2型糖尿病の併用療法ではインスリンとGLP-1受容体作動薬の効果が高い 4種類の糖尿病薬を比較 GRADE研究

2022.09.29
 2型糖尿病の治療に一般的に使用されている4つの薬剤を直接比較した、米国の36ヵ所の研究センターで5,047人の患者を対象に実施された大規模な臨床試験で、持効型溶解インスリンであるインスリン グラルギンと、GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが、血糖値を推奨範囲に維持するためにもっとも効果的であることが示された。研究は、国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK)による支援を受け行われたもの。

メトホルミンに追加する4種類の糖尿病薬を比較

 2型糖尿病の治療に一般的に使用されている薬剤を直接比較した大規模な臨床試験であるGRADE研究により、持効型溶解インスリンであるインスリン グラルギンと、GLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが、血糖値を推奨範囲に維持するために、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された4つの薬剤のなかでもっとも効果的であることを明らかにしたと、米国国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK)が発表した。研究成果は、「New England Journal of Medicine」に掲載された。

 2013年に開始されたGRADE研究(2型糖尿病治療における主要な血糖降下薬の有効性比較研究)は、メトホルミンとの併用で2型糖尿病の治療を開始した時点で、FDAによって承認された4つの主要な血糖降下薬を比較するために設計され、米国の36ヵ所の研究センターで実施された。

 GRADE研究には、すでにメトホルミンを服用している多様な人種・民族グループの2型糖尿病患者5,047人が登録された。対象者を、4つの治療群にランダムに割り当てられ、平均5.0年間追跡して調査した。

 評価された4つの薬剤は、▼インスリン グラルギン U-100(1,263人)、▼SU薬のグリメピリド(1,254人)、▼GLP-1受容体作動薬のリラグルチド(1,262人)、▼DPP-4阻害薬のシタグリプチン(1,268人)。すべて米国で2型糖尿病治療の第一選択薬となっていたメトホルミンに追加して投与された。なお、SGLT2阻害薬については、GRADE研究の開始時にFDAにより承認されておらず、研究には含まれていない。

 糖尿病治療では、神経障害・腎症・網膜症などの糖尿病合併症のリスクを減少するために、血糖値を正常範囲に維持する必要があり、ほとんどの2型糖尿病患者は併剤療法により長期的な血糖管理を行っている。

 米国の医療専門家のあいだでは、メトホルミンと食事療法・運動療法の組み合わせが、糖尿病治療での早期アプローチとして最良だという合意があるが、高血糖を抑えるために、次にどの薬剤を追加するべきかについてはコンセンサスがない。

 「GRADE研究の目的は、2型糖尿病の長期管理の指針となる情報を提供することであり、これは糖尿病治療をプレシジョン メディシン(精密医療)とするために不可欠なステップとなります」と、NIDDKのプログラムディレクターであるHenry Burch氏は述べている。

 研究は、米国国立衛生研究所(NIH)の国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK)による資金提供を受け実施された。

「メトホルミン+リラグルチド/インスリングラルギン」の併用療法がより効果が高い

4年間で目標HbA1cの達成・維持の効果がより高かったのはインスリングラルギンとリラグルチドだった

メトホルミンに併用する薬剤として、治療目標範囲内にある時間がより長かったのは、インスリングラルギンとリラグルチドだった
出典:国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK)、2022年

 その結果、「メトホルミン+リラグルチド/インスリングラルギン」の併用療法を受けた患者は、「メトホルミン+シタグリプチン/グリメピリド」に比較して、より長く血糖値を目標範囲に維持できた。

 HbA1c値が7.0%以上の累積発生率(一次結果)は、四半期ごとに測定され、4群で有意に異なり(群間の差異のグローバル テストでP<0.001)、グラルギン(100人年あたり26.5)、およびリラグルチド(同26.1)は同等であり、グリメピリド(同30.4)とシタグリプチン(同38.1)よりも低かった。

 HbA1c値が7.5%超の累積発生率(二次結果)の4群の差は、一次結果の差と同様だったが、ベースラインでHbA1c値が高かった対象者では、シタグリプチンよりもグラルギン、リラグルチド、グリメピリドの方がさらに大きな利益があることが示された。

 これは、目標レベルを維持するのにもっとも効果的だったグラルギンは、もっとも効果的でなかったシタグリプチンと比較して、血糖値が目標範囲内にある時間が約6ヵ月長くなることを意味するという。なお治療効果は、年齢、性別、人種、民族性によって違いはなかった。

 研究では、糖尿病関連の心血管疾患の発症に対する治療の効果も調べられた。メトホルミンとGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドの併用療法を受けた群は、他の群と比較して、全体的に心血管疾患を発症するリスクがもっとも低いことが示された。

 重度の低血糖はまれだったが、グラルギン(1.3%)、リラグルチド(1.0%)、シタグリプチン(0.7%)と比較し、グリメピリド(2.2%)で有意に高頻度だった。また、リラグルチドを投与された患者は、他の治療群と比較し、高頻度の胃腸の副作用を報告した。

 さらに、すべての治療群で平均して体重が減少したが、4年間でリラグルチド群は平均3.2kg(7ポンド)減少し、シタグリプチン群では1.8kg(4ポンド)減少し、グラルギン群とグリメピリド群の0.9kg(2ポンド)未満よりも減量が多かった。

2型糖尿病で推奨される血糖目標を維持することの難しさが浮き彫りに

 「研究成果は、個々の患者の血糖コントロールのレベル、投薬に対する忍容性、その他の医療費などの患者の状況に照らして、個々の患者の意思決定プロセスに利用でき、健康アウトカムの改善につながると期待しています」と、Burch氏は述べている。

 「ただし、どの薬剤の組み合わせも、他の組み合わせより圧倒的に優れたものではありませんでした。平均血糖値は研究中に低下しましたが、全参加者のほぼ4分の3である71%が、4年間に血糖値の目標を維持することができず、多くの2型糖尿病患者で推奨される目標値を維持することの難しさがあらためて強調されました」。

 「GRADE研究は、どの薬剤が血糖値の目標を達成し維持するのに、もっとも効果的であったかを効果的に示していますが、許容可能な血糖値を長期的に維持するための、さらに効果的な戦略を確立する必要があります」と、マサチューセッツ総合病院糖尿病センターのDavid M. Nathan所長は述べている。

 「2型糖尿病患者が長期的な血糖管理を達成するのを助けるために、他の介入や治療の組み合わせを評価するなど、やるべきことはまだたくさんあります」としている。

Two popular diabetes drugs outperformed others in large clinical trial (国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所 2022年9月21日)
Glycemia Reduction in Type 2 Diabetes - Glycemic Outcomes (New England Journal of Medicine 2022年9月22日)
Glycemia Reduction Approaches in Diabetes: A Comparative Effectiveness Study (GRADE)
A Comparative Effectiveness Study of Major Glycemia-lowering Medications for Treatment of Type 2 Diabetes (GRADE) (ClinicalTrials.gov)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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