SGLT-2阻害薬が2型糖尿病患者の認知症リスクを35%低下 DPP-4阻害薬と比較 治療期間が長いほど高効果
SGLT-2阻害薬に脳神経を保護する効果?
DPP-4阻害薬と比較し認知症の発症リスクが35%低下
研究は、韓国のソウル大学病院内科のAnna Shin主任研究員、内分泌科のBo Kyung Koo教授、精神科のJun Young Lee教授、内科のEun Ha Kang教授らによるもの。研究成果は、「British Medical Journal」に掲載された。
研究グループは今回、韓国国民健康保険サービスの2013~2021年の診療データを解析し、SGLT-2阻害薬あるいはDPP-4阻害薬のいずれかの投与を開始した、40~69歳の2型糖尿病の成人11万0,885例の傾向スコアペアを比較した。
主要評価項目は、認知症の新規発症で、副次評価項目は、薬物治療を必要とする認知症、アルツハイマー病、血管性認知症などの個々のタイプの認知症だった。対照評価項目は、性器感染症(陽性)、変形性関節症関連の臨床的診察、白内障手術(陰性)だった。
SGLT-2阻害薬あるいはDPP-4阻害薬の投与を開始した、傾向スコアが一致する2型糖尿病患者を平均670日間(標準偏差 650日間)追跡調査した。期間中に新規に認知症と診断された患者は1,172人だった。
その結果、認知症の発症率は、SGLT-2阻害薬群で100人年あたり0.22、DPP-4阻害薬群で0.35となり、SGLT-2阻害薬を使用している患者はDPP-4阻害薬を使用している患者に比べ、認知症の発症リスクが低いことが示された。
ハザード比(HR)は、認知症で35%低下[HR 0.65、95%CI 0.58~0.73]、薬物治療を要する認知症で46%低下[同 0.54、同 0.46~0.63]、アルツハイマー病で39%低下[同 0.61、同 0.53~0.69]、血管性認知症で52%低下[同 0.48、同 0.33~0.70]になった。
対照アウトカムのHRは、性器感染症で2.67[95%CI 2.57~2.77]、変形性関節症関連の受診では0.97[同 0.95~0.98]、白内障手術では0.92[同 0.89~0.96]になった。
白内障手術によって測定された残留交絡因子で補正すると、認知症のHRは0.70[95%CI 0.62~0.80]なり、この関連性は、治療期間が2年を超える患者[認知症のHR 0.57、95% CI 0.46~0.70]の方が、治療期間が2年以下の患者[同 0.52、同 0.41~0.66]よりも大きく、この傾向はサブグループ間でも持続した。
「SGLT-2阻害薬の使用は認知症リスクの低下と関連しており、治療期間が長いほどその効果は大きくなる可能性が示されたが、今回の研究は観察研究であり、因果関係について結論は出ていない。交絡因子が残存したり情報打ち切りが発生しやすいため、効果サイズが過大評価されている可能性もある。これらの関連を確認するために、将来的にランダム化比較試験を行う必要がある」と、研究者は結論している。
2型糖尿病患者は認知症のリスクが60%高く、アルツハイマー病と血管性認知症の両方を発症しやすいことが報告されている。2型糖尿病と認知症を結び付けるメカニズムは多因子であり、インスリン抵抗性、低血糖エピソード、血管障害などが関係しており、これまで特定の血糖降下薬が、糖尿病患者に神経保護効果をもたらす可能性が示唆されていいた。
SGLT-2阻害薬は、血糖降下作用に加えて、心腎の保護効果があることが知られており、これまでに血液脳関門を介した薬剤の浸透、脳組織でのSGLT-2阻害、脳内でのコリンエステラーゼの直接阻害、間接的な心臓代謝の改善などのベネフィットにもとづき、脳の神経を保護する効果が示唆されている。
「SGLT-2阻害薬の神経保護効果の根底にあるメカニズムを探る研究も必要。現時点では、認知症の有効な治療選択肢もほとんどないため、発症を予防する可能性のある戦略が極めて重要だ」と、研究者は述べている。
Certain diabetes drugs might prevent dementia (BMJ Group 2024年8月28日)
Risk of dementia after initiation of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors versus dipeptidyl peptidase-4 inhibitors in adults aged 40-69 years with type 2 diabetes: population based cohort study (British Medical Journal 2024年8月28日)