SGLT2阻害薬の効果は肥満の有無によって異なる BMIの低い糖尿病患者では心血管予後の改善効果が弱まる 日本の560万人分のビッグデータを解析 京都大学

2024.10.30
 京都大学などは、糖尿病の第1選択薬のひとつとして広く使用されているSGLT2阻害薬が、肥満の有無によって効果が異なる可能性を、日本の約560万人分の医療レセプト・健診データの解析により明らかにした。

 SGLT2阻害薬の心血管予後改善効果はBMIによって異なり、BMIの低い糖尿病患者では、高い患者に比べて、SGLT2阻害薬による心血管予後の改善効果が弱まる可能性が示唆された。

SGLT2阻害薬の心血管予後改善効果は日本の非肥満糖尿病患者では減弱

 SGLT2阻害薬は2010年代に承認された、比較的新しい糖尿病薬で、既存の各種の糖尿病薬に比べて心血管病予防効果を示す知見が蓄積されており、近年は第1選択薬のひとつとして広く使用されている。

 一方で、これまでのSGLT2阻害薬の有効性を示した大規模臨床研究の参加者の大多数は、BMI(体格指数)の平均が30を超える肥満糖尿病患者であり、実際の臨床現場、とくに日本ではBMIが25を下回る糖尿病患者が多くおり、こういった肥満のない患者でも、糖分を尿から排泄するSGLT2阻害薬が効果的なのかは十分に検証されていなかった。

 そこで研究グループは今回、日本の勤労世代を広くカバーする全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約560万人分)を解析。SGLT2阻害薬の心血管予後改善効果が、BMIの違いによって差があるかを調べた。

 データベース上で可能な限り臨床試験を再現する「標的試験エミュレーション」という観察研究の枠組みのもと、日本のSGLT2阻害薬の効果検証を行った。主要評価項目は、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、あるいは心不全の複合とした。

 研究グループは、すでに効果が十分実証されている肥満傾向~肥満(BMI 25以上)の患者で効果が再現されることを確認し、そのうえでBMI25未満の患者で効果検証を行った。

 その結果、SGLT2阻害薬の心血管予後改善効果は、BMIによって異なることが明らかになった。肥満傾向~肥満の患者ではやはりSGLT2阻害薬は有効だったが、BMI 25未満の患者では効果は明らかでなく、BMIの低い糖尿病患者では心血管予後の改善効果が弱まる可能性が示唆された。

 具体的には、SGLT2阻害薬は全集団では主要評価項目の発生率低下と関連していたが[HR 0.92、95%CI 0.89~0.96]、BMIが低~正常の患者では関連がみられなかった [BMI 20未満:HR 1.08、同 0.80~1.46、BMI 20.0~22.4:HR 1.04、同 0.90~1.20、BMI 22.5~24.9:HR 0.92、同 0.84~1.01]。

 対象となった患者は、約28万人でうち8万5,000人が非肥満糖尿病(BMI 25未満)で、平均27.5ヵ月の追跡期間中に8,000人(約3%)に心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞、心不全、死亡)が発生した。

SGLT2阻害薬は肥満傾向~肥満の患者では有効だが、BMIの低い糖尿病患者では心血管予後の改善効果が弱まる可能性
出典:京都大学、2024年

SGLT2阻害薬が心血管病予防作用を期待できる薬剤であることは変わらず
どのような患者に効果が期待あるかを検証する必要が

 研究は、京都大学大学院医学系研究科の森雄一郎氏、井上浩輔准教授、近藤尚己教授、福間真悟教授、柳田素子教授、ボストン大学の古村俊昌氏、ハーバード大学の八木隆一郎氏、安富元彦氏、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のO. Kenrik Duru教授、ワシントン大学のKatherine R. Tuttle教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cardiovascular Diabetology」に掲載された。

 「本研究では、臨床試験には十分に含まれていなかった患者に対して、ビッグデータと最新の観察研究の枠組みを用い、すでに広く使用されている薬剤が必ずしも有効ではない可能性を明らかにした。BMIが25以上の患者では心血管イベントが8%程度減少する効果が認められたが、BMIが低い患者ではその効果は示されなかった」と、研究グループでは述べている。

 「本研究が示したのは、非肥満糖尿病患者全体での平均的な効果であり、SGLT2阻害薬が、これまでの糖尿病薬と比較し心血管病予防作用がとても期待できる薬剤であることは事実だ。しかし、非肥満糖尿病患者のなかでも、具体的にどのような人には注意が必要で、どのような人にはやはり効果が期待できるのか、さらなる検証が必要になる」。

 また、「勤労世代を対象とした本研究は、まだ心血管病を発症していない、リスクステージの早い患者が主な対象となった。すでに心血管病を発症した非肥満糖尿病患者への効果についても、さらなる研究が必要となる。今後、本研究をさらに発展させ、心血管病予防の最適化に資するエビデンスの提供を目指す」としている。

京都大学大学院医学研究科・医学部
Sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors and cardiovascular events among patients with type 2 diabetes and low-to-normal body mass index: a nationwide cohort study (Cardiovascular Diabetology 2024年10月22日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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