腎臓の糖新生を制御する臓器間ネットワークを解明 ケトン体に生理活性物質として血糖を調節したりアシドーシスを防ぐ重要な役割が 千葉大学
腎臓は糖新生機能をもつもうひとつの臓器
ケトン体に[肝臓-腎臓]の代謝機能をつなぐメディエーターの役割が
糖新生は、空腹時にエネルギー源である糖(グルコース)を作り出す重要な生理機能のひとつで、空腹期間が続いても血糖値を一定に保つ役割をになっている。これまで、肝臓が糖新生を行う主な臓器だと考えられていたが、最近では腎臓が糖新生機能をもつもうひとつの臓器として注目されている。
これまで、腎臓の糖新生を調節するメカニズムには不明な点が多く、どのように調節されているかは十分に解明されていなかった。
千葉大学などの研究グループは今回、空腹時の血糖維持に関わる腎糖新生の調節に、肝臓で合成されるケトン体が、空腹時の代替エネルギー源としてだけでなく生理活性物質として関わっており、血糖を調節したり血液の酸性化(アシドーシス)を防ぐ重要な役割をになっていることを発見した。
ケトン体が、臓器間[肝臓-腎臓]の代謝機能をつなぐメディエーターとして働くことで、生体の機能恒常性の維持に関わっていることを世界ではじめて明らかにした
研究は、千葉大学大学院医学研究院の波多野亮助教、三木隆司教授、田中知明教授、平原潔教授、薬学研究院の佐藤洋美准教授らの研究グループが、筑波大学医学医療系の島野仁教授、富山大学和漢医薬学総合研究所の中川嘉教授と共同で行ったもの。研究成果は、「Molecular Metabolism」にオンライン掲載された。
ケトン体は生体の機能恒常性の維持に関わっている
ケトン体が腎臓による血糖、酸・塩基バランスのコントロールに一役
研究グループは今回、マウスで腎臓の糖新生に関わる遺伝子の発現と血中のケトン体(ここでは主たるケトン体であるβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)をさす)の濃度とのあいだに相関関係があることに着目し、ケトン体による腎臓の糖新生の調節について検証した。
空腹時のマウスの血中ケトン体濃度が、腎臓の糖新生関連酵素であるG6pc1やPck1の遺伝子発現と相関したことから、空腹時に高ケトン血症を示す肥満マウスやインスリン抵抗性を示すマウスで調べたところ、G6pc1やPck1発現がさらに上昇することが分かった。
ケトン体の投与やケトン食の給餌によっても、血中のケトン体濃度に比例して、腎G6pc1、Pck1遺伝子発現は上昇した。ケトン食(ケトジェニックダイエット)は、食事中の糖質を脂質などに置き換えることで血糖上昇を抑え、肝臓でのケトン体の合成を促す飢餓模倣食。
一方で、ケトン体合成が障害されたPPARα(α型ペルオキシソーム増殖活性化受容体)を欠損したマウスでは、空腹時に腎糖新生が誘導されず、空腹時低血糖を呈した。PPARαは、肝臓では脂肪酸のβ酸化やケトン体生成に関連する遺伝子の発現を調節する転写因子として働く。
さらに、ケトン体を投与すると、この空腹時低血糖は改善された。このことから、ケトン体が腎臓の糖新生を調節する重要なレギュレーターであると考えられる。
また、腎糖新生はグルタミンというアミノ酸を利用して、尿中にNH4+として酸を排泄する役割もになっているが、マウス尿細管を用いた実験では、ケトン体はグルタミンからのNH3産生とグルコース産生を亢進させることを確認した。
したがって、ケトン体は腎糖新生を調節することで、血糖と酸・塩基平衡の調節をすると考えられるとしている。
ケトン体の腎糖新生を調節するメカニズムが空腹時高血糖の一因に
ケトン体の血中濃度の上昇は、肥満症患者や糖尿病患者でもみられ、今回発見した腎糖新生を調節するメカニズムは、これらの患者での空腹時高血糖の一因となる可能性が考えられるとしている。
「1型糖尿病患者でみられる糖尿病性ケトアシドーシスは、ケトン体による腎臓での酸・塩基調節機能の能力を上回る量のケトン体が産生されてしまうことによって生じるものと考えられる。一方で、ケトン体合成機能が低下した脂肪酸代謝異常症では、空腹時低血糖や代謝性アシドーシスが生じることから、正常な生理機能の維持でもこのケトン体を介した腎糖新生制御機構が重要であるものと考えられる」と、研究者は述べている。
「本研究の成果は、腎臓の糖新生が果たす生理学的役割や肥満症、糖尿病、脂肪酸代謝異常症などの疾患での血糖調節異常などの原因を明らかにするとともに、新たな治療法の開発につながることが期待される」としている。
千葉大学大学院医学研究院
Hepatic ketone body regulation of renal gluconeogenesis (Molecular Metabolism 2024年6月)