漫画による糖尿病教育は講義と同等に知識と運動量を増加させる 筑波大学

2025.12.16
筑波大学の研究グループは、子どもに対する糖尿病教育において漫画教材を用いた場合、講義と同等に糖尿病に関する知識や予防のための運動量を増やせることが明らかになったと発表した。

 糖尿病は、⼦どもから⼤⼈まで広く⾒られる病気であり、⼩児期での適切な知識や⽣活習慣の獲得がとても⼤切である。糖尿病をもつ子どもが健やかに生活するためには、本人や家族が正しい知識を持つだけでなく、学校や周囲の理解も必要である。しかし、1型糖尿病と2型糖尿病の違いや、インスリン注射、食事管理について、必ずしも正しく知られていないのが現状である。

 そこで研究グループは、漫画教材を使って糖尿病を楽しく学べる⽅法として「ゲーミフィケーション」の考え⽅を取り⼊れ、学びを遊びやゲームのように感じられるように⼯夫された教材を作成した。これまでに、糖尿病の教育⽤の漫画を製作し1型糖尿病の⼦どもたちに配布したところ、漫画を読むことで運動習慣が⾼まる可能性が⽰されている。今回の研究では、⼩学⽣および中学⽣に漫画を配って知識や運動習慣(⾝体活動量)の変化を調べ、また講義による学びとの違いや学ぶときの⼼理的な影響も検討した。

 本研究では、茨城県在住の8〜15歳の子どもで、医師から運動の制限の指示を受けていないこと、歩行や生活が自立している30名を対象とし、漫画を読むグループと講義を受けるグループに無作為に分けられた。両グループとも、最初に糖尿病に関するテスト(45点満点)を行い、2週間にわたる加速度計を使った身体活動量測定を行い、その後、漫画(個室・保護者同席)または講義(5〜8名の集団・保護者同席)を20分程度実施した。6か月後に同様のテストと身体活動量測定を再度行い、教育効果を比較した。 

 その結果、糖尿病の知識テストでは、漫画グループで平均19点から11点(24%)、講義グループでも平均17点から10点(22%)向上し、どちらも糖尿病に対する知識や理解を深める効果があると考えられた。また、身体活動量も増加し、漫画グループでは1日の歩数が平均6,190歩から約1,400歩増え、講義グループでも平均6,640歩から同程度増加した。運動の強さを考慮した時間も両⽅のグループで延びており、教育が体を動かすきっかけになった可能性がある。さらに、心理的な面では、講義グループより漫画グループのほうが教育を受けた直後に「満足感」を感じやすいことが分かった。また、漫画を楽しく読めた子どもほど、歩数などの身体活動量が増える傾向にあり、逆に「怖い」「悲しい」と感じた場合は知識や運動の伸びが⼩さくなる傾向にあった。一方、講義グループではこのような心理変化と行動変容との関連は見られなかった。

 以上の結果より、漫画による教育は、講義と同程度に知識や運動習慣を向上させることがわかった。特に漫画を⽤いた場合は「楽しさ」「満⾜度」「怖さ」といった⼼理的印象がその後の知識習得や運動習慣と関連していた。この特徴は講義による教育では認められなかったことから、効果の⼤きさは同等であっても、教育効果の発揮メカニズムは異なる可能性があり、今後の教材開発に有⽤な知⾒と考えられた。

 研究グループは「今後は、より⼤規模な研究を⾏い、学校や地域社会における健康教育プログラムとして活⽤できる仕組みづくりを⽬指す。漫画を⽤いた教育は、⼦どもが楽しみながら知識を⾝につけ、⾃然に体を動かす⾏動につながる点が強みである。糖尿病にとどまらず、肥満や⽣活習慣病の予防、さらにはメンタルヘルス教育など幅広い分野への応⽤も期待される」と述べている。

 本研究は、筑波⼤学システム情報系の特任助教 鈴⽊康裕氏、教授 鈴⽊ 健嗣氏らの研究グループにより実施され、研究成果は2025年10月16日付で『Clinical Pediatric Endocrinology』オンライン版に掲載された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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