レム睡眠不足が認知症を引き起こす レム睡眠中には脳の⽑細⾎管の⾎流が活発に 老廃物を回収し脳をリフレッシュ

2021.09.08
 筑波大学などは、レム睡眠中には脳の⽑細⾎管の⾎流が活発になっており、⼤脳⽪質の神経細胞は、レム睡眠中に活発に物質交換を⾏っていることを明らかにした。
 レム睡眠中での活発な物質交換により、脳がリフレッシュされている。これが少ないとアルツハイマー病などの認知症などのリスクが高まると考えられる。
 レム睡眠中の毛細血管の血流上昇には、カフェインの標的物質でもあるアデノシン受容体が重要であることも解明した。
 アデノシン受容体を標的とする、脳の栄養供給や老廃物除去などの物質交換を活性化する治療法の開発が期待される。

レム睡眠と⼼⾝の健康維持との関係を解明

 筑波大学などは、睡眠中のマウスの脳での毛細血管中の赤血球の流れを観察し、レム睡眠中に大脳皮質の毛細血管への赤血球の流入量が大幅に増加していることを発見したと発表した。レム睡眠中は大脳皮質で活発な物質交換が行われ、脳がリフレッシュされているという。

 脳に必要な血液中の酸素や栄養を送り届け、不要となった二酸化炭素や老廃物を回収する物質交換は、毛細血管を介して行われ、毛細血管の血流は脳の機能維持に重要だ。

 睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠から構成される。これまで、ノンレム睡眠中に成⻑ホルモンの分泌が上昇し、逆にストレスホルモンの分泌が抑えられるなど、ノンレム睡眠が作り出すホルモン環境が⾝体の回復に寄与することが示されてきた。その一方で、レム睡眠と⼼⾝の健康維持との関係はよく分かっていなかった。

 レム睡眠は急速眼球運動(REM)をともなう睡眠で、ノンレム睡眠はこれをともなわない睡眠。これらの2つの睡眠は、脳波や眼電図によって区別できる。ヒトでは、総睡眠時間の8割をノンレム睡眠が、2割をレム睡眠が占める。両者のバランスの異常はさまざまな病気で観察されており、認知症の患者では、発症早期からレム睡眠が減少する。

 研究は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)および京都大学大学院医学研究科の林 悠教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載された。

レム睡眠中の⽑細⾎管の⾎流の⼤幅な上昇を発⾒

出典:筑波⼤学国際統合睡眠医科学研究機構、2021年

レム睡眠が認知症発症の重要な役割を担っている

 近年、レム睡眠時間の割合が少ない成⼈は、アルツハイマー病などの認知症発症リスクや死亡リスクが⾼いという報告が相次いだことから、レム睡眠が認知症発症に何らかの重要な役割を担っていると考えられるようになった。

 そこで研究グループは今回、睡眠中のマウスの脳の血流に着目し、レム睡眠中の脳の状態の解明を試みた。脳の⾎流は、⼼拍出量の15%という⾼い割合を占め、神経細胞に酸素や栄養を届けるとともに、不要な⽼廃物を回収する、物質交換の役割を担っている

 脳の⾎流の失調は、アルツハイマー病などを含む神経変性疾患の進⾏と関わっていると考えられる。しかし、睡眠中の脳の⾎流動態を解明するために、さまざまなアプローチがとられているものの、レム睡眠中の⼤脳⽪質の⾎流の変動に関しては、研究⽅法によって結論が異なっており、またいずれの⽅法でも、実際の物質交換の場である個々の⽑細⾎管の⾎流は観測できていなかった。

睡眠中の脳の毛細血管の赤血球の流れを観測するのにはじめて成功

 研究グループは今回、組織深部の観察ができる「⼆光⼦励起顕微鏡」を利⽤することで、世界ではじめて、睡眠中の動物の脳での⽑細⾎管中の⾚⾎球の流れを直接観測することに成功した。

 ⼆光⼦励起顕微鏡は、⻑い波⻑のレーザー光を⽤いることで、⽣体組織の深部のイメージングを可能とする顕微鏡だ。

 この⼿法で、マウスの⼤脳⽪質のさまざまな領野を観察したところ、いずれの領野でも、⽑細⾎管へと流⼊する⾚⾎球数は、覚醒して活発に運動している時と深いノンレム睡眠中には差がない⼀⽅で、レム睡眠中は2倍近くと⼤幅に上昇することが判明した。

 このことは、レム睡眠中は脳の⽑細⾎管の⾎流が活発になっており、⼤脳⽪質の神経細胞は、レム睡眠中に活発に物質交換を⾏っていることを示している。

レム睡眠中の毛細血管の血流上昇には「アデノシン受容体」が重要

 今回の研究により、成⼈でレム睡眠の割合が少ないと、活発な物質交換が⾏われず、脳の機能低下や⽼化が進み、認知症のリスクが⾼まるものと考えられる。

 また、このようなレム睡眠中の⽑細⾎管の⾎流上昇には、カフェインの標的物質として知られる「アデノシン受容体」が重要であることも明らかにした。

 アデノシン受容体のひとつである化合物A2aRを遺伝的に⽋損したマウスでは、覚醒時やノンレム睡眠中の⼤脳⽪質⽑細⾎管の⾎流には変化がみられなかった⼀⽅で、レム睡眠中には⾎流の上昇はほとんど起こらなかった。

レム睡眠時間と脳の老化や認知機能低下との因果関係の解明を目指す

 今回の研究により、レム睡眠中に脳の毛細血管の血流が上昇することで、栄養供給や老廃物除去などの物質交換が活性化している可能性が示唆された。

 レム睡眠の割合が減少すると、認知症発症リスクや死亡リスクが上昇するのも、こうした物質交換が正常に起こらず、脳細胞の機能低下や老廃物の蓄積が起こるためであると考えられる。

 研究グループは今後、レム睡眠時間の割合と脳の老化や認知機能の低下との因果関係を解明していく予定だとしている。

 また、レム睡眠の割合を効率的に増やす睡眠薬や行動療法の開発による脳の機能低下や認知症の予防、さらに、アデノシン受容体を標的とする、脳の栄養供給や老廃物除去などの物質交換を人為的に活性化して脳機能を高める新たな認知症の治療法開発につなげることを期待している。

 「アデノシン受容体の働きを阻害する物質として知られるカフェインについて、睡眠中の脳での物質交換に及ぼす影響を明らかにすることも、これらの研究を進める上で重要だと考えられます」と、研究グループは述べている。

筑波⼤学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
Cerebral capillary blood flow upsurge during REM sleep is mediated by A2a receptors (Cell Reports 2021年8⽉17⽇)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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