高脂肪食による脂肪肝の発生を防ぐ新たなメカニズムを解明 グルカゴン、GLP-1などプログルカゴン由来ペプチドが脂質代謝で重要 藤田医科大学

2024.10.29
 藤田医科大学は、グルカゴン、GLP-1、GLP-2などのホルモンを含むプログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)が、脂質代謝で重要な役割を果たしていることを解明したと発表した。

 PGDPsをターゲットとした薬剤や栄養療法は、2型糖尿病、脂肪肝や肥満といった代謝性疾患の治療に応用できる可能性があり、腸管での脂質吸収をコントロールするアプローチは新しい治療戦略として有望としている。

脂肪肝などの代謝異常の予防や治療に新たな道

 藤田医科大学は、グルカゴン、GLP-1、GLP-2などのホルモンを含むプログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)が、脂質代謝で重要な役割を果たしていることを解明したと発表した。

 PGDPsが欠損しているマウスでは、高脂肪食を与えると、肝臓で脂肪酸の酸化を促す遺伝子の発現が低下していたが、肝臓や脂肪組織への脂質蓄積が少なく、脂肪肝の発生が抑制された。

 その要因として、PGDPs欠損マウスでは小腸での脂質吸収が低下していることが示され、糞中のコレステロール量が増加していることも確認された。

 GLP-2作用の遮断に加えて、グルカゴン作用を遮断すると、インスリン感受性が良くなり、脂肪肝抵抗性を来したと考えられる。

 また、PGDPs欠損マウスの腸内細菌では、パラバクテロイデスの増加やラクトバチルスの減少など、肥満抵抗性に関与する腸内環境の変化がみられた。

 この発見は、糖尿病研究の最先端技術と腸内細菌研究の解析技術を組み合わせた研究の成果で、高脂肪食(HFD)が引き起こす脂肪肝などの代謝異常の予防や治療に新たな道を開く可能性があるとしている。

 「将来的には、腸内環境をコントロールする素材であるプレバイオティクスなどを活用して、膵・腸ホルモン分泌を制御することができれば、肥満を効率的に抑制できる可能がある」としている。

 研究は、藤田医科大学内分泌・代謝・糖尿病内科学の鈴木敦詞教授、消化器内科学講座、医科プレ・プロバイオティクス学講座の廣岡芳樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nutrients」にオンライン掲載された。

PGDPs欠損マウスで高脂肪食による脂質代謝の変化を調査

 プログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)は、グルカゴン、GLP-1、GLP-2などのホルモンを含み、肝臓、脂肪組織、腸管での脂質代謝を調節する重要な役割を果たしているが、これまでPGDPsがエネルギーバランスや脂肪分解に関与していることは分かっているものの、とくに高脂肪食の摂取により引き起こされる脂質代謝の変化でどのように作用するかは十分に解明されていなかった。

 そこで研究グループは、PGDPsが欠損したマウス(GCGKOマウス)を用いて、高脂肪食による脂質代謝の変化を調べた。PGDPs欠損マウスと対照マウスに、高脂肪食(HFD)を7日間負荷して脂質代謝の変化を検討した。

 実験開始後、マウスに高脂肪食を与え、7日後に肝臓、白色脂肪組織、十二指腸からサンプルを採取し、脂質代謝に関する詳細な分析を行った。肝臓では、脂肪のβ酸化に関連する遺伝子の発現をリアルタイムPCR(qPCR)を用いて測定した。また、肝臓に蓄積されている遊離脂肪酸(FFA)や中性脂肪の量を調べ、どれほどの脂質が蓄積されているかを評価した。

 十二指腸では、脂質吸収に関連する遺伝子の発現を分析し、糞中のコレステロール量を測定することで、腸管での脂質吸収がどの程度行われているかを調査した。さらに、白色脂肪組織でのホルモン感受性リパーゼ(HSL)のリン酸化レベルを測定し、脂肪分解の活性化状態を確認した。

