妊娠糖尿病の産後ケアの充実・体制整備を目指して 「妊婦健診をふまえた予防的介入検査の実現と産後ケアの充実」第1号に 岡山大学
妊娠糖尿病の産後ケアの充実・体制整備を目指して
日本糖尿病・妊娠学会によると、妊娠糖尿病の既往女性は、耐糖能が産後にいったん正常化しても、その後数年後に2型糖尿病となるリスクが高いことが、内外の研究報告により明らかになっている。
生殖年齢女性の時期より、2型糖尿病罹患のハイリスク女性を抽出し、産後女性のフォローアップを行うことは、次の妊娠のためのプレコンセプションケアの一環となり重要だ。
「プレコンセプションケア」は、男女を問わず、妊娠などについての正しい知識の普及をはかり、健康管理を促す取り組みのこと。
一方、岡山県吉備中央町は、「デジタル田園健康特区」に2022年に指定された。この規制改革特区は、国家戦略特別区域諮問会議のデジタル田園都市国家構想の先駆的モデルとして、デジタル技術の活用により、少子高齢人口減少化など、とくに地方で問題になっている課題に焦点をあて、地域の課題解決を目指すもの。
岡山大学は、同町と包括的な連携協定を締結しており、那須保友学長と、岡山大学病院産科婦人科教室の牧尉太講師が、立案と事業構築に向けアーキテクト(事業推進者)を担当している。
特区である同町の提案の柱のひとつに、母子健康促進支援「妊婦健診をふまえた予防医療の実現と産後ケアの充実」がある。
同大学などはこれまで、「妊産婦プレコンセプションケア/産後ケアの充実にむけた規制緩和」の対応を、定期的に開催される国家戦略特区ワーキンググループのヒアリングで、内閣府地方創生推進事務局と厚生労働省(保険局)・こども家庭庁とともに説明してきた。
このうち「妊娠糖尿病の産後ケアの充実・体制整備」は、日本糖尿病・妊娠学会が長年、ワーキングや厚生労働省と協議してきた議題だ。同学会でも「妊娠糖尿病既往女性の産後フォローアップに関する診療ガイドライン」を開示するという。
同大学は、これを好機と捉えて、妊娠糖尿病既往女性の産後フォロー中の検査代(産後の糖負荷試験)の保険適用が地方厚生局に認められるか否かが、地域により異なっていることを懸念し、「保険適用が認められるケースとして国が統一的に示すべき」という提案をしてきた。
妊娠糖尿病に罹患した女性が将来、糖尿病になるリスクを予防 将来の医療費削減も
岡山大学は、政府が推進しているデジタル田園都市国家構想の先導役として期待されており、規制改革とあわせて推進されている「デジタル田園健康特区」に指定されている岡山県吉備中央町と、2022年に包括的連携協定を締結している。
同大学は、同町が掲げる「誰ひとり取り残されないエンゲージ・コミュニティの創生」の一端を担う、母子健康促進事業の規制改革案件である「妊婦健診をふまえた予防医療の実現と産後ケアの充実」のひとつである、「妊娠糖尿病既往の産後女性のフォローアップ」の課題解決を進めてきた。
さらには、厚生労働省より8月に、産後12週以降に「血糖測定等により医学的に糖尿病が疑われる場合、算定可」という疑義解釈通知が全国の地方厚生局に発出されることになった。
「疑義解釈」は、厚生労働省から都道府県などに発出される、診療報酬の算定の可否や加算の施設基準などの詳細な回答をまとめたもの。診療報酬算定時に発生した疑義についてQ&A形式で記載されている。
これまで日本糖尿病・妊娠学会の協力のもと、同特区のアーキテクト(事業推進者)が所属する岡山大学病院産科婦人科が主導し、内閣府地方創生推進事務局が主催する国家戦略特区ワーキンググループで、規制緩和案件として幾度も議論されてきた。
このほど、デジタル田園健康特区の同町から発出された規制改革提案の第1号として、疑義解釈通知の発表をすることになった。
「妊娠糖尿病に罹患した女性が将来、糖尿病になるリスクを予防し、次の妊娠を望む上でのプレコンセプションケアの一環となるのみならず、将来の医療費削減につながる可能性が高いと考えられ、今回の取り組みは大変意義のある通知と考えられます」としている。
産後女性のフォローアップを行う全国の医療機関や医療従事者の負担も軽減
その結果、日本糖尿病・妊娠学会の協力のもと、アーキテクトが主導した同事業は、吉備中央町から発出された規制改革提案の第1号として、厚生労働省から疑義解釈通知として発表された。
産後12週までに糖尿病が疑われる場合は、管理料算定はすでに可能だが、同学会主導で行ったアンケートでは、妊娠糖尿病の専門家集団である学会のメンバーの既知率でさえ47%と高くないことが課題として示されている。今回はその内容を周知する点も盛り込まれている。
さらには同アンケートでは、妊娠糖尿病などの妊娠中に発症した疾病は、産後12週以降は一見すると値が正常化するため、病名を付けても、精密検査は算定外とされてしまう地域・ケースが多数認められており、地域差が生じているという課題も示されている。
その結果、フォローがなされず、母親の子育てに忙しい時期とも重なり、症状を放置した結果、いつの間にか糖尿病に罹患しているケースが認められるという。
「今回、明確化がなされたことで、妊婦の糖尿病罹患予防に良い契機となるだけでなく、疾病予防により、医療費削減の可能性があり、産後フォローなどの適正な実施が期待できる。加えて、産後女性のフォローアップを行う全国の医療機関や医療従事者の事務的な負担も軽減されるため、同通知により、三方よしの明確化を達成できたことになる」と、研究者は述べている。
岡山大学の那須保友学長は、「本学ではイノベーション創出や社会実装を行う際に、研究・技術シーズだけに頼らず、籠らず、制度改革をきちんと計画に含めて実施している。どれだけ良い研究や技術があったといても、それを制度(社会の仕組み)に組み込まなければ、新しい価値やサービスを社会に提供することはできない。今回もその取組みが皆さまとの共創のもとうまく進みました」とコメントしている。
岡山大学病院 産科婦人科
疑義解釈資料の送付について(その56) (厚生労働省 2023年8月30日)
診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(2022年3月4日保医発0304第1号)(抄) (厚生労働省)
一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会