冠動脈疾患治療で新たなエビデンス 抗血栓療法は出血させないことが重要 AFIRE研究のサブ解析
心房細動を合併した安定冠動脈疾患例での大出血とその後の脳心血管イベントとの関連性が明らかとなり、重大な出血性イベントの発生がその後の脳心血管イベント発症の引き金になることが明らかになった。より出血リスクを考慮した抗血栓療法が重要であることが示唆された。
重大な出血性イベントの発生がその後の脳心血管イベント発症の引き金に
宮崎大学や熊本大学の研究グループは、心房細動を合併した安定冠動脈疾患患者での大規模臨床研究である「AFIRE研究」のサブ解析結果を公表した。
急激に高齢化が進む日本で、不整脈の一種である心房細動の患者数は、100万人超とされる。心房細動に対する抗血栓療法としては「抗凝固療法」が必要だが、心房細動を合併した冠動脈疾患症例では、「抗凝固療法」に加え「抗血小板療法」が必要になる。一方で、複数の薬剤を組み合わせた抗血栓療法は出血リスクも高めることが懸念されている。
こうした背景から、欧米や日本のガイドラインでは、冠動脈疾患の侵襲的治療である経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)後でも、1年を経過した安定期には抗凝固療法単独が推奨されるようになった。しかし、大規模臨床試験による検証は行われていない。
そこでAFIRE研究では、心房細動を合併した安定冠動脈疾患患者を対象に、「経口抗凝固薬リバーロキサバン」単独と「リバーロキサバン+抗血小板薬」併用との有効性・安全性の比較が行われた。
同研究は、日本の294施設が参加したランダム化比較試験で、登録総数2,240例中、2,215例(1,107例単独療法 vs. 1,108例併用療法; アスピリン併用70.2%)が研究解析対象となった。
その結果、約2年間の観察期間で、脳心血管イベント(脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定狭心症、総死亡の複合エンドポイント(評価項目))では、リバーロキサバン単独療法群の治療効果が併用療法群に対して劣っていないこと(非劣勢)が証明されるとともに、事後解析にてリバーロキサバン単独療法群の優越性も示された。
さらに、出血性イベント(ISTH基準による重大な出血性合併症)でも、リバーロキサバン単独療法群の治療効果が併用療法群に対して高いことが証明された。
良好な結果を示した主解析だが、リバーロキサバン単独療法が出血性イベントのみならず、脳心血管イベントでも優越性を示した理由が不明だった。
こうした背景より、今回のサブ解析研究では、AFIRE研究対象2,215例で出血性イベントと脳心血管イベントとの関連性が検討された。解析項目は、(1)出血性イベントの有無による脳心血管イベント発症の比較、(2)出血後の脳心血管イベントの発症率の評価、(3)出血後の時間経過と脳心血管イベント発症までの関連性とされた。
その結果、2,215例中、386例(17.4%)が出血性イベントを発症し、そのうち63例(16.3%)が脳心血管イベントを発症した。脳心血管イベント発症率は、出血群で年率8.38%、非出血群では4.20%だった(相対的な危険度を示すハザード比は2.01[95%CI 1.49-2.70]; P <0.001)。
出血と脳心血管イベントの両方を有する63例中46例(73.0%)は出血後に脳心血管イベントを発症していた。さらに、時間依存性多変量解析により、大出血後30日以内の脳心血管イベント発症のリスクが高いことが明らかとなった(ハザード比は7.81[95%CI、4.20-14.54])。
今回の研究では、心房細動を合併した安定冠動脈疾患例での大出血とその後の脳心血管イベントとの関連性が明らかとなり、重大な出血性イベントの発生がその後の脳心血管イベント発症の引き金になることが明らかになった。より出血リスクを考慮した抗血栓療法が重要であることが示唆された。
研究は、宮崎大学医学部内科学講座循環器腎臓内科学分野の海北幸一教授(元熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学准教授)、熊本大学の小川久雄学長(元国立循環器病研究センター理事長)、東北大学大学院医学系研究科循環器内科学の安田聡教授(元国立循環器病研究センター副院長)、熊本大学病院総合診療科の松井邦彦教授を主要メンバーとする研究グループによるもの。研究成果は、「Circulation: Cardiovascular Interventions」にオンライン掲載された。