コロナ禍で「かかりつけ医」の役割はより重要に かかりつけ医のいる患者は孤独が少ない 横浜市立大学
「受診しやすい」「幅広い問題に対応している」といった機能が影響
孤独は「本人が望ましいと考える社会的なつながりと実際の状況に乖離があると感じている状況」と定義されており、身体的・精神的な健康や死亡率にも影響することが報告されている。
一方、かかりつけ医療機関は、孤独を発見したりその度合いを評価できる場所のひとつとして重要な役割をになっており、コロナ禍でもその機能は重要と考えられる。
そこで横浜市立大学は、かかりつけ医療機関の有無やその機能、孤独の度合いとの関連を調査した。横浜市の一般住民20~74歳を対象に2022年1月から2月に実施した「横浜市の一般市民における新型コロナウイルス抗体価に関する研究」(研究代表者:後藤温)の調査結果を使用。
その結果、かかりつけ医療機関をもっている人は、そうでない人に比べ、孤独の度合いが低いことが、横浜市の20~74歳の一般住民1,277人を対象とした調査により明らかになった。
とくにコロナ禍でかかりつけ医をもっていた人や、「受診しやすい」「幅広い問題に対応している」といったかかりつけ医機能が高い場合は、とくに65歳以上の高齢者で、孤独の度合いはより低かった。
[下段]かかりつけ医機能(PCPCMスコア:4点満点)が1点高くなると、孤独の度合いが0.56点低くなる。
質の高いかかりつけ医機能により孤独の度合いは大きく低下
「プライマリ・ケア」は、身近にあり、何でも相談にのってくれる総合的な医療と理解されており、対象とする領域は、病気にいたる前の状態での健康相談や予防医療まで幅広い。
研究グループは今回、かかりつけ医機能の評価に、世界的に広く用いられている「患者中心のプライマリ・ケア評価尺度(PCPPCM)」(4点満点)を、孤独の評価には「UCLA孤独感尺度3項目版」(12点満点)を用いた。
PCPCMは、患者の視点からプライマリ・ケアの医療機関の質を評価する質問紙で、11項目という少ない質問数で重要な11の領域を評価でき、プライマリ・ケアの質の国際的な比較もできる。
PCPPCMの日本版は、同大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子惇氏らの研究グループが開発し、2022年に発表したもの。
調査は、2022年1~3月の新型コロナの第6波の最中に実施され、対象者のうち、かかりつけ医療機関をもっている人は55.8%に上った。
年齢・性別・学歴・世帯年収・主観的健康観・家族構成・慢性疾患の有無を調整してかかりつけ医療機関の有無やその機能と孤独の度合いとの関連を検証したところ、かかりつけ医療機関をもっている人はそうでない人に比べて孤独の度合いが0.34点低いことが明らかになった。
さらに、またかかりつけ医療機関をもっている人のなかでも、質の高いかかりつけ医機能を示すPCPCMスコアが1点高くなると、孤独の度合いは0.56点低くなる傾向が示された。この傾向は男女別、年齢別(65歳以上、未満)でみても同様だった。
研究は、横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子惇准教授、後藤温教授、同大学医学部臨床統計学の篠田覚助教、公衆衛生学の中山泉助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Family Practice」に掲載された。
「孤独は多くの要因が関与する複雑な状況ですが、かかりつけ医療機関の有無やその質が孤独の度合いと関連することが明らかになりました。本研究は横断研究であり、一時点のみの調査であるため、かかりつけ医機能を向上させることで孤独の度合いが軽減するかについては今後さらなる研究が必要となります」と、研究グループでは述べている。
横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻
横浜市の一般市民における新型コロナウイルス抗体価に関する研究 (横浜市立大学大学)
患者中心のプライマリ・ケア評価尺度(PCPCM) (横浜市立大学大学)
Usual source and better quality of primary care are associated with lower loneliness scores: a cross-sectional study (Family Practice 2023年4月28日)