NT-proBNPによるスクリーニング、糖尿病患者の心不全を高率に発見できる可能性

2026.09.09
心不全は糖尿病の重大な合併症であるが、未診断のまま進行するケースが少なくない。スコットランドで実施された無作為化比較試験「TARTAN-HF」では、心不全リスク因子を有する糖尿病患者に対するNT-proBNPを用いたスクリーニングについて検討された。その結果、通常診療群における心不全診断率が0.6%だったのに対し、スクリーニング群では24.6%に上ったとの報告がなされた。本研究結果は、2026年8月19日付で「Journal of the American College of Cardiology」に掲載された。

 心不全は糖尿病患者において高頻度に見られる心血管合併症であり、高血圧や高血糖などのリスク因子を管理した後もその発症リスクは持続する。未診断の心不全を早期に特定することは、予後を改善する疾患修飾療法を導入するために極めて重要である。しかし、現在の国際的な診療ガイドラインにおいて、糖尿病患者に対する心不全スクリーニングの推奨事項は一貫していない。そこで、心不全のリスク因子を有する糖尿病患者を対象に、ナトリウム利尿ペプチドを用いた心不全スクリーニング戦略の診断的意義を評価する目的で本研究(TARTAN-HF試験)は実施された。

 TARTAN-HF試験は、スコットランド西部で実施された前向き、多施設共同、非盲検の無作為化比較試験。対象は、既知の心不全を持たない40歳以上の1型または2型糖尿病患者706名であり、参加者は、冠動脈疾患、持続性または長期持続性心房細動、虚血性または塞栓性脳卒中の既往、末梢動脈疾患、慢性腎臓病、30日以上の定期的なループ利尿薬の使用、慢性閉塞性肺疾患のうち、少なくとも1つ以上の心不全リスク因子を有していた。

 参加者は、NT-proBNPによるスクリーニングを行う群(354名)と、通常診療を行う群(352名)に1対1で無作為に割り付けられた。スクリーニング群では、NT-proBNP値が125pg/mL以上の場合に詳細な経胸壁心エコー検査が実施された。主要評価項目は、欧州心臓病学会の2021年ガイドラインの定義に基づく、無作為化から6カ月後における心不全の診断とされた。

 参加者の年齢中央値は71歳、男性が69%を占め、90%が2型糖尿病患者であった。糖尿病の罹病期間中央値は12.5年であった。最も一般的な適格リスク因子は慢性腎臓病(57%)であり、次いで冠動脈疾患(39%)であった。2つのリスク因子を有する割合は26%、3つ以上のリスク因子を有する割合は10%であった。 

 6カ月間の追跡の結果、通常診療群での心不全診断は2例(0.6%)にとどまったのに対し、スクリーニング群では87例(24.6%)が新たに心不全と診断された(OR 58、95%CI 14~236、P<0.001)。スクリーニング群で特定された心不全症例の大部分(93%)は左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)であり、同群全体の23%(81例)を占めた。一方、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)および軽度低下した心不全(HFmrEF)はそれぞれ3例(0.8%)であった。1例の心不全を特定するために必要なスクリーニング人数は5人(95%CI 4~6)であった。この人数は心不全リスク因子の合併数が増加するにつれて減少し、リスク因子が1つの場合は7人、2つの場合は3人、3つ以上の場合は2人となった。  

 また、特定された心不全患者におけるカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ-12)の全体サマリースコアの中央値は65.6であり、心不全と診断されなかった患者の89.6と比較して有意に低く、特に身体的制限のスコア低下が顕著であった。多く見られた症状は息切れ(84%)と疲労感(53%)であり、身体所見として足関節の浮腫(53%)が高頻度に認められた。これは、スクリーニングによって発見された心不全が単なる無症候性の状態ではなく、日常生活に実質的な影響を及ぼす症候性心不全であることを示している。 

 さらには、スクリーニング群では、無作為化から6カ月後にかけてSGLT2阻害薬の処方率がベースラインの23.7%から38.8%へと有意に増加し、ループ利尿薬の使用率も14.7%から24.9%に増加した(いずれもP<0.001)。通常診療群においては、同時期における各薬剤の処方率に有意な変化は見られなかった。

 これらの結果から、心不全リスクを有する糖尿病患者に対するNT-proBNPを用いたスクリーニングは、未診断の症候性心不全、特にHFpEFを高率に発見できる可能性が示された。本試験で心不全が発見された患者の多くは健康状態の悪化や身体的制限を抱えていた。著者らは、心不全の早期診断・介入を促す観点からも、日常診療においてリスク因子を持つ糖尿病患者に対するNT-proBNPを用いた心不全スクリーニングの実施が有用であることが示唆されるとしている。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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