナリングパスウェイという分子伝達経路の抑制が、ARBと比べて不十分であることが分かった。PI3K-Aktは細胞の増殖や浸潤などに関わる
そこで、このPI3K-Aktパスウェイを阻害する薬剤をARNI治療に併用することで、ARBと同程度までARNIの腎保護効果が発揮されることが分かった。
「ARNIの心臓への治療効果はすでに確立されているが、本研究は、ARNIがもつ腎臓への作用メカニズムや腎保護効果の可能性の解明につながることが期待される結果になった。また、どのような病態や患者さんでARNIがより効果的に使用できるかなど、より良い治療選択肢の提供につながることが期待される」と、研究者は述べている。
横浜市立大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・高血圧内科学教室
Combination of Sacubitril/Valsartan and Blockade of the PI3K Pathway Enhanced Kidney Protection in a Mouse Model of Cardiorenal Syndrome (European Heart Journal Open 2023年9月29日)