【新型コロナ】腎障害患者にもレムデシビルを使用 薬物動態モデルを構築し、腎機能に応じた投与量設計を提案

2021.12.07
 京都大学は、新型コロナの治療薬として特例承認されたレムデシビルについて、腎障害患者で活性代謝物の血中濃度を測定し、薬物動態モデルを構築したと発表した。腎機能に応じた投与量設計を提案できるようになるとしている。

 研究成果は、レムデシビル投与がどうしても必要な重度の腎機能障害患者への、より安全な薬物治療の提供につながるとしている。

腎障害患者にもレムデシビルを使用せざるをえない

 レムデシビルは、2020年5月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して特例承認された薬剤。全世界的に使用経験が乏しいため、さまざまな疾患を併存する患者の体内動態情報は不足している。京都大学医学部附属病院では、併存疾患を有するCOVID-19患者の治療を行い、そのなかでレムデシビルを使用してきた。

 レムデシビルの、とくに腎機能障害などをもつ患者での薬物動態に関する情報は不足している。添付文書では、重度の腎機能障害患者への投与について「推奨しない。治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与を考慮すること」と記載されている。

 しかし、実臨床では急性腎障害を生じている患者も多く、急性腎障害や末期腎不全の患者はCOVID-19の重症化リスクが高いという報告もある。そのため、レムデシビルを必要としている腎機能障害患者も多数いると考えられる。

 同院では、併存疾患をもつなど、難しいCOVID-19患者の治療を行っており、なかにはレムデシビルを使用する患者が多くいた。そこで、同院の研究グループは、島津製作所との共同研究で、腎障害などを有する患者で、レムデシビル活性代謝物の血中濃度を測定し、体内動態の個体間変動へ影響を与える因子の解明を試みた。

 研究は、京都大学医学部附属病院薬剤師の助石有沙美氏、薬学研究科の米澤淳准教授、医学研究科の伊藤功朗准教授らの研究グループ(医学部附属病院薬剤部(薬学研究科)、呼吸器内科、集中治療部、腎臓内科、初期診療・救急科)が、島津製作所と共同で行ったもの。研究成果は、「CPT:Pharmacometrics & Systems Pharmacology」にオンライン掲載され、また11月に開催された第69回日本化学療法学会西日本支部総会で、第16回日本化学療法学会西日本支部支部長賞臨床部門を受賞した。

腎機能に応じた投与量設計法を提案 推定糸球体濾過量から予測

 研究グループは、同院でレムデシビルが投与された37人の患者の血液を採取し、レムデシビルの活性代謝物であるGS-441524の血中濃度を測定した。

 その結果、腎機能障害患者では腎機能正常患者と比較してGS-441524の血中濃度が高いことが分かった。また、体外式膜型人工肺(ECMO)が挿入された患者では、より高用量のレムデシビルが必要かもしれないと考えられていたが、ECMOを挿入していない患者と同じ投与量でも血中濃度に差はない可能性が示唆された。

腎機能障害患者ではレムデシビルの代謝物の血中濃度が高くなる

出典:京都大学医学部附属病院、2021年

 収集した血中濃度データから母集団薬物動態解析を行った。この手法は、患者を集団と捉え、薬物が投与されてから排泄されるまでの体内の過程をモデル化し解析するもの。

 続けて、GS-441524のクリアランスに影響を与える因子として推定糸球体濾過量を同定した。さらに、推定糸球体濾過量からGS-441524の血中濃度を予測するモデルを確立した。

 高い血中濃度は副作用のリスクとなりえることから、このモデルを用いてシミュレーションを行い、腎機能に応じた投与量設計法を提案した。

出典:京都大学医学部附属病院、2021年

重度の腎障害患者でより安全にレムデシビルを投与できる可能性

 このように、添付文書では、重度の腎機能障害患者に対するレムデシビルの投与は治療上の有益性が危険性を上回る場合を除いて推奨されていないものの、今回の研究で確立したモデルにもとづく投与量設計により、レムデシビルを使用せざるをえない重度の腎機能障害患者で、より安全にレムデシビルを投与できる可能性が示唆された。

 腎機能の指標である推定糸球体濾過量を組み込んだモデルの確立は世界ではじめてであり、今後、腎機能障害など特殊な背景をもつ患者に対するレムデシビルの最適な個別化治療につながることが期待される。

 なお、今回の研究結果を解釈するうえで現時点ではいくつかの注意点があります。「まず、レムデシビルの他の代謝物や腎障害のリスクとなる添加剤の血中濃度を測定できていません。また、検討した症例数、特に重度腎機能障害患者やECMO挿入患者の数が少なく、多数例でのさらなる検討が必要であると考えています」と、研究グループでは述べている。

 「新型コロナウイルス感染症が流行しはじめた頃からコロナ病棟担当の薬剤師として携わってきました。情報が少ないからこそ、安全で効果的な薬物治療とは何なのかと模索し、もどかしく感じることも多々ありました。今回の研究の成果もまだまだ少ない症例での報告ですが、患者さんにとって最適な薬物治療を行う上での一助となることを期待しています」とコメントしている。

京都大学医学部附属病院
Population pharmacokinetic modeling of GS-441524, the active metabolite of remdesivir, in Japanese COVID-19 patients with renal dysfunction(CPT: Pharmacometrics & Systems Pharmacology 2021年11月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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