サルコペニアのリスクを低減する運動は高齢期だけが課題ではない 若年期の運動経験も影響 順天堂大学

2023.04.18
 順天堂大学は、中学・高校生期と高齢期の両方の時期に運動習慣がある高齢者は、サルコペニアや筋機能低下のリスクが低いことを明らかにした。

 高齢期だけでなく、その数十年前の中学・高校生期に運動することが、サルコペニアや筋力・身体機能の低下のリスクを低減するために重要であることが示された。

 若い頃に参加しやすい運動やスポーツの機会を増やしていくことが、将来の健康長寿社会の創出につながることが示唆された。研究は、順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターで実施しているコホート研究「文京ヘルススタディー」の成果。

高齢期のサルコペニア予防のための運動はどの年齢で行うと良いか?

 サルコペニアは、加齢や疾患により、骨格筋の筋量や筋力などの骨格筋機能が著しく低下し、身体機能に障害が生じた状態で、日常生活動作の制限や、転倒・骨折など要介護につながるさまざまな悪影響を引き起こす。

 超高齢社会に直面している日本では、長期介護・寝たきりが社会問題化しており、要介護の主要なリスクであるサルコペニアの予防は重要な課題となっている。

 日本を含むアジア人は欧米人に比べ、BMIの低いやせ型の人が多く、生来の骨格筋量が少ないため、アジア人の高齢者はサルコペニアにおちいりやすいと考えられている。

 運動は、骨格筋機能を維持・改善できるため、サルコペニアの予防に有効だが、生涯のいずれの時期の運動実施が、高齢期の骨格筋機能の維持、すなわちサルコペニアを予防するためにより有効であるかは十分に解明されていなかった。

 骨格筋機能は20~25歳でピークを示し、50歳前後から徐々に低下していくことから、ピークを高める中学・高校生期と、低下を抑える高齢期での運動実施が、サルコペニアの予防により重要な運動実施時期である可能性がある。

中学・高校生期と高齢期の両方の時期で運動習慣がある高齢者はサルコペニアのリスクが低い

 そこで研究グループは、東京都文京区在住の高齢者1,607人を対象に調査を実施。中学・高校生期および高齢期の運動習慣とサルコペニアおよび骨格筋の筋量低下、筋パフォーマンス低下との関連について検討した。

 その結果、中学・高校生期と高齢期の両方の時期で運動習慣がある高齢者では骨格筋機能が高く、サルコペニアのリスクが低いことが明らかとなった。

 男性では、中学・高校生期と高齢期のいずれもでも運動習慣を有する人は、両時期で運動習慣を有さない人に比べて、サルコペニアの有病率が0.29倍、筋量低下の保有率が0.21倍、筋力・身体機能低下の保有率が0.52倍低いことが示された。

 女性では、サルコペニアの有病率に差はみられなかったものの、中学・高校生期と高齢期のいずれも運動習慣を有する人は、両時期で運動習慣を有さない人に比べて、筋力・身体機能低下の保有率が0.53倍低いことが示された。

男性では、中学・高校生期と高齢期(現在)の両方で運動習慣をもつ群で、両方の時期に運動習慣をもたない群に比べ、サルコペニアのオッズ比が0.29倍と低くなった。

女性でも、中学・高校生期と高齢期(現在)の両方で運動習慣をもつ群で、両方の時期に運動習慣をもたない群に比べ、筋力・身体機能の低下のオッズ比が0.53倍と低くなった。

年齢、BMI、教育年数、喫煙歴、タンパク質摂取量、2型糖尿病の有無、心血管疾患の有無、骨粗鬆症の有無、若年期から中年期の運動習慣指数で調整
出典:順天堂大学、2023年

高齢期だけでなく数十年前の中学・高校生期の運動経験も重要

 「文京ヘルススタディー」は、順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターが2015年から取り組んでいる、東京都文京区民1,629人の高齢者を対象とした、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのかや、「どのように」早期の発見・予防が可能になるかなどを明らかにするための観察型コホート研究。

 研究は、同センターの田端宏樹氏、田村好史先任准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」にオンライン掲載された。

 今回の研究では、男性は、中学・高校生期と高齢期の両方の時期に運動することで、サルコペニアのリスクを低減できる可能性が明らかになった。また、女性でも、中学・高校生期と高齢期の両方の時期に運動することにより、高齢期の筋力・身体機能の低下リスクを低減できる可能性が示された。

 「本研究の興味深い点は、高齢期の運動だけでなく、数十年前の中学・高校生期の運動が高齢期の骨格筋機能の維持に関連している可能性を示している点です。研究成果は、若い頃の運動の長期的な意義を示唆しており、若い頃に参加しやすい運動やスポーツの機会を増やしていくことが将来の健康長寿社会の創出につながると期待されます」と、研究者は述べている。

 昨今、少子化や働き方改革などにより学校における部活動の在り方が変わり、中学・高校生期に運動に取り組む機会が減少してきている。実際にスポーツ庁の調査では、2009年~2018年に、中学生の運動部活動所属者が約13.1%減少したと報告されている。

 「今回の研究により、中学・高校生期と高齢期の運動が骨格筋機能に良い影響を与えうることが示唆されましたが、それぞれの時期にどのような運動をどれくらい行うことが必要かなど、まだ不明の点が多く残されており、今後さらなる研究を進めていきます」としている。

日本における介護予防や健康寿命の延伸の観点から有益な情報に

 研究グループは今回、「文京ヘルススタディー」に参加している65~84歳の高齢者1,607人(男性679人、女性928人)の骨格筋機能指標(骨格筋量、握力、脚伸展・屈曲筋力、最大歩行速度、血中マイオカイン濃度)、および質問紙を用いた運動習慣調査のデータを用いて解析を行った。

 サルコペニアについては、アジア人のためのサルコペニアの診断基準「AWGS2019」の診断基準を参考に、握力(男性<28kg、女性<18kg)、DXA法による骨格筋量(男性<7.0kg/m²、女性<5.4kg/m²)、最大歩行速度(男性<1.46m/s、女性<1.36m/s)で診断した。

 中学・高校生期の運動習慣の有無と現在(高齢期)の運動習慣の有無とで4群に分け、サルコペニアの有病率、サルコペニアの診断要素の保有率および骨格筋機能指標を比較した。

 「サルコペニアのリスク低減により有効な運動を実施すべき重要な時期を示唆した本成果は、日本における介護予防や健康寿命の延伸の観点から、極めて有益な情報であると考えられます」と、研究グループでは述べている。

順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンター
文京ヘルススタディー
Effects of exercise habits in adolescence and older age on sarcopenia risk in older adults: the Bunkyo Health Study (Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2023年4月13日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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