糖尿病患者は無症候性心血管疾患が多い 糖尿病のない成人の2倍 死亡リスク上昇に関連
無症候性心血管疾患が糖尿病患者の死亡リスクを押し上げている 心臓バイオマーカーを用いて無症候性の心血管疾患(CVD)の有無を判定し、予後との関連を検討した結果が、「Journal of the American Heart Association」に5月31日掲載された。糖尿病患者では、無症候性CVDが他の危険因子を調整後にも、死亡リスクの上昇と独立した関連が認められたという。米ジョンズ ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のMichael Fang氏らが報告した。
CVDは先進諸国における主要な死因の1つであり、特に糖尿病患者ではCVD死が多いことから予防的介入が重視されている。米国糖尿病学会(ADA)は2022年のコンセンサスレポートで、高感度心筋トロポニンT(hs-cTnT)やN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)などのバイオマーカーを用い、CVDイベント発生前段階で無症候性CVDをスクリーニングすることを推奨している。これらを背景にFang氏らは、hs-cTnTやNT-proBNP高値で抽出された無症候性CVD患者は、実際に生命予後が不良なのか否かを検討した。
研究には、1999~2004年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを用いた。解析対象は、CVDの既往のない成人1万304人。hs-cTnTが14ng/L以上、またはNT-proBNPが125pg/mL以上の場合を無症候性CVDと定義すると、糖尿病患者では33.4%が該当し、糖尿病のない成人の16.1%に比べて約2倍の割合だった。なお、hs-cTnTとNT-proBNPがともに高値である者の割合は、糖尿病患者群では9.1%、非糖尿病群では2.8%だった。
交絡因子(年齢、性別、人種/民族、BMI、喫煙習慣、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病)を調整後、糖尿病患者群ではhs-cTnT高値者が非糖尿病群の約2倍多いという結果が得られた〔オッズ比(OR)1.98(95%信頼区間1.48~2.65)〕。糖尿病患者群におけるhs-cTnT高値者の割合は、糖尿病罹病期間が長い患者、血糖コントロールが不良の患者でより高かった。
前記の交絡因子を調整後、hs-cTnTやNT-proBNPが高値であることは、以下に記すように、糖尿病患者の全死亡リスクの上昇に独立して関連していることが明らかになった。hs-cTnT高値ではハザード比(HR)1.77(同1.33~2.34)、NT-proBNP高値ではHR1.78(1.26~2.51)。また、糖尿病患者のCVD死リスクに対しても、NT-proBNP高値は独立した関連が認められた〔HR2.46(1.31~4.60)〕。hs-cTnT高値と糖尿病患者のCVD死との関連は、有意水準未満だった〔HR1.54(0.83~2.85)〕。
著者らは、「米国の成人糖尿病患者の約3人に1人は無症候性CVDを来しており、死亡リスクの高い状態にある。心臓バイオマーカーを利用した定期的な検査が、糖尿病患者のリスク評価とモニタリングに役立つ可能性がある」と結論付けている。また、「糖尿病患者ではコレステロールプラークの蓄積とはかかわりなく冠動脈微小血管にダメージが生じているとしたら、コレステロール低下薬のみでは心筋障害を十分に防ぐことはできない。われわれの研究結果は、糖尿病患者のCVDリスクをより低下させるには、スタチン以外の治療を追加する必要があることを示唆している」と付け加えている。
なお、1人の著者が、バイオ医薬品企業との金銭的関係の存在を明らかにしている。また、研究で用いられた試薬は、各試薬メーカーから提供された。
[HealthDay News 2023年6月5日]
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