2型糖尿病および脂肪蓄積・線維化を改善する新たな治療薬候補を発見 メトホルミンよりも強い作用を確認 熊本大学

2024.10.01
 熊本大学が、2型糖尿病とそれにともなう脂肪蓄積や線維化を改善する新たな治療薬候補を発見したと発表した。

 抗線維化薬として開発した低分子化合物である「HPH-15」が、AMPKの活性化を介した血糖降下作用に加えて、肝臓・脂肪組織でメトホルミンよりも強い脂肪蓄積の抑制作用と抗線維化作用をもつことを明らかにした。

 「HPH-15」は、血糖値と脂肪の減少効果、さらには抗線維化作用をあわせもつ画期的な薬剤になる可能性があるとしている。

抗線維化薬HPH-15が2型糖尿病の治療薬候補に AMPKを活性化

 熊本大学の研究グループは、抗線維化薬として開発中の低分子化合物である「HPH-15」が、AMPKの活性化を介した血糖降下作用に加えて、脂質代謝改善作用を有していることを明らかにした。

 脂肪蓄積は合併症のリスク因子であり、脂肪と血糖値の減少効果をあわせもつHPH-15は、画期的や薬剤になることが期待されるとしている。

 AMPKは、肝臓・筋肉・脂肪組織で細胞内のエネルギー不足を感知するタンパク質で、カロリー制限や運動などによって活性化される。AMPKの活性化は、運動時と同じメカニズムによって糖を代謝し、膵臓への負担もないため、2型糖尿病治療薬の創薬標的として有望だ。

 研究は、熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)サイエンスファーム生体機能化学共同研究講座の立石大 客員准教授(平田機工 研究開発本部 遺伝資源研究開発部研究開発グループ 主任)、當眞嗣雅氏、熊本大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の荒木栄一名誉教授(菊池郡市医師会立病院 顧問、熊本保健科学大学健康・スポーツ教育研究センター 特任教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetologia」にオンライン掲載された。

メトホルミンよりも強い脂肪蓄積抑制と抗線維化の作用を確認

 新しい作用機序をもつ糖尿病治療薬が続々と上市されているが、1960年代に開発されたメトホルミンは、現在でも糖尿病治療の第一選択薬のひとつとして用いられている。

 メトホルミンが重要視されている理由は、そのAMPK活性化の作用が、運動時の糖代謝と同じメカニズムであり、体重が増えにくいことや低血糖になりにくいこと、膵臓に負担がないことが挙げられる。

 またAMPKの活性化は、糖代謝だけではなく脂質代謝にも作用を及ぼすため、脂肪肝や脂質異常症といった合併症の予防にも効果的と考えられる。

 しかし、メトホルミンには乳酸アシドーシスや、高容量投与時の消化器障害などの副作用があることが報告されており、これらの改良が求められている。

 研究グループはこれまで、HPH-15という低分子化合物が抗線維化作用を有すること、さらにはその作用とは独立してAMPKを活性化することを見出していた。

 これらの背景から、2つの作用を併せもつHPH-15が2型糖尿病の新規治療薬として有効と考え、糖代謝に関与するモデル細胞と高脂肪食肥満モデルマウスを用いて、HPH-15の治療効果を評価した。

血糖値・脂肪の減少、抗線維化作用を併せもつ画期的な薬剤として展開

 研究グループはまず、糖代謝に関与する臓器のモデル細胞(筋肉:L6-GLUT4myc、肝臓:HepG2、脂肪:3T3-L1)を使用し、HPH-15によるAMPKの活性化量を調べた。AMPKとリン酸化されたAMPK(pAMPK)の発現量をウエスタンブロットで測定し、pAMPK/AMPKの比を算出し、AMPKの活性化の指標とした。

 その結果、HPH-15(10または50μM)はすべての細胞株でAMPKを活性化しており、その効果はメトホルミンの2mMと同程度だった。したがって、HPH-15はモデル細胞でもAMPK活性化作用を有していることが明らかになった。

 研究グループは次に、糖尿病モデルマウス(高脂肪食肥満マウス)に対する検討を行った。HPH-15は、オリーブ油に混ぜて1日1回経口投与した。

 その結果、高脂肪食の食餌継続下でHPH-15を10mg/kgまたは100mg/kgを投与したところ、投与開始から7日後より随時血糖値の低下が確認され、4週後には190mg/dLから140mg/dLまで低下した。

 さらに、AMPK活性化剤はインスリン抵抗性や耐糖能の改善効果も有するため、薬剤投与開始より28日後のマウスを使用してインスリン負荷試験を行った。

 その結果、高脂肪食により誘導されるインスリン抵抗性をHPH-15は有意に改善していた。さらに、高脂肪食の食餌によるマウス体重増加への影響を評価したところ、HPH-15は体重増加を有意に抑制していた。

 以上の結果から、HPH-15は個体レベルでも、糖代謝改善作用および抗肥満作用を有していることが明らかになった。

 このモデルマウスは、脂肪肝および脂肪組織の肥大化を誘発することが知られている。肝臓の脂肪レベルおよび脂肪組織の肥大化を、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色により評価した結果、HPH-15はメトホルミンよりも強力に脂肪肝を改善したことが示された。またHPH-15は、高脂肪食の食餌による脂肪組織の肥大化も抑制していた。

 これにより、HPH-15は高脂肪食により誘導される脂肪肝および脂肪組織の肥大化を強く阻害していることが明らかになった。

出典:熊本大学、2024年

糖尿病にともなう肝硬変やNAFLD/NASHなどの肝合併症にも有用と期待

 「本研究により、HPH-15がAMPK活性化による血糖降下作用だけでなく、脂肪蓄積および脂肪組織の肥大化を抑制することが明らかになった。組織への過剰な脂肪蓄積は、糖尿病合併症のリスク因子であるため、脂肪と血糖値の減少効果をあわせもつHPH-15は、新規2型糖尿病治療薬として有用であることが期待される」と、研究グループでは述べている。

 「また、2型糖尿病患者では、組織の線維化が促進されることが知られており、臓器不全といった重篤な症状を呈する。HPH-15は、肝臓と脂肪組織に対する抗線維化作用も有する点でメトホルミンと異なり、糖尿病にともなう肝硬変やNAFLD/NASHをはじめとする肝合併症にも有用な薬剤として期待される」としている。

 なお研究は、日本学術振興会特別研究員事業、科学研究費助成事業、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究プログラム、肥後銀行イノベーション応援プログラム、次世代ベンチャー創出支援事業化可能性調査委託事業の支援を受けて実施された。

熊本大学大学院 生体機能分子合成学分野(サイエンスファーム生体機能化学共同研究講座)
熊本大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科
An antifibrotic compound that ameliorates hyperglycaemia and fat accumulation in cell and HFD mouse models (Diabetologia 2024年9月9日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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