GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」が日本の肥満症患者対象の試験で有意な体重減少 15mg群で体重が22.7%減少
体重減少は10mg群で17.8%減、15mg群で22.7%減
耐糖能異常の改善は10mg群で92.5%、15mg群で97.8%
日本イーライリリーは、肥満または高度肥満、かつ肥満に関連する健康障害を有する日本人成人を対象に、GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」(製品名:マンジャロ)の週1回投与による有効性と安全性を検討したSURMOUNT-J試験で、チルゼパチド10mg群およびチルゼパチド15mg群のプラセボ群に対する有意な体重減少効果が示されたと発表した。詳細は、10月に横浜で開催された第45回日本肥満学会学術集会で発表された。
* 「肥満に関連する健康障害」は、耐糖能異常、脂質異常症または非アルコール性脂肪性肝疾患のうち、肥満の場合は2つ以上、高度肥満の場合は1つ以上がそれぞれ該当
72週時における体重のベースラインからの平均変化率は、チルゼパチド10mg群で17.8%減、15mg群で22.7%減と、両用量群ともプラセボ群に対する優越性が示された。チルゼパチド群は、体重減少を試験終了時の72週時まで維持した。
SURMOUNT-J試験は、肥満または高度肥満、かつ肥満に関連する健康障害を有する日本人の成人を対象に実施された、第3相多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験。主要評価項目は、ベースラインから72週時の体重の平均変化率、および5%以上の体重減少を達成した試験参加者の割合。
試験参加者は、それぞれプラセボ群、チルゼパチド10mg群、チルゼパチド15mg群の3群に割り付けられ、4週間のスクリーニング期間を経た後、用量漸増期間として1回2.5mg週1回皮下投与から開始、4週ごとに投与量を2.5mgずつ増量した。
それぞれの投与群が規定用量(チルゼパチド10mgまたは15mg)にまで達した時点で投与量を固定し、その後72週の試験終了時点まで投与を継続した。
その結果、72週時の体重のベースラインからの平均変化率は、プラセボ群(n=75)の1.7%減に対して、チルゼパチド10mg群(n=71)は17.8%減、チルゼパチド15mg群(n=76)は22.7%減となり、チルゼパチド両群でプラセボ群に対する優越性が示された。
また、「5%以上の体重減少を達成した試験参加者の割合」は、プラセボ群の20.0%に対してチルゼパチド10mg群は94.4%、チルゼパチド15mg群は96.1%となり、両群でプラセボ群に対する優越性が示された。
さらに、副次評価項目として、72週時の体重がベースラインから7%以上減、10%以上減、15%以上減、20%以上減とそれぞれの達成率を比較したところ、いずれの評価項目でもチルゼパチド両群で、プラセボ群に対する優越性が示された。
同試験では、72週時に肥満に関連する健康障害の改善が認められた参加者の割合についても検討された。耐糖能異常、脂質異常症、および非アルコール性脂肪性肝疾患のうち2つ以上の健康障害が0または1になった参加者(高度肥満の場合は1つ以上の健康障害が0になった参加者)の割合は、プラセボ群 11.1%に対してチルゼパチド10mg群 70.0%、チルゼパチド15mg群 79.7%という結果が示された。
またそれぞれの改善度は、耐糖能異常は、プラセボ群 28.0%に対して、チルゼパチド10mg群 92.5%、チルゼパチド15mg群 97.8%だった。脂質異常症は、プラセボ群 25.0%に対して、チルゼパチド10mg群 72.4%、チルゼパチド15mg群 81.1%だった。非アルコール性脂肪性肝疾患は、プラセボ群 9.8%に対して、チルゼパチド10mg群 69.5%、チルゼパチド15mg群 77.4%だった。
試験中に確認されたすべての有害事象の割合は、プラセボ群(n=75) 69.3%に対し、チルゼパチド10mg群(n=73) 83.6%、チルゼパチド15mg群(n=77) 85.7%だった。うち重篤な有害事象は、プラセボ群 6.7%、チルゼパチド群10mg群 11.0%、チルゼパチド15mg群 6.5%に認められた。
試験期間中にチルゼパチド群で5%以上に認められた有害事象は、COVID-19、便秘、発熱、悪心、下痢、嘔吐、食欲減退、上咽頭炎、背部痛、腹部不快感、頭痛、免疫反応、注射部位反応、関節痛だった。プラセボ群と比較すると、とくに胃腸障害関連事象(便秘、悪心、下痢など)の発現割合が高く認められた。
同研究を主導した、国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長の門脇 孝 先生は、「本試験では、チルゼパチドについて、日本人の肥満症患者に対する有効性および安全性について評価を行った。チルゼパチドが、肥満に起因ないし関連する健康障害や慢性疾患の、発症や悪化のリスクを軽減する可能性が示されたことは、肥満症患者にとって大変意義深いことだ」と述べている。
チルゼパチドは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つの受容体に単一分子として作用する、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。
同剤の構造は、天然GIPペプチド配列をベースとした単一分子だが、GLP-1受容体にも結合するように改変されており、選択的に長時間作用する。
チルゼパチドは日本で、2023年4月に2型糖尿病治療薬「マンジャロ」として発売され、2.5mgから15mgまでの6規格が販売されている。日本で承認されているチルゼパチドの適応症は「2型糖尿病」のみとなっている。