 これらの手法により、PGDPs欠損マウスと対照マウスの脂質代謝での違いを詳細に調べ、とくに肝臓と腸での脂肪酸酸化や脂質吸収の変化を明らかにした。

PGDPs欠損が高脂肪食による脂肪肝や脂肪増加を抑制することを明らかに

 その結果、PGDPs欠損マウスは、肝臓での脂肪のβ酸化・分解が低下しているにもかかわらず、肝臓の遊離脂肪酸(FFA)および中性脂肪の蓄積が抑えられ、脂肪組織の増加も抑制されていた。これにより、PGDPsの欠如が高脂肪食による脂肪肝の発生を防ぐ可能性が示さた。

 さらにPGDPs欠損マウスでは、十二指腸での脂質吸収に関連する遺伝子Cd36の発現が低下し、糞中のコレステロール量が増加していたことから、腸管での脂質吸収が抑制され、脂肪組織重量増加や肝臓でのFFAや中性脂肪の蓄積が抑制されていることが示唆された。

 また、このマウスでは肝臓でのCd36の発現の低下もみられた。PGDPsの欠損は肝臓でのFFA取り込みも減弱している可能性がある。

 さらに、PGDPsの欠如マウスの腸内細菌ではパラバクテロイデスの増加やラクトバチルスの減少など肥満抵抗性に関与する腸内環境の変化が認めれはた。

 今回の研究により、プログルカゴン由来ペプチド(PGDPs)の欠損が高脂肪食による脂肪肝や脂肪組織の増加を抑制することが明らかになった。とくに、腸管での脂質吸収の抑制が、このメカニズムの鍵となっていることが示唆され、PGDPsが脂質代謝で重要な調節因子であることが示された。

GLP-2とグルカゴンの作用の遮断によりインスリン感受性や脂肪肝が改善

 グルカゴンには、基礎代謝亢進作用と肝臓でのβ酸化促進作用があり、GLP-1は摂食抑制作用と腸管からの脂質吸収抑制作用を有することから、現在、グルカゴン/GLP-1受容体作動薬が新規の肥満・脂肪肝への創薬として期待されている。

 一方、GLP-2作用の遮断は腸管からの脂質吸収の抑制作用を有するが、著明なインスリン抵抗性を惹起し、脂肪肝を増悪することが報告されている。

 今回、GLP-2作用の遮断に加えて、グルカゴン作用を遮断すると、インスリン感受性が良くなり、脂肪肝抵抗性を来したと考えられる。また、PGDPs作用が欠損したマウスの腸内細菌を解析したところ、一部肥満抵抗性に関与する腸内細菌の変化を示した。

 「PGDPs作用の欠損が肥満・脂肪肝の治療標的となりうるかが、今後の検討課題であり、PGDPsが具体的にどのように腸での脂質吸収を制御しているかをさらに詳細に解明する必要がある」と、研究グループでは述べている。

 「腸管での脂肪吸収に関わる他の因子や分子メカニズムとの相互作用を調査し、PGDPs欠損がどのように腸内環境や微生物叢に影響を与えるのかを明らかにすることが重要だ。また、今回の実験は短期間(7日間)で行われたため、長期間にわたる高脂肪食の影響についても追跡し、PGDPs欠損が長期的な脂肪肝や代謝性疾患の予防にどのような影響を及ぼすかを調べることも有益だ」としている。

 さらに、このPGDPs欠損モデルを用いた研究から得られた知見をもとに、新たな治療法の開発も期待される。PGDPsの調節をターゲットとした薬剤や栄養療法は、脂肪肝や肥満といった代謝性疾患の治療に応用できる可能性があり、とくに腸管での脂質吸収をコントロールするアプローチは、新しい治療戦略として有望としている。

 「将来的には、腸内環境をコントロールする素材であるプレバイオティクスなどを活用して、膵・腸ホルモン分泌を制御することができれば肥満を効率的に抑制することが可能になるかもしれない。手段のひとつとして、本学で進めているプレバイオティクスを用いた補完治療が有用である可能性が高いと推察される」としている。

藤田医科大学内分泌・代謝・糖尿病内科学
Impaired Fat Absorption from Intestinal Tract in High-Fat Diet Fed Male Mice Deficient in Proglucagon-Derived Peptides (Nutrients 2024年7月14日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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