アジア人は内臓脂肪が過剰にたまると認知能力が低下 日本人も少しの肥満で代謝障害に
内臓脂肪の過剰な蓄積と認知能力の低下に関連が
アジア人は、内臓脂肪が過剰にたまると、思考・学習・記憶などの認知能力が低下しやすいことが、9,000人近くのアジア人を対象とした調査で明らかになった。
研究は、シンガポールの南洋理工大学医学部によるもの。研究グループは、同大学が英国のインペリアル カレッジ ロンドンなどと共同で実施しているコホート研究である「シンガポール健康生活調査」(HELIOS)に参加した30~84歳(平均年齢51.4歳)の男女8,769人を対象に2018年~2021年に調査した。
「アジア人集団の健康調査を通じて、内臓脂肪の過剰な蓄積と認知能力の低下に関連があることが示された。このことは、国際的な遺伝データの統計分析でも確認された」と、HELIOS研究の主任研究者であるジョン チェンバース教授は言う。
「欧米人だけでなくアジア人でも、肥満を予防したり改善することは、認知機能を良好に維持することにも影響し、将来の認知症のリスクから守るために重要と考えられる。肥満と認知症は、公衆衛生で優先度高い主要な課題になっている」としている。
内臓脂肪型肥満のある人は認知テストの成績が低い傾向
研究グループは今回、シンガポールに在住している中国系・マレー系・南アジア系の人を対象に調査。認知機能については英国人を対象とした大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)であるUK Biobankで採用された認知テストで測定し、内臓脂肪についてはDXA法で評価した。
対象者のBMIの平均は24.77、ウエスト周囲径は82.91cm、脂肪量指数(FMI)は9.39g/m²だった。
その結果、内臓の周辺に脂肪が蓄積した人は、記憶力・実行機能・処理速度・注意力などをみる認知テストの成績が低い傾向があることを明らかにした
さらに、認知能力の低下に関連しているものとして、▼体重に対する内臓脂肪量の割合を示す内臓脂肪率の上昇、▼ウエスト/ヒップ比が高いこと、▼HDLコレステロールの減少を挙げている。
認知能力の老化は、内臓脂肪レベルが0.27kg(1SD)増えるごとに0.74年(95%CI 0.38~1.1)、BMIで調整したウエストヒップ非(WHR)が1SD増えるごとに0.88年(95%CI 0.51~1.25)、HDLコレステロールが1SD低下するごとに0.95年(95%CI 0.59~1.31)、それぞれ実年齢より進んでいた。
一方、中性脂肪値、血圧値、血糖値などのパラメータは、認知能力の低下とあまり関連していなかった。
内臓脂肪型肥満を改善することが認知症のリスクを減らすために重要
内臓脂肪型肥満があると、高血圧や2型糖尿病、脂質異常症、さらには心筋梗塞などを、中年期から発症するリスクが上昇することがこれまで報告されている。今回の研究で、認知機能の低下や認知症のリスクも高めることが示された。
「アジア人でも、肥満を予防し改善することが、認知機能を維持し、将来の認知症のリスクから守るうえで重要な役割を果たす可能性が、集団コホート研究により示された」と、同大学で心臓血管学を研究しているテレシア ミナ氏は言う。
「内臓脂肪の蓄積は、生活スタイルや環境要因にのみによって起こるのではなく、認知機能の老化とも密接に関係している可能性がある」としている。
過剰な内臓脂肪が代謝障害を引き起こすメカニズムとして考えられるのは、多くの場合で肥満が要因となるインスリン抵抗性だという。
アジア人のインスリン分泌能力は、欧米人に比べて低いことが知られている。日本人を含むアジア人は、肥満にいたらない小太りの段階で血糖値が上昇しやすいことが知られている。
これまでの研究でも、代謝障害が認知機能の低下の危険因子である可能性が示されている。研究グループは今後、アジア人全体を対象に、過剰な内臓脂肪が遺伝子や生活スタイル、環境因子などとどのように関連しているかを、インスリン抵抗性などの代謝障害を軸にして調査することを計画している。
とくに、20歳のときの体重と比べて10kg以上増えているという人や、ウエストがゆるくなったという人は、それらを2型糖尿病の危険信号としてとらえ、食事や運動などの生活スタイルを見直すことを勧めている。
NTU Singapore scientists find link between excess visceral fat and cognitive performance in Asians (南洋理工大学 2023年3月3日)
Adiposity impacts cognitive function in Asian populations: an epidemiological and Mendelian Randomization study (Lancet Regional Health – Western Pacific 2023年4月)