糖尿病患者のスタチン療法の早期開始が心血管疾患リスクを大幅に低下 患者の5分の1はスタチンを拒否

5分の1の患者は最初は「スタチン治療拒否」 その影響は?
糖尿病患者に対してスタチン療法を適切な時期に開始すると、心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスクが大幅に低下するという調査結果を、米マサチューセッツ総合病院ブリガムが発表した。
研究は、同病院の糖尿病品質担当ディレクターでありハーバード大学医学部准教授(内分泌学・糖尿病・高血圧)のAlexander Turchin氏らによるもので、研究成果は「Journal of the American Heart Association」に掲載された。
スタチン薬の使用は、コレステロール値を下げ、心血管イベントのリスクを軽減する効果的で安全、さらには低コストの治療法として定着している。一方で、多くの医師は糖尿病患者へのスタチンの投与を推奨しているにもかかわらず、米国では患者の5分の1で治療の遅れがみられるという。
そこで同病院の研究グループは、同病院の電子医療システムに2000~2018年に登録された、糖尿病があり、動脈硬化性心血管疾患の既往歴のない成人患者を追跡調査した後ろ向きコホート研究を実施した。主要評価項目は、心筋梗塞と虚血性脳卒中の複合発生率とした。
対象患者7,239人の年齢の中央値は55.0歳で、52.0%が女性だった。血糖値の指標であるHbA1cの中央値は6.9%だった。
対象患者は、約20年の期間中に最終的にスタチン療法を開始しており、うち17.7%(1,280人)でスタチン療法の平均±標準偏差で2.7±3.1年の遅延がみられた。約5分の1(17.7%)は、最初に臨床医からスタチン療法を勧められたときにはそれを拒否したが、その後、臨床医からの再度の勧めを受けて、スタチン療法を受け入れた(平均1.5年後)。また、スタチン療法の遅延のあった患者は、LDLコレステロールの平均値が高かった[126.4mg/dL 対 99.2mg/dL、P<0.001]。
スタチンをすぐに開始した患者は心筋梗塞と脳卒中が3分の1減少
臨床医と患者のあいだの意思決定が重要
その結果、心筋梗塞および虚血性脳卒中の10年累積発生率は、スタチン療法をただちに開始した患者で6.4%であったのに対し、遅延のあった患者では8.5%だった[P=0.001]。
人口統計学的特性および併存疾患を考慮した多変量解析により、非スタチン療法は心筋梗塞および虚血性脳卒中の独立した危険因子になることが示された[ハザード比(HR) 1.49、95%CI 1.16~1.90、P=0.002]。また媒介解析では、高LDLコレステロールの患者ほど、心血管系有害イベントの発生率が高くなることが示された[HR 1.62、同 1.46~1.80、P<0.001]。
「スタチン療法をすぐに開始した患者は、開始を遅らせた患者と比較して、心筋梗塞と脳卒中の発症率が3分の1減少したことが示された。この結果は、臨床医と患者のあいだでの意思決定のための対話が必要であることを示している。心筋梗塞と脳卒中は、依然として糖尿病患者の合併症と死亡の主な原因になっている」と、Turchin氏は言う。
「私は糖尿病患者を定期的に診察しており、スタチンが適合する患者全員にスタチン療法を推奨している。生活習慣改善のための指導や他の薬の処方を優先したいなどの理由で、スタチン療法の開始が遅れる患者もいるが、コレステロールを下げる効果は、他の治療法は早期のスタチン療法に比べ優れていない。心臓と脳の健康のためには、時間は非常に重要になる」としている。
「糖尿病患者の脂質異常に対するスタチンの投与は、心血管イベントの抑制と生命予後の改善に有効であることが示されている。今回の研究でも、糖尿病患者でスタチン療法の開始を遅らせることは心血管疾患リスクの有意な上昇と関連していた。この関連は、LDLコレステロール値の上昇によって媒介されていた」。
「臨床医は、糖尿病患者に対するスタチン療法の遅延に関連する心血管リスクの増大を認識し、この情報を活用して患者との意思決定の話し合いを良好に進めるべきだ」と、Turchin氏は指摘している。
Timely Initiation of Statin Therapy for Diabetes Shown to Dramatically Reduce Risk of Heart Attack and Stroke (マサチューセッツ総合病院ブリガム 2025年5月21日)
Impact of Statin Nonacceptance on Cardiovascular Outcomes in Patients With Diabetes (Journal of the American Heart Association 2025年5月13日)