GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」のインスリン分泌を刺激する独特の活性を解明 糖尿病以外でも注目
注目されるGIP/GLP-1受容体作動薬 どのように作用しているかを解明
米デューク大学医療センターなどは今回の研究について、GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」が、どのようにインスリン分泌を刺激し、2型糖尿病患者の血糖降下作用を働くかを、ヒトのドナーから提供を受けた細胞を使用し実証した最初のものとしている。
「複数のメカニズムを標的とするこの薬剤の可能性を理解することで、糖尿病と肥満症の治療薬として、より適正に使用できるようになる可能性がある」と、同大学医学薬理学部門のJonathan Campbell准教授は言う。
チルゼパチドは、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の2つの受容体に作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。
GLP-1受容体作動薬は、血糖依存的なインスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、さらには胃内容物排出抑制の作用により高血糖を改善させる。これらの作用は、同じインクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬より強く、血糖低下効果もより大きいとみられている。そのためGLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病や肥満症の治療薬としての使用が増えている。
チルゼパチドはこのクラスの薬剤では、GLP-1受容体だけでなくGIP受容体も標的とする点が独特で、どちらの受容体も活性化しインスリン分泌を増加させる。理論的にはこの受容体の追加により、体内でより広範囲の活性を得ることが可能になる。
GIPとGLP-1はどちらも、食欲の調節で重要な人間の脳の領域に作用し、チルゼパチドは、食物摂取量を減らし、脂肪の利用を調節することが示されており、肥満症治療薬としての利用も期待されている。
また、駆出率が保持された心不全(HFpEF)、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)をともなう肥満および/または過体重の患者に対する潜在的な治療法、さらには慢性腎臓病(CKD)および肥満での罹患率/死亡率(MMO)などについての研究も進行中だ。
GIP受容体はGLP-1受容体に比べ無視されていた期間が長かった
チルゼパチドと同様の治療薬は受容体アゴニストとして知られており、細胞内の特定の受容体に結合し、特定の作用を引き起こす。GLP-1受容体を標的とした糖尿病治療の研究には長い歴史があり、GLP-1受容体作動薬は日本でも2010年に処方可能となった。
一方、Campbell氏によると、GIP受容体は歴史的には代謝性疾患の標的としては無視されていた期間が長く、この受容体を活性化するのではなく、むしろブロックすることを提案する研究者さえいたという。この歴史は、GIP受容体でのチルゼパチドの活性は重要ではなく、むしろ「スーパー」GLP-1受容体作動薬として機能するのではないかという推測もあった。
「当初は、チルゼパチドの活性のほとんどは、GLP-1受容体に対して作用するだろうと予想していたが、提供された膵島細胞を使った実験では、膵島がチルゼパチドで刺激されたときに促されるインスリン分泌に不可欠なのは、GIP受容体であることが判明した」と、Campbell氏は言う。
研究グループは、チルゼパチドが別の膵島ホルモンであるグルカゴンの分泌を刺激することも発見。グルカゴンは血糖値が低下したときに分泌されるホルモンで、インスリンとは逆に血糖値を上昇させる働きをもつ。GLP-1はグルカゴンの分泌を阻害するが、GIPはグルカゴンの分泌を刺激するという。
チルゼパチドがグルカゴン分泌を刺激するという発見は、この薬剤がGIP受容体に対して重要な活性をもっているというさらなる証拠になるとしている。
「私たちの研究は、チルゼパチドが単なるスーパーGLP-1受容体作動薬ではなく、真の多受容体アゴニストであることを示唆している。現在、代謝性疾患を治療するための実行可能なアプローチとして、複数の受容体で活性をもつ単一分子を使用する可能性を検証している」と、Campbell氏は述べている。
「これらの研究を、食欲と体重を制御する細胞タイプに拡張することは、将来の方向性として重要かつ刺激的なものになるはずだ」としている。
チルゼパチドによるGIP受容体を介したシグナル伝達がインスリン分泌の刺激で重要
ドイツのヘルムホルツ研究所やドイツ糖尿病研究センターなどは同じ研究で、チルゼパチドによるヒト膵島のGIP受容体を介したシグナル伝達が、インスリン分泌の刺激で重要であることを指摘している。
研究グループは、GIP受容体を薬理学的に遮断すると、ヒト膵島からのインスリン分泌を刺激するチルゼパチドの有効性が低下するが、GLP-1受容体の遮断による影響は比較的わずかであることを指摘している。これらの発見は、チルゼパチドの作用機序でのGIP受容体シグナル伝達の重要性を裏付けている。
さらに、ヒトおよびマウスの受容体でのチルゼパチドの薬理を評価し、ドナーから単離された膵島での作用機序を比較したところ、チルゼパチドはマウスのGIP受容体に対しては弱い効力を示し、その作用がマウスとヒトでは異なることが示唆された。
「チルゼパチドは、マウスではGLP-1受容体を優先して膵島インスリン分泌を刺激するが、ヒトでは主にGIP受容体を介して作用しインスリン分泌を促進する。今後の研究で、薬物による体重減少効果にとってGIP受容体がどれほど重要であるかを評価する予定だ」と、ヘルムホルツ研究所糖尿病・肥満研究所のTimo Müller所長は述べている。
研究は、国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)[K01 DK132461、R01 DK123075、DK125353、DK046492]、欧州研究評議会(ERC)[no.695054]、ドイツ研究財団[DFG TRR296、TRR152、SFB1123、GRK 2816/1]、ドイツ糖尿病研究センター、欧州研究評議会(ERC)[no.101044445]、ヘルムスリー慈善信託財団、イーライリリー、ノボ ノルディスク、プロテオスタシスからの助成を得て行われている。
Tirzepatide has unique activity to stimulate insulin secretion (米デューク大学医療センター 2023年6月5日)
Unraveling the mode of action of tirzepatide (ヘルムホルツ研究所 2023年6月5日)
The incretin co-agonist tirzepatide requires GIPR for hormone secretion from human islets (Nature Metabolism 2023年6月5日)