男性ホルモン低下で腸内環境が変化 腸内細菌叢の多様性の低下は肥満やフレイルに関連

2022.07.26
 順天堂大学と慶應義塾大学は、前立腺がんの内分泌治療(ADT)により、男性ホルモンのテストステロン濃度を低下させると、腸内細菌叢に変化が生じて、その多様性が損なわれることを明らかにした。

 内分泌治療時に腸内細菌叢の多様性の低下を抑制する手法を開発することで、前立腺がんの内分泌治療時の副作用を低減できることが期待される。

腸内細菌叢の多様性の低下は肥満・フレイル・骨粗鬆症・うつ・認知症に関連

 順天堂大学と慶應義塾大学は、前立腺がんの内分泌治療(ADT)により、男性ホルモンのテストステロン濃度を低下させると、腸内細菌叢に変化が生じて、その多様性が損なわれることを明らかにした。

 ADTは、テストステロン(男性ホルモン)を遮断することで、前立腺がんの病勢をコントロールする治療。前立腺がんの内分泌治療による主な副作用には、肥満、フレイル、骨粗鬆症、うつ、認知症などがあるが、腸内細菌叢の多様性の低下はこれらの病態と関連することが知られている。

 内分泌治療を行った前立腺がん患者の腸内細菌叢の変化を経時的に測定し他結果、腸内細菌叢の変化が内分泌治療の副作用の発症に関与している可能性が示唆された。

 内分泌治療時に腸内細菌叢の多様性の低下を抑制する手法を開発することで、前立腺がんの内分泌治療時の副作用を低減できることが期待される。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学の呉彰眞助手、堀江重郎教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授(研究当時 現:順天堂大学大学院医学研究科細菌叢再生学講座・特任教授)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Prostate Cancer and Prostatic Diseases」にオンライン掲載された。

内分泌治療による腸内細菌の多様性の経時的変化(α多様性)

内分泌治療に伴う細菌叢の多様性(α多様性)の変化を示した結果。Chao1指標(その細菌叢に含まれる細菌の種類数の推定値)では治療開始から12週以降でα多様性が有意に低下していることが明らかになった。
出典:順天堂大学、2022年

腸内細菌叢の変化が内分泌治療の副作用の発症に関与

 前立腺がんは男性が罹患するがんでもっとも多く、日本国内でも年間8万人以上が罹患している。転移がんや根治治療をできない場合に、男性ホルモン(テストステロン)を遮断する内分泌治療が行われる。しかし、内分泌治療では、しばしばその副作用として肥満やフレイル、骨粗鬆症、うつ、認知症などを発症することが課題になっている。

 一方、腸内細菌叢の多様性や腸内細菌が産生する代謝物質が、ヒトの健康に大きく影響することが近年の研究で明らかになりつつあり、腸内細菌叢の多様性の低下が、フレイル、骨粗鬆症、うつ、認知症などの疾患リスクにもなりうることが示唆されている。

 そこで研究グループは、前立腺がんの内分泌治療によるテストステロン濃度の低下と腸内細菌叢との関連性について調査した。内分泌治療を行った日本人の前立腺がん患者23人を対象に、血中テストステロン濃度と腸内細菌叢やその代謝物質との関連について調べた。

 具体的には、対象者の治療開始前2週間から治療開始後24週間の間で定期的に便と血液をサンプリングし、次世代型シークエンサーを用いて細菌の16S rRNA遺伝子をもとにした細菌叢解析と質量分析器を用いた便中代謝物質解析を行い、治療の経過に伴うそれらの変化を調べた。

 その結果、腸内細菌叢の多様性解析では、細菌叢に含まれる菌種がどのくらい豊富であるかの指標となるα多様性と、細菌叢に含まれる菌種同士が系統的にどのくらい似ているかの指標となるβ多様性が治療にともなって有意に低下していることが明らかになった。

 以上から、内分泌治療による血中テストステロン濃度の低下によって患者の腸内細菌叢の多様性が有意に低下する関連性が示された。このことは、腸内細菌叢の変化が内分泌治療の副作用の発症に関与している可能性を示唆している。

 「本研究により、前立腺がん患者への内分泌治療による血中テストステロン濃度の低下によって患者の腸内細菌叢の多様性が損なわれることが明らかになり、肥満やフレイル、骨粗鬆症、うつ、認知症などの副作用の発症が腸内細菌叢の多様性の低下と関連している可能性が示唆されました。このことから、前立腺がん患者への内分泌治療時に腸内細菌叢の多様性低下を抑制するような食事療法などを併用することで、前立腺がん患者の内分泌治療時の副作用を低減できることが期待されます」と、研究グループでは述べている。

内分泌治療による腸内細菌の多様性の経時的変化(β多様性)

細菌叢の構成がどの程度類似しているか(β多様性)を相対的な距離(縦軸)としてあらわし、その経時的変化を測定した結果。このβ多様性の変化により、もともと存在率の低い菌種が内分泌治療の経過とともにいなくなり、細菌叢の多様性が損われたことが推察される。
出典:順天堂大学、2022年

順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科
慶應義塾大学先端生命科学研究所
Gut environment changes due to androgen deprivation therapy in patients with prostate cancer (Prostate Cancer and Prostatic Diseases 2022年4月13日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料