眼科を受診した糖尿病患者はわずか47% 内科と眼科の連携強化が課題に 眼底検査の実施率は97%と高値 NCGMなど

2023.05.31
 国立国際医療研究センター(NCGM)などは、441万人の糖尿病患者を対象とした分析により、眼科を受診した患者は47%と低い一方で、眼科を受診した患者は97%が眼底検査を受けており、内科から眼科受診の推奨が不十分である可能性があることを明らかにした。

 都道府県別の解析でも、眼科の受診割合は39%~51%、うち眼底検査の実施割合は92%~99%と幅があるものの、同様の傾向がみられ、内科と眼科との連携に関する課題が示された。

 「糖尿病患者の眼科受診割合を改善させるために、内科と眼科との連携を強化し、内科から眼科受診につなげることが重要であることが分かりました」と、研究グループでは述べている。

 研究は、全国で行われた保険診療のほぼすべての情報が含まれている大規模データ「匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)」を用いて、2017年度に糖尿病処方を受けた患者の眼科受診の割合、眼底検査の割合を分析したもの。

441万人の糖尿病患者のうち眼科受診があったのは47.4% 眼底検査の実施は96.9%

 研究は、国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センターの井花庸子氏、杉山雄大室長、東京大学大学院医学系研究科 代謝・栄養病態学の山内敏正教授、虎の門病院の門脇孝院長らの共同研究グループによるもの。研究成果は、アジア糖尿病学会が発行する「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。

 研究グループは今回、「匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)」を用いて、2017年度に糖尿病薬の定期処方を受けた外来患者の眼科受診割合と眼底検査の実施割合を算出し、糖尿病網膜症のスクリーニング実施のプロセスのうち、具体的にどこに課題があるのかを探るため分析を行った。また、都道府県別、日本糖尿病学会認定教育施設としての認定有無別の割合も計算した。

 NDBは、電子化レセプトのほぼすべてを含む大規模データベースであり、医療機関が医療保険者へ向けて発行するレセプト情報と、特定健診・特定保健指導情報の2つの要素を格納している。研究グループは全国の保険診療情報をもとに、眼科受診と眼底検査のプロセスをより詳細に調べた。

 その結果、約441万人の患者のうち、2017年度に眼科受診があったのは47.4%(都道府県別範囲は38.5%~51.0%)で、そのうち眼底検査を実施したのは96.9%(都道府県別範囲:92.1%~98.7%)だった。

 性別・年齢・インスリン使用・糖尿病認定教育施設の有無・病床数で調整した多変量解析では、▼女性、▼高齢者、▼インスリン使用者、▼糖尿病認定教育施設・病床数の多い医療機関で糖尿病薬を処方されている患者で、眼底検査実施割合が高いことが分かった。

糖尿病網膜症スクリーニングのプロセス指標
眼科受診をした患者での眼底実施割合は96.9%と高値であるものの、眼科の受診割合は全体で47.4%と低い

眼底検査実施にいたるプロセス

出典:国立国際医療研究センター、2023年

内科と眼科の連携強化が課題に 糖尿病網膜症スクリーニング実施のさらなる普及を

 今回の結果により、1度でも眼科受診をした患者での眼底実施割合は高値であるものの、そもそも眼科の受診割合が半分未満と低いことが課題であることが浮き彫りになった。

 内科の医師から眼科受診の推奨が適切にできていない可能性があるほか、推奨をされても患者が受診していない可能性も示唆している。

 「糖尿病患者の眼科受診割合を改善させるために、内科と眼科との連携を強化し、内科から眼科受診につなげることが重要であることが分かりました。糖尿病治療ガイドで推奨されている適正な糖尿病網膜症スクリーニング実施のさらなる普及が望まれます。」と、研究グループでは述べている。

 糖尿病網膜症スクリーニングの実施割合を向上するために、眼科受診の必要性についてのさらなる周知や推奨を行い、糖尿病薬を処方している内科と眼科との連携強化をはかることが重要としている。

 研究グループでは、「今後も定期的に糖尿病診療の質指標を測定するとともに、診療の質向上につながる具体的な解決策につながりうる分析を行なっていく予定です。また、合わせて適切な医療政策の立案に役立つ情報を提供していきます」と述べている。

糖尿病は視力障害の原因疾患の第3位 年に1回の眼底検査を推奨

 糖尿病薬や網膜症治療の進歩により糖尿病網膜症による失明は減少しているものの、糖尿病は視力低下による障害者手帳の発行にいたる原因疾患の第3位であり、早期発見によって重症化を防ぐことは大変重要だ。

 日本糖尿病学会編著「糖尿病治療ガイド」では網膜症のスクリーニングとして、年に1回の眼底検査が推奨されているが、これまでの全国調査でも、糖尿病で処方を受けている患者のうち眼底検査を受けている割合は2015年度で半数以下にとどまり、眼底検査の実施割合の向上は課題になっている。

 2023年3月末に発出された厚生労働省医政局地域医療計画課長通知でも、第8次医療計画の「糖尿病の医療体制構築に係る現状把握のための指標例」として「眼底検査の実施割合」が含まれている。

 研究グループによると、現在の日本で糖尿病患者が眼底検査を受けるプロセスとしては、内科の医師から眼科受診を勧められ、受診した眼科の医療機関で眼底検査を受ける流れが主なものだ。

 なお研究は、厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「今後の糖尿病対策と医療提供体制の整備のための研究」(研究代表者:門脇孝)、「糖尿病の実態把握と環境整備のための研究」(研究代表者:山内敏正)の一環で行われたもの。

 糖尿病の患者を定期的な糖尿病薬の処方で定義しているため、食事・運動療法のみで治療を行っている患者での実施割合は調べていないことや、保険診療での眼科受診・眼底検査の実施割合を解析しており、健診での無散瞳カメラや自費診療での眼底検査については今回の解析に含めていないことなどを課題として挙げている。

国立国際医療研究センター(NCGM) 研究所 糖尿病情報センター
Patient referral flow between physician and ophthalmologist visits for diabetic retinopathy screening among Japanese patients with diabetes: A retrospective cross-sectional cohort study using the National Database (Journal of Diabetes Investigation 2023年5月2日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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