肥満がインスリン分泌細胞の機能を低下させ糖尿病発症をもたらす仕組みを解明 筑波⼤学
膵β細胞が酸化ストレスの影響を受けやすい分子メカニズムを解明
筑波⼤学は、肥満により膵β細胞の機能が低下し、糖尿病発症をもたらすメカニズムとして、代謝産物センサー分⼦であるCtBP2タンパク質が肥満病態で分解されることを明らかにしたと発表した。
経年的な肥満や代謝異常が、膵β細胞の機能を低下させ、インスリン分泌が低下することが病態のひとつの柱となっているが、これまでの研究は、膵β細胞の特異的なメカニズムについての報告が多く、肥満に共通してみられる病態に関する研究は少なかった。
研究グループはこれまで、肥満病態は肝臓での代謝産物センサー分⼦CtBP2タンパク質の不活性化により惹起されること、さらに、これを活性化させると2型糖尿病や脂肪肝に治療効果を⽰すことを報告している。
今回の研究で、肥満によって膵β細胞に⽣じる酸化ストレスにより、CtBP2が壊されてしまうこと、それによって膵β細胞の機能が維持できなくなり、インスリン分泌低下や糖尿病をもたらすことを明らかにした。
CtBP2は、遺伝⼦発現を直接に制御する転写因⼦に結合し、その活性を調節する転写共因⼦であり、膵β細胞では転写因⼦NeuroD1と結合して、転写因⼦複合体を形成している。
今回の研究で、膵β細胞でCtBP2が結合するNeuroD1は、インスリンや膵β細胞の機能維持に重要な遺伝⼦群の発現の調節を担っており、CtBP2はこのNeuroD1の機能を増強していることが示された。
また、その遺伝⼦発現調節は、KMT2(酵素)などのヒストンメチル化などを介して、クロマチン構造を調節することで⾏われていることも明らかになった。
これまでの研究と合わせて、CtBP2が肥満で機能しなくなることが、肥満やメタボの発症やその病態に重要な役割を果たしていることを示している。
研究は、筑波大学医学医療系の島野仁教授、関谷元博准教授らによるもの。
「肥満は、2型糖尿病・脂肪肝・動脈硬化だけでなく、がん・精神疾患・免疫機能など、代謝との関連が少ないようにみえる疾患にも幅広く影響をもたらす。肥満の病態で、さまざまな臓器や細胞の機能が低下する仕組みを解明することが重要」と、研究者は述べている。
肥満になると酸化ストレスが増加することで、CtBP2やNeuroD1のユビキチン化が起こり、これらのタンパク質は分解されてしまう。そのためβ細胞の機能維持が障害され、インスリン分泌低下型の糖尿病を発症する。
膵β細胞でCtBP2を活性化すると治療効果を得られる可能性
研究グループは今回の研究で、さまざまな肥満モデルマウスで、膵β細胞でのCtBP2は顕著に低下しており、ヒトの肥満者(脳死ドナーの検体)でも、CtBP2発現量が低下していることを確かめた。
膵β細胞は、酸化ストレスの消去能が他の細胞に⽐して弱いことが知られており、肥満によって⽣じる酸化ストレスによって、CtBP2はユビキチン修飾を受け分解されるために、発現量が低下するという仕組みを明らかにした。
さらに、膵β細胞特異的にCtBP2遺伝⼦を⽋損させたマウスでは、胎⽣期から⽋損させても⽣後に⽋損させても、インスリン分泌低下型の糖尿病を⽰した。
以上のことから、⻑期の肥満経過での膵β細胞機能低下および糖尿病の発症のプロセスは、(1) 肥満によってCtBP2量が低下する、(2) インスリン分泌が低下する、(3) 糖尿病を発症する、というCtBP2を中⼼とした分⼦メカニズムで説明できるとしている。
「本研究では、肝臓に続いて膵β細胞でも、肥満でのCtBP2の不活性化が病態の原因であり、その活性化が治療効果を⽰すという結論に達した。肥満での膵β細胞の機能低下の新しい理解を得ただけでなく、今後、CtBP2が肥満の分⼦メカニズムの共通項として、臨床応⽤研究などの対象となることが期待される」と、研究者は述べている。
筑波大学内分泌代謝・糖尿病内科
Loss of CtBP2 may be a mechanistic link between metabolic derangements and progressive impairment of pancreatic β cell function (Cell Reports 2023年8⽉8⽇)