腎臓病の有無に関わらず野菜・果物を食べるほど死亡リスクは低下 腎症の食事療法での摂取制限は再考の必要が

2023.03.02
 野菜・果物の摂取頻度について調査した結果、▼毎日食べる人、▼ときどき食べる人、▼ほとんど食べない人の順で死亡リスクは高くなり、この関連は、保存期慢性腎臓病(CKD)や血液透析患者でも同様であることが、新潟大学によるコホート研究で明らかになった。

 保存期CKDや血液透析の患者を含む2,006人を対象に、平均5.7年間の追跡調査を実施した結果、野菜・果物の摂取頻度が少ないほど、死亡リスクは増大し、毎日摂取していた人に比べて、ときどき食べる人は1.25倍、ほとんど食べない人は1.60倍となった。

 この関連は、保存期CKDや血液透析の患者群でもみられ、CKDステージ別に検討したところ、野菜・果物の摂取頻度と血清カリウム値に関連がないことも示された。

 「保存期CKDや血液透析の患者への食事指導では、野菜・果物は、カリウムが多いという理由で摂取制限がされてきたが、再考を促す必要が考えられる」と、研究グループでは述べている。

腎症患者の野菜・果物の摂取制限は再検討が必要

 腎機能が正常の人では、野菜・果物の摂取が少ないと、摂取が多い人に比べ、死亡リスクが高いことが多くの疫学研究で示されている。

 一方、腎機能が低下した保存期慢性腎臓病(CKD)や血液透析患者では、野菜・果物の摂取を控える指導が行われることがある。野菜・果物にはカリウムが多く含まれているものが多く、高カリウム血症をきたすおそれがあるからだ。

 一方、欧米では近年、保存期CKDや血液透析患者でも、野菜・果物の摂取が少ないと死亡リスクが高いことや、食事中のカリウム摂取量と血清カリウム値に関連がないことが報告されている。

 これまで、科学的根拠が乏しいにもかかわらず伝統的に行われている、保存期CKDや血液透析患者での野菜・果物の摂取を制限する指導について再検討が必要と考えられる。一方、欧米と日本では食習慣が大きく異なることから、日本人での検討も必要とされている。

 そこで、新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈子特任准教授らの研究グループは、CKDのない人・保存期CKD・血液透析患者で、野菜・果物の摂取頻度と死亡リスクとの関連が異なるのかをコホート研究で検討した。

 研究グループは、2008年から新潟大学とJA新潟厚生連佐渡総合病院が共同で行っているコホート研究「佐渡プロジェクト(PROST)」に参加し、登録時に腎機能の情報と野菜・果物の摂取調査結果があり、腹膜透析を受けていない人2,006人(平均年齢69歳、男性55%)を対象に解析。

 野菜・果物の摂取頻度は、自記式質問票を用いて調査した。毎日食べる人を基準として、ときどき食べる人、ほとんど食べない人の3群に分け、死亡のリスクを計算。分析にあたっては、性別、年齢、BMI、喫煙状況、高血圧症、糖尿病、脳卒中、心筋梗塞の有無、CKD状態(CKDのない人・保存期CKD・血液透析)、高カリウム血症の有無を統計学的に調整した。さらに、CKD状態でグループ分けして、同様に解析を行った。

野菜・果物の摂取頻度が低いほど死亡リスクは増大 CKD患者でも同様

 解析対象者2,006人のうち、902人(45%)が保存期CKD、131人(7%)が血液透析患者だった。解析した結果、CKDのない人では、約半数が野菜・果物を毎日摂取していたが、腎機能が低下するほど、毎日摂取している人の割合は低くなり、血液透析患者で毎日摂取していたのは28%だった。

 野菜と果物を別々に検討したところ、果物の摂取頻度は、腎機能が低下しても不変で、血液透析患者でも88%が毎日果物を摂取していた。CKDステージ別で検討すると、野菜・果物の摂取頻度によらず、血清カリウム値は同程度だった。

 平均5.7年間の追跡調査中に、561人が死亡。野菜・果物の摂取頻度が少ないほど、死亡リスクは増大し、毎日摂取していた人に比べて、ときどき食べる人は1.25倍(95%信頼区間 1.04~1.52)、ほとんど食べない人は1.60倍(95%信頼区間 1.23~2.08)となった。

 CKD状態別に検討を行ったところ、保存期CKDや血液透析の患者群では人数が少なく有意ではないものの、同様の関連がみられたという。

野菜・果物の摂取頻度と死亡リスク
保存期CKDや血液透析の患者群でも、野菜・果物の摂取頻度が少ないほど死亡リスクは増大することが示された

CKDステージ別にみた野菜・果物の摂取頻度と血清カリウム値の関連
野菜・果物の摂取頻度によらず、血清カリウム値は同程度だった
野菜・果物(上段) 野菜(中段) 果物(下段)

出典:新潟大学、2023年

腎機能が低下した患者も工夫して野菜・果物を摂取するのは可能?

 今回のコホート研究により、日本の保存期CKDおよび血液透析患者でも、CKDのない人と同様に、野菜・果物の摂取が少ないと死亡リスクが高いことが示唆された。

 保存期CKDや血液透析の患者群では人数が少なかったため、大人数の研究での検証が必要だが、腎機能が低下した保存期CKDや血液透析の患者でも、高カリウム血症をおそれるばかりに、野菜・果物の摂取制限を指導することは適切ではない可能性があるとしている。

 「野菜・果物には、カリウム以外にもさまざまなミネラルやビタミン、食物繊維などが含まれ、それらが好ましい影響を与えている可能性がある」と、研究グループでは述べている。

 また、CKDステージ別での検討で、野菜・果物の摂取頻度と血清カリウム値に関連がみられなかった。今回の研究では、野菜・果物の摂取頻度のみの調査であり、野菜・果物の種類や摂取量を調べていない。

 「そのため、毎日食べている人では、量を加減したり、カリウムが比較的少ない野菜・果物を選んだり、あるいは、ゆでこぼしや水さらしなどの工夫を行い、関連がなかった可能性がある」。

 「いずれにせよ、今回の結果から、腎機能が低下した保存期CKDや血液透析患者であっても、何らかの工夫をすることで、野菜・果物を毎日摂取することは可能であることを示唆していると考えられる」としている。

 なお、追跡期間中の野菜・果物の摂取頻度の変化は考慮できていないことや、解析では関係する要因を可能な限り統計学的に取り除いて解析したものの、野菜・果物の摂取そのものではなく関係する要因が、死亡リスク低下に関連している可能性があると付け加えている。

 「佐渡プロジェクト(PROST)では、各臓器が相互に連関する"臓器連関"の視点から加齢性疾患の研究を進めており、これまでもさまざまな研究を発表してきた。加齢性疾患の特徴は、加齢にともない多臓器にわたる機能低下、機能障害をきたし、多臓器に疾患を罹患すること。今後も、臓器連関の視点から加齢性疾患の研究を進め、日本の超高齢化社会に役立つ科学的知見を構築していく予定」と、研究グループでは述べている。

新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座
  佐渡プロジェクト
Lower frequency of vegetable and fruit intake linked to higher risk of death regardless of chronic kidney disease (CKD) status (新潟大学 2023年2月26日)
Vegetable and fruit intake frequency and mortality in patients with and without CKD: A hospital-based cohort study (Journal of Renal Nutrition 2023年2月13日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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