2型糖尿病患者の低用量アスピリンの副作用は3年以降に低下 心血管イベント一次予防に投与 兵庫医科大学
2型糖尿病患者の低用量アスピリンの消化器症状などの副作用リスクは投与開始後3年に低下
低用量アスピリンは、心血管イベントハイリスク患者に対して、一次予防、二次予防として広く利用されており、とくに糖尿病患者は心血管イベントのリスクが高く、米国では60歳以上の糖尿病患者の62%が低用量アスピリンを服用している。
一方で、低用量アスピリンの副作用である出血リスクのある患者に対しては、低用量アスピリンの一次予防は推奨されておらず、とくに消化管出血やその前段階である消化器症状の発生率や発生時期についての臨床疫学が求められている。
そこで研究グループは、2型糖尿病患者での低用量アスピリンのランダム化臨床試験であるJPAD試験およびフォローアップ研究(観察期間中央値 11.2年)のデータを用いて、ランダム化臨床試験およびフォローアップ研究の事後解析を行い、登録された患者 2,535人(アスピリン群 1,258人、非スピリン群 1,277人)について、最長19年間の観察を行った。
上部消化管症状(上腹部痛、悪心、嘔吐、食欲不振など)と上部消化管出血からなる複合エンドポイント(上部消化管イベント)および出血を除く上部消化管症状、上部消化管出血、全ての出血性イベントを評価した。
各イベントの累積発生率を比較し、アスピリン群について、緩衝錠群 951 人と腸溶錠群 208 人に分けた解析も行った。観察期間をランダム化後3年以内と3年以降で分けて、ランドマーク解析を行い、各イベントの累積発生率およびCox比例ハザードモデルを用いたハザード比(HR)および95%CIを推定した。
登録時の平均年齢は65歳であり、男性は55%、糖尿病罹病期間の中央値は7年の患者で、18年時点での上部消化管イベントの累積発生率はアスピリン群8.8%に対して非アスピリン群5.7%だった。
3年時点でのランドマーク解析の結果、3年以内でのアスピリン群のHRは7.1[95%CI 3.2~15.7]だったのに対して、3年以降では1.20[95%CI 0.76~1.89]となり、3年を境にその影響は大きく減弱していた。
出血を除く上部消化管症状についても3年以内でのアスピリン群のHRは11.4[95%CI 4.09~31.7]だったのに対して、3年以降では1.14[95%CI 0.62~2.1]だった。上部消化管出血およびすべての出血性イベントに関しては、イベント発生率が低く、有意差は認められなかった。
アスピリン群で、緩衝錠群と腸溶錠群を比較したところ、上部消化管イベントに対する腸溶錠群の補正後HRは3年以内で0.39[95%CI 0.21~0.73]と緩衝錠群よりも発生リスクが有意に低いことが明らかとなった。
低用量アスピリンによる上部消化管症状および出血は投与開始後3年は注意が必要 3年を経過するとリスクは低下
研究は、兵庫医科大学医学部の桝谷直子氏、社会医学データサイエンス部門主任教授の森本剛氏らの研究グループによるもの。研究成果は、9月に仙台で開催された第72回日本心臓病学会学術集会で発表され、「American Journal of Cardiovascular Drugs」にオンライン掲載された。
「これらの観察から、低用量アスピリンによる上部消化管症状および出血は、投与開始後3年は注意が必要であるが、3年を経過するとリスクは低下することが明らかとなった」と、研究者は述べている。
「ランダム化臨床試験を、試験終了後も長期にフォローすることで、当所想定してなかった新しい知見が得られた。臨床試験の終了後であり、もともとのランダム化からは異なる治療となっている可能性はあるが、割り付け治療を変更した患者は全体の15%であり、本結果は、これから低用量アスピリンの服用を始めようとする患者のみならず、現在服用中の患者がこれからどうするか、という判断に役に立つと考えられる」としている。
なお、従来のリスク因子分析やガイドラインでは、治療を始めるときのリスクを勘案して治療選択を行うことが一般的であるが、このように長期的な観察を行うことで、コホートやリスクが変わる可能性があることが示されたことから、長期的な管理が必要な他の予防医療についても同様の長期観察が求められるとしている。
兵庫医科大学医学部
Long-Term Effects of Low-Dose Aspirin on Gastrointestinal Symptoms and Bleeding Complications in Patients with Type 2 Diabetes (American Journal of Cardiovascular Drugs 2024年9月28日